椿の香りはクレアも気に入ったようでした
「とりあえず、最低限根っこが危険かどうかは後でレオに確認してもらうとして……」
視界の隅で、ミリナちゃんに頼む俺を見たニックが、何やら期待している様子になっているが、多分何かを頼まれる事を期待しているんだろう。
けどニックには、この屋敷とラクトスを往復して薬草や薬をカレスさんの店に運ぶという仕事があるため、頼めない。
それはともかく、毒とか人に害をなす効能がある可能性もあるので、一応レオには見て嗅いでもらうのは必要だ。
全てをレオが判別する事ができるわけじゃないと思うけど、俺達だけで判断するよりは安全性が高くなると思うからな。
あと、根っこ以外に採取した物もだな。
状態変化で見た目とかが変わらなくても、椿油以外に何かしらの効果効能がある可能性もあるから。
「よし、椿の方もこれくらいかな……結構、多くの人が椿の花の香りを気に入った、のかな?」
「はい、タクミさん。とてもいい香りがします」
俺が渡した椿の花の香りを堪能しながら、微笑んでいるクレア。
他にも、エルケリッヒさんや使用人さん、従業員さんの多くが香りを楽しんでいるようだ。
さすがに全員じゃなく、一部の人は花を手放しているけど……嫌そうな表情の人はいないので、臭いという感想はなさそうだ。
好みは人それぞれだけど、はっきり好き嫌いが別れる癖のある香りじゃないって事だろう。
「気に入ってくれて良かったよ。そのままになるかはわからないけど、もし俺が想像しているような椿油に近い物ができたら、その香りの物ができると思うよ」
「その椿油というのが、髪に使えるんですよね?」
「そうだね。髪だけじゃなく、肌にも使えたと思うけど……基本的には綺麗な髪を維持するための物って、考えていていいと思う」
化粧水のようにも使えるはずだから、用途は髪には限られないけど、一応主目的は髪油としての使用する物を作れればと考えている。
まぁ、作るのは俺じゃなくてユートさんの人脈とやらに任せっきりになってしまうけど。
「ふふ、楽しみです」
「俺も楽しみかな。クレアがもっと綺麗になるわけだし……」
ちょっとだけ、からかいの意味も込めて言ってみる。
冗談めかしてはいるけど、本音でもあるけど。
「もう、タクミさんったら……!」
途端に頬を染めて照れるクレアは、周囲に多くの人がいるにもかかわらず、思わず抱き締めたくなるほど可愛かった。
「それじゃ、ジュウヤクに続いてこちらもお願いします」
「うん、承ったよ。少し時間はかかるだろうけど、必ずタクミ君の望み通りの物を作ってみせるよ! 作るのは僕じゃないけどね」
クレアと話した後、ジュウヤクを送る手配をして戻ってきたユートさんに、採取した椿を渡す。
当然だけど、何か特殊な方法で送るわけではなく、郵便や宅配便などがないこの世界では、使用人さんや兵士さんに任せて指定した場所や人に届けてもらう事になるそうだ。
一応、行商人などがお金で請け負ってくれる事もあるそうだけど、安全性に欠けるため一般ならともかく、ある程度お金や地位のある人はもっぱらユートさんと同じ方法取るのだそう。
……人を乗せて運ぶだけじゃなく、荷物や手紙だけでもフェンリル便は需要がありそうだなぁ。
「さーて、どの人にお願いしようかな~」
なんて呟きつつ、渡した椿を持って屋敷に入っていくユートさん。
それを見送った後、エッケンハルトさん、エルケリッヒさん、ルグレッタさんが微妙な表情をさせて俺に近付いてきた。
「タクミ殿、この屋敷で新しい物を作り出すため……とかではなかったのか」
「え、あ、はい。俺の能力だけで作れなさそうだったので、お願いしました。薬というわけでもないので、ミリナちゃんに調べてもらうわけにもいきませんし……」
薬の製作もあるため、ミリナちゃんに手間を掛けさせるわけにもいかないからな。
一応ジュウヤクを作る事の交換条件でもあるし、手っ取り早く椿油を一応は知っている人に任せた方が、人脈とやらでなんとかしてくれそうだったからというのもある。
あと、出来上がった物をいつか商品として販売するとしても、大量に生産するには人手が足りなさすぎるからな。
「そうか……ユート様を頼ってしまったのか」
「え……その言い方って、エルケリッヒさん。もしかしていけませんでしたか?」
目頭を押さえながら、悩むように言うエルケリッヒさん。
ユートさんとは親しく話させてもらっているけど、経歴を考えると軽々しく頼っていい人じゃないのもかも……と思ったが。
「いや、いけないわけではないのだがな。ユート様がやる気になっているとなると……ルグレッタ殿、相当な地位の者が巻き込まれると思うのだが。どうだろう?」
「そうですね……少なくとも、貴族や王族ですら頼るのを躊躇う人が巻き込まれるかと。閣下はそれでなくても、無自覚に巻き込む体質の人ですから。まぁ、大事になるようには巻き込まないのが唯一の救いかもしれません」
「えっと、貴族や王族でも躊躇う人って……」
首を振ったエルケリッヒさんが、ルグレッタさんに問いかける。
腕を組んで少し考えた後、ルグレッタさんが答えてくれたけど……貴族とか王族が躊躇うような相手ってなんだろう。
巻き込み体質っていうのは、なんとなくわからなくもないからいいんだけど。
「まぁ、地位としては高くなくとも、資金力、名声などなどが貴族、王族に見劣りしない人物とかだな。ユート閣下の事だから、他国の重鎮とかにも顔が効くだろう」
「他国の重鎮……」
この国だけでなく、他の国にも波及する可能性があるって事か。
俺が考えていたよりも、ユートさんに頼むというか人脈を使ってもらうのは大事らしい。
よくよく考えれば、考えられない程長く生きているだけでなく、国を興したり他にも色々してきた人だ……他国も含めて想像できないような、凄い人と関りを持っていてもおかしくないか。
一応、念のためにどういう人が関わる可能性があるのか、聞いてみた。
「誰が、とまでは断定できないが……」
眉根を寄せて険しい表情のエッケンハルトさんが言うには、国内でも有数の商売網を持つ商人……それも、そこらの貴族に負けない程の資金力を持つ人物。
その人物のうち誰かか、もしくは全員か。
歴史的な開発などをして称えられている人物とか、そういった人達が関わる可能性があるのだとか。
ただ、軍事利用とか政治利用できるようなものではなさそうなので、他国の重鎮が巻き込まれる事はおそらくない、かもしれないけど保証はできない、という事だった――。
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