いくつかの椿を作って採取しました
「あ、そうだ。こういう時はレオに……って、まだジュウヤクの匂いを嗅いでいるのか」
強い匂いが発生しないとわかって、屋敷の中から様子を見守っていた皆がぞろぞろと出て来る中、こういう時はレオに危険かどうかを調べてもらおう……と思ってそちらに顔を向ける。
すると、先程ジュウヤクの処理を終えて土がこんもりと盛り上がった地面を、両前足で挟むように、抱え込むような恰好で伏せをしたレオが、地面に向けた鼻先をひくつかせていた。
「スンスン、ワフ~」
「……変な匂い成分があったりしない、よな?」
「ワウ!? ワッフワフワウ!」
「ははは、そうか。まぁレオがそう言うならそうなんだろうな」
ご満悦な様子だけど、猫にまたたび、犬にイヌマン……の方はあまり有名じゃないけど、ミミズだし。
とにかく、それに近い効果や怪しい成分があったりしないかと不安になり、聞いてみると全力で否定するレオ。
ただ匂いが好きなだけらしい……まぁ、イヌマンも犬が好む傾向がある匂いなだけで、特殊な効果があるわけじゃないし、似たようなものなんだろうな。
ちなみに、人が興味本位でイヌマンを嗅ぐのはやめておいた方が無難だ、単純に臭いから。
「とりあえず、後にしよう」
ご満悦のレオに、椿の根を持って行って邪魔しちゃ悪いし、急ぐわけでもないからまた後にしておいて。
もう一度、椿を『雑草栽培』で作る。
今度は、花を咲かせる前の蕾の状態で採取できるようにしたり、実や種も採取できるように試すためだ。
菜種油という食用油があるように、種や実から油が抽出できる可能性を考えてだ。
蕾はついでではあるけど、できるだけ可能性は広げたいから念のためな。
ちなみに、既に先程採取し終わった椿の花は、俺達を取り囲むようにして見学している皆に渡して、香りを楽しんでもらっている。
そのままになるかは保証できないけど、椿油ができるとこういった香りの髪油や、手の肌荒れなどに使うハンドクリームができるかもしれない、という見本みたいなものだ。
ハンドクリームとか手に使う化粧水は今のところないみたいだけど、髪油は現状使われている物は好みの別れる匂いらしいから、それと比べてもらう意味もある。
椿をいくつか作って、花が咲く前の蕾や、実を付けるまで成長させて採取していく。
『雑草栽培』は、地面から手を離さない間は成長を続けるみたいなんだが、一度離してしまうと再び触れてもそこから成長する事はなく、状態変化としての能力を発揮してしまう。
だから、それぞれの状態で採取する時には、別々に用意する必要があるのが少し不便なところだ。
そもそも、何もないはずの地面から植物が生えるという現象の時点で、便利すぎるからそれくらいの不便さは気にならないけど。
「うぉ!?」
「師匠!?」
「アニキ!?」
「だ、大丈夫。驚いただけでなんともないから」
種を採取するため、椿を成長させていると実が破裂して思わず大きな声を上げて驚いてしまった。
こちらに駆け寄ろうとするミリナちゃんやニック、それから椿の花の香りを確認していた周囲の人達、さらにレオも、手で制して問題ないと伝える。
ただ驚いただけだから、怪我もないからな。
「成る程、椿はこうやって種を飛ばすって事なのか……」
破裂自体は、パンッと小さく乾いた音を発していたけど勢いとしてはあまり強くない……数センチの小さな実だからそれも当然なんだけど、いくつもの実が一斉に破裂したから驚いてしまったが。
ともかく、破裂した後の地面には枯れた実の表面部分が散らばるとともに、中から栗にも似た茶色い種が散乱している。
そうやって、種を飛ばして数を増やしていくんだと納得しつつ、ちょっとだけ植物に対する面白さを感じた。
風に乗って運ばれるタンポポ綿毛とかもそうだけど、植物によって種を遠くに飛ばす方法が違うのは、見ていて楽しくもある。
「とはいえ、植物の生態を観察するためじゃないから……っと」
地面に落ちた種を拾い、ミリナちゃん達に渡してまとめてもらいつつ、再び新しい椿を作る。
今度は、種が破裂する直前に実が大きくなった辺りで止める。
破裂してからと、する前で違いがあるかもしれないから念のためだ。
採取するには、破裂前の状態の方がやりやすいな……当然だけど、ある程度まとまっているし。
「ひゃ!」
「ふぉ!?」
「ミリナちゃん!? ニック!?」
「あ、大丈夫です。私も、驚いただけですから……」
「あっしもです……手の上でバラバラになりましたけど、痛みとかもなかったんで」
採取した実を預けていたミリナちゃんとニックが、急に大きな声を上げたのでそちらを見てみると、手に持っていた実が破裂したらしい。
二人共、俺と同じく急な事で驚いただけみたいだ……至近距離、もしくは手の中で破裂したらそりゃ驚くよな。
実には亀裂が入っていて、破裂直前で成長を止めて採取したんだけど、それが悪かったのかもしれない。
野菜や果物もそうだけど、植物は採取した後も生きているんだから、当然と言えば当然か。
「破裂する前に採取しても、しばらくすると破裂するみたいだね。それじゃ……」
破裂する前後での違いのためでもあるので、もう一度『雑草栽培』で椿を作って、今度は実がなる辺りで止めておく。
取り出す手間はあるけど、実に亀裂が入る前に成長を止めて採取し、周囲の人達にも手伝ってもらって、中から種を取り出していく。
そのままの実と、種をとり出した後の実なども、細かく分けておいた。
「結局、状態変化の効果があったのは根っこだけかぁ。ある意味、根には何かの効能があるって意味でもあるから、そちらも調べておかないとね」
椿の各部位で『雑草栽培』による状態変化で、はっきりとした変化があったのは根っこだけ。
最適な状態にする状態変化の特性を考えると、根っこには何かしらの効果効能があるという証明でもある。
「薬になるような効果だったらいいんですけど……ただ、調べるのはお任せください!」
「意気込むのはいいけど、ミリナちゃんには色々頼んじゃってて忙しいから、無理はしないようにね?」
「はい!」
俺の注意に、状態変化で乾燥した椿の根っこを受け取りながら、楽しそうに頷く……本当にわかっているのか、ちょっとだけ疑わしい、大丈夫だろうか?
とりあえず、手っ取り早く試すために食べる、なんて事がないように強く注意だけはしておかないとな――。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。







