生卵の事を考えてちょっと嬉しくなりました
「卵がどういった出され方をするか、見るとまぁ消毒するのも当然って納得できるんだけどね。畜産系の知識がある人は皆知っているかな」
「畜産系……そっちの知識はないけど、一応どういう物かは知っているよ。何かで読んだ……誰かから聞いたんだったかな?」
確か、体内では違うけど鶏の卵は糞とかと同じ所から……とまぁ、あまり詳細は考えたくないけど、それだけで消毒しなければいけない理由がわかると思う。
洗卵した後でも、食べる直前とかでなければできるだけ水洗いするのは良くないらしいけど、それはまたちょっと違うか。
「つまり、ジュウヤクの消毒効果で洗卵するって事?」
「そう洗卵、それなんだよ。そうすれば、生の卵が食べられるよ。まぁ他にも使い道は色々とあるけどさ。でも、とにかく卵を洗卵するために欲しいなってね。えっと、ジュウヤクを磨り潰して出て来る液体を濾したのが……」
ユートさんの話によると、ジュウヤクから出た液体を濾す事で殺菌消毒ができるらしく、それは例えば少量なら人が口にしても大丈夫な安全な消毒薬になるらしい。
詳しくは長くなるから聞かなかったけど、幸村という人と一緒に色々試していた時にできた物だとか。
口に入っても大丈夫な消毒液で、アルコールとは別の物となると……次亜塩素酸溶液、とかかな?
確か、洗卵にも使われている物だし。
「もちろん、原液のままじゃ効果が強すぎて使えないから、薄める必要はあるけどね。水で薄めて使えば、人も飲めるよ。あまりお勧めはしないけど」
「いや、消毒薬を飲む趣味はないから、飲まないけど」
「どれだけ薄めればいいかを試していた時に、何度もお腹を壊したからねぇ……あれは、正直もう経験したくないよ」
……ユートさんは飲んだのか。
そりゃ、お腹を壊したいなんて人はいないだろうから、誰でも経験したくないだろう。
「で、そのジュウヤクから作った消毒液に、卵を浸しておくとあら不思議。誰でも食べられるようになるんだよ。こっちも、何度か辛い思いをしたなぁ……」
遠くを見る目をして、そう言うユートさん。
でもそっちは屋敷の壁だから、気分を和らげるならせめて夜空の月や星とか、木などの植物を見た方がいいと思う。
見飽きているのかもしれないが。
というか、洗卵していない生卵を食べたんだ……そりゃ、試す過程で食べないといけなかったのかもしれないけど。
「生卵が、食べられるようになるんだよ、タクミ君!」
遠い目を止め、興奮し始めるユートさん。
生卵ってだけで、そこまで興奮しなくても……ユートさんは、試した時に食べた事あるだろうに。
かなり前、数十年どころじゃないくらい昔なのかもしれないけど。
「生卵かぁ……使えるとしたら、何かあったかな?」
料理に対して、貧困な知識の俺からすると生卵が食べられる、と聞いてもあまりピンとこない。
もちろん、うどんに生卵を絡めて醤油を垂らし……というのも頭に浮かんでいるけど、ユートさんみたいに興奮する程じゃない。
ヘレーナさんは喜ぶか。
他に生卵を使う料理ってあったかな? いや、俺が知らないだけであるんだろうけど、ある程度は半熟でもできるし、そもそも火を通していれば卵は食べられるから。
「何を言っているんだいタクミ君。せっかく僕がプレゼントしたのに、忘れていないかい?」
「え?」
「ほら、お米に醤油。そこに生卵と言えば……!」
「っっ!!」
そうだ! ホカホカのご飯に醤油、そこに生卵を混ぜてできるのは……!
究極の時短料理……料理と言えるかはともかくとして、多くの人を虜にするあの食べ方ができるじゃないか!
「残念ながら、専用の醤油は作れないけど……出汁醤油もあるし、なんなら他のトッピングを付けて食べてもいい、卵かけご飯だよ!」
「お米からご飯を炊いて、少し違ってもお味噌汁ができて、でも何か物足りなさを感じていたと思ったら……卵かけご飯があった!」
決して卵かけご飯が好物というわけではないはずなんけど、なんだろうこの沸き上がる気持ちは。
一口に卵かけご飯と言っても、さらにそこから色んなアレンジができる。
ご飯さえあれば手間もほとんどかからないし、栄養面もそれなり、一人暮らし男子の強い味方。
「それにね、タクミ君……」
「な、なんだ……?」
興奮状態だったのを落ち着かせ、低い声でニヤリと笑うユートさん。
生卵には、まだまだ他の可能性があると言っているような、そんな雰囲気だ。
ゴクリ、と唾をのみ込み、続くユートさんの言葉を待つ。
……ちょっとユートさんのノリに付き合うのが、楽しくなってきた。
「生卵があれば、あのちょっと黄色い偉大な調味料。マヨネーズが作れるんだよ!!」
「な、なんだって……!!」
と、ユートさんの大きな声につられて、俺も大きな反応を返してしまったけど……屋敷の中に聞こえていないかちょっと心配だ、夜中に騒いでごめんなさい。
あと、屋根の上からこちらを覗き込むようにしているラーレやコッカー達も、騒がしくしてごめん。
それはともかく、マヨネーズかぁ。
マヨラーではないけど、醤油に次いで頼もしい調味料なのは間違いない。
「夢が広がるなぁ……」
「でしょ? 正直、長く生きれば生きる程、食べる楽しみっていうのが重要になってくるんだよ。だからタクミ君には、ものすごく期待しているんだ」
「料理とかあんまり知らないから、期待し過ぎないで欲しいけど」
思わず空を仰ぐ俺に、楽しそうに話すユートさん。
長く生きているかどうかに関係なく、食べる楽しみっていうのは人生を豊かにするとは思うから、気持ちはわかる。
美味しい物を食べる事で、人は笑顔になれるし気分が良くなるものだ。
もちろん、食べ過ぎると健康とか体重とか、色々大変な事になるが。
「とりあえず、そのジュウヤクは誰かが作ったりはしていない?」
「うん。日本ではお茶のイメージが強いけど、こっちだと薬草に分類されるし、農業で使っているわけじゃないからね」
俺の『雑草栽培』で作れる植物の条件として、農業で作られていない、人の手が入っていない、というのがある。
そこに引っかからなければ、多分大抵の植物は作れるはず。
大きな樹木とかは何度か試した事があって作れなかったけど、人の背の高さ前後の低木は作れたので、何か明確な分類があるのかもしれないが。
紫陽花とか、牡丹とか作れたから。
「薬草ならまぁ、作れそうかな」
「それじゃ……」
「ただし、一つだけお願いがあるんだ」
考えていた事があったので、喜色満面になるユートさんの言葉を途中で静止して、お願いをする事にした――。
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