交換条件を持ち出してみました
「うん? タクミ君の頼みなら、大抵聞くから交換条件みたいにしなくてもいいんだけど?」
「いや、頼ってばかりというのもなんだか怖いから。一応、ジュウヤクを作る代わりとしてお願いした方がいいかなって」
性格的や趣味的な部分はともかくとして、色々と頼りになり過ぎる人だから、ついついなんでも頼ればいいんじゃないかと思ってしまう。
けど、何かに巻き込まれそうというか……引き返せなくなりそうな何かがある気がして、俺からユートさんにばかり頼み事をするのは、できるだけしないように気を付けている。
まぁ、ジュウヤクを作れば生卵が食べられるなら俺にも得あるわけで、交換条件として正しいのかは微妙だけども。
「僕とタクミ君の仲じゃない。怖い事はないから、こっちにおいでよ?」
「こっちがどっちなのかわからないけど……とりあえず、ジュウヤクは作るから。代わりに、椿油の作り方を知らないかなって。それか、作り方を調べて欲しいんだ」
椿油は、ランジ村への移動中クレア達女性の要望もあって、作ろうと考えていた物。
椿は『雑草栽培』でなんとかなるとしても、その油の作り方を俺は知らない。
状態変化も、椿油を作るためにはどの部分を使って、などがわからないといけないし、試さなきゃいけない。
それにそもそも、椿が椿油を出す状態というのが、最適な状態ではない気がしたから。
なんとなく、何も知らないまま椿を作っても、上手くいかないだろうなと。
「つばきあぶら……? あぁ、椿油か! うーん、さすがに作り方は知らないなぁ。僕があまり興味なかった物だし。聞いた事はもちろんあるけどね」
日本人なら、聞いた事のある人は多いと思うけど……ユートさんは男だからなぁ。
男性が使っちゃ駄目な物ではないはずだけど、女性が使う化粧品の一種というイメージの方が強い。
だから、ユートさんも作り方までは知らなくておかしくない。
「でも、そういうのは僕じゃなくて、セバスチャンってあの執事になるべくしてなった人に聞けばいいんじゃない? 豊富な知識があるみたいだし」
「さすがに、セバスチャンさんも知らなかったから、こうしてユートさんにね」
実は、屋敷に来てからセバスチャンさんに相談してみたんだけど、さすがのセバスチャンさんでも椿から油を抽出して髪油や荒れた手に使えるようにする方法は、知らなかった。
まぁセバスチャンさんの豊富な知識は、長年の経験以外に大量の書物を読んでの事だから、これまで作られていなかった物に関しては、わからなくても無理はない。
他の誰かが作っていた可能性がないわけではないし、探せば何かの書物に記述があるかもしれないけど、調べましょうか? とセバスチャンさんから言われたのは断っておいた。
別邸にティルラちゃんと戻って離れる事になるし、忙しくなりそうなのに頼んだら悪いから。
「成る程ねぇ。椿油かぁ……それこそ薬草の調合のように、本とかに書かれたりはしていないのかな?」
「薬草じゃないから、そういうのはなかったよ。まぁ、俺が参考にさせてもらっている本は、そもそもどんな物を調合して、何ができるかとまでは書かれていないから」
薬草図鑑のような本には、当然椿はなかった。
調合法などが書かれている、薬の知識に関する本の方は椿油を作るための限定的な方法なんて、当然書かれているわけもない。
というか椿が薬草ですらないから、薬関連の本で調べるのは間違っているんだけど。
薬草やそれを調合した薬に頼るこの世界、少なくともこの国では薬草や薬に関する本くらいしか植物の事を書かれている本はないみたいだ。
他にあるとすれば、農業にかかわる本くらいか。
観賞用の植物、花とかに関する図鑑や詳細が書かれた本がないってわけだな。
「うーん、僕の知識にはないから……でもタクミ君の頼みだし、ジュウヤクが手に入ると考えれば……」
腕を組んで考え込むユートさん。
無理はしなくても、もしわかれば程度だったので駄目なら諦めて、地道に方法を探すだけなんだけどな。
ミリナちゃんはこれから忙しくなるし、空いた時間で少しずつ試していくくらいしか、今の俺にはできないけど。
「うん、わかった! それじゃ、僕の人脈を駆使してなんとか方法を探ってみるよ。椿の実物はある?」
「まだ作っていないからないけど、必要ならすぐに。でも、ユートさんの人脈って言われると、なんだか怖いなぁ」
だって大公爵だし、王家だし、さらに言えば初代国王という異色という言葉では収まらない経歴の持ち主。
人脈と言われたらどんなとんでもない人が出て来るのか……。
エッケンハルトさんやエルケリッヒさんと知り合いというだけならまだしも、テオ君やオーリエちゃんのような、まだ子供でも国にとっては最重要とも言える、とんでもない人を連れて来たから。
さすがに、現在の国王様とかは連れて来ないだろうし、連れて来れないだろうけど。
いや、ユートさんの事だからな……地位の高い人に限らず世界的に有名な人とか、それこそ予想もしなかった人とも関りがありそうだ。
「いやいや、怖くない、怖くないよー。タクミ君の頼みだし、ジュウヤクの事もあるから頑張ってみるよ!」
「程々にくらいでお願いするよ。えーっと、それじゃ……先にジュウヤクを作るかな? えっと、ジュウヤクの見た目とか、できるだけわかる範囲で教えて……」
「あ、さすがに今すぐ必要ってわけじゃないから、まだ大丈夫。でもまぁ処理する場所に送らなきゃだし、できるだけ早くは欲しいから……」
頭に思い浮かべやすくするため、ジュウヤクの見た目を聞こうと思った俺をユートさんが止める。
欲しいと言っても、別に今すぐ作って洗卵するわけでもなし、今すぐじゃなくてもいいのか。
「それじゃ、明日にでも作るよ。でも、ジュウヤクを送る? 処理する場所っていうのは?」
「さすがに、ここで卵を洗卵するわけにはいかないでしょ? 消毒薬を作るだけならまだしも、大量に必要だし、洗卵するならしかるべき場所でやって流通させなきゃ」
「あー、言われてみればそうだ」
屋敷で洗卵なんて、やる場所もなければそのための卵が大量にあるわけでもない。
処理する場所がどこかはわからないけど、多分養鶏場みたいな、卵を大量に出荷して流通させているところにでも送るんだろうな――。
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