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荒っぽく引っこ抜くのが一番みたいでした



「もっと近づいて嗅いでみると、鼻につく臭いが感じられると思うよ

「んー……あ、確かに。でもこれなら、警戒する必要は特になかったかな」


 葉や茎に鼻が付くくらい近付いて嗅いでみると、確かに悪臭と言えそうな嫌な臭いが嗅ぎ取れた。

 なんだろう、生臭いような……植物なんだけど魚みたいな、それも腐ったような臭いがする。

 確かにこれは、知らないうちに踏んでしまったドクダミの臭いとして、覚えがあった。

 ただ、これだけ近付いて嗅がないとわからない程度なら、本当に警戒する必要はなかったみたいだ……レオの方を見ても、首を傾げているだけで特に嫌な臭いが届いているわけでも、レオの嗅覚で感知しているようでもないみたいだし。


「葉や茎を千切ったら、もっと強い臭いを発するようになるんだよ」

「まぁわざわざ臭いを嗅ぎたいわけじゃないから、千切ったりは……」

「しないといけないんだよ、これが。摘み取るためにね」

「え……?」


 さすがにわざわざ臭いを強くするような事はしたくない、と思った俺の言葉をさえぎるユートさん。

 摘み取る……確かに摘み取る時には、必要な部分、または茎を切る必要があるけど……臭い対策のために、根っこから引き抜けばいいんじゃないかな。


「タクミ君が知っているドクダミは、繁殖力が高いでしょ? それは、地中深くか横に長くか、とにかく根っこが長いからなんだ。掘らないといけないし、それじゃ手間がかかり過ぎるからね」

「こっちは繁殖力が低いのに、そこは同じなんだ……」


 確かに、根が長いと引っこ抜くにしても途中で千切れてしまうだろうし、掘り返していたら手間になる。

 数が必要な物だし、一つ一つをそうしていたら時間がかかってしまう。


「一気に作って、そこを掘ってとかなら手間を省ける……かな?」

「それでもいいんだけど、掘る時にさらに気を使っちゃうことになるかな? 群生、と言っても五、六くらいの数なんだけど、それを掘ったら根を傷付けちゃってね。そうなると、茎や葉を千切るのと同じようになるんだ」

「つまり、ちょっと傷付けたら強い臭いが発生するってわけなんだ」


 長い根っこだから、一気に作ると地中で絡まったりどこへ伸びているかも見えないわけで。

 傷付けずに掘り返そうとするのはかなり手間がかかるし、気を使ううえ、失敗する可能性も当然考えられるわけで……。

 一つ一つを離して作れば、さらに手間もかかるし……それなら、臭いを覚悟するなり我慢するなりして、さっさと摘み取った方がいいというわけなんだろう。


「仕方ない、それじゃ臭いを我慢するしかないか。根っこは、そのまま残しても?」

「うん、勝手に枯れるからそのままでも大丈夫。千切れば、そこから新しく芽が出るとか茎が伸びるとかはないから。あっちでなら、ほぼ確実に新しく伸びて来るから本当はいけないみたいなんだけどね。あの人も首を傾げていたよ」


 あの人、というのは幸村という人の事だろう。

 ドクダミならぬジュウヤクの情報はその人かららしいけど、こちらではそれで繁殖させられず、数を増やす事ができなかったんだとか。

 ちなみにユートさんが曖昧な言い方をしているのは、俺以外に多くの人が注目しているからだろう。


 エッケンハルトさんとエルケリッヒさんならともかく、それ以外の人達はユートさんの事を詳しく知らないからな。

 ……伝えようと思って機会を失っているけど、そろそろクレアには話しておきたいところだ。


「成る程ね、それじゃ一つ一つ摘み取るのもあれだし、先に全部作るよ」

「うん、わかった」


 根っこが途中で千切れてもいいなら、引っこ抜くなり茎を切るなりして摘み取るのが手っ取り早いんだろうけど、一つ作っては……だと手間だし、いちいち臭いを振りまく事になるので、まとめてやる事にする。

 再び、布を口周りを覆うように巻いて、地面に手を突いて『雑草栽培』を発動。

 ユートさんに求められたジュウヤクの数を揃え始めた。


「さてと、それじゃ……ん!」

「お願いしたのは僕だから、僕も手伝うよ。っと!」

「わ、私もお手伝いします!」

「えーと……俺でもいいんですかい? それじゃ……!」


 ジュウヤクを二十程作って、摘み取る作業に入る。

 俺、ユートさん、ミリナちゃん、ニックの四人でそれぞれ引っこ抜いていく。

 力を入れると、土が少し盛り上がった後ブチッという感触と共に、根が千切れた。

 結構荒っぽい摘み取り方だけど、ナイフとかで茎を切って摘み取ると、刃に臭いが残ったりもするらしいから、この方法が一番いいんだとか。


「全部引っこ抜いた……千切った? けど、確かにこの臭いは……」


 二十のジュウヤクが引っこ抜かれた後、俺達の周囲には異様な臭いが取り巻いていた。

 一口に言うと、ただただ臭い。

 布越しだから一応我慢できるけど、何も知らずに嗅いだら、急いで離れたくなるだろうなぁ。


「悪臭を振りまくって言っていた理由、わかったでしょ? 避けたいけど、手間をかけるのとどっちがいいかと言われたら、まぁ我慢できるこっちかなって」


 大量に作る必要のある物だし、わざわざ掘り返して根を傷付けないように気を付ける繊細な作業をするよりは、荒っぽくても根を千切るくらいの気概で引っこ抜いた方が、確かに手っ取り早い。

 丁寧に掘り返しても、失敗して根を傷付ければ臭いが発生するんだし、どちらがいいかは明白か。

 どうしても、この臭いが駄目でという人でなければ、我慢する方を選ぶと思う。


「師匠、臭いでふ……ヤイバナよりはマシですけど」

「ア、アニキ、なんですかいこの臭いは!」


 ミリナちゃんは、少し後ずさりをしながら布で覆われている鼻を押さえ、ニックも大きな声を上げながら口と鼻を手で押さえた。

 けどニック、臭いに関しては説明しただろうに……あと、ジュウヤクを引っこ抜く時素手だったから、臭いの付いた手で押さえても、あまり意味はないと思うぞ?

 俺やミリナちゃん、ユートさんは、ジュウヤクを引っこ抜く時ちゃんと手袋代わりの使い捨ての布を使っていたのに。


 でもまぁ、ヤイバナ程じゃないこれくらいの臭いなら、布は使い捨てにしなくても洗えば十分落ちそうだな。

 ヤイバナの時に使ったのは、洗っても臭いがこびり付いてしまって取れなくなっていたので、予定通り捨てたけども――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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■7巻書影■mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


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[一言] これから薬草畑取り掛かるなら、軍手見たいな布製手袋量産すると良いね。ラクトスの帽子屋(既にスリッパ屋?)に大量生産依頼してWin-Winに!
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