レオと戯れました
「クレアさんにも、そんな頃があったんだなぁ」
剣の素振りも終わり、風呂で汗を流して部屋に戻って来た。
ベッドに腰かけて休みながら、食堂での話を思い出す。
セバスチャンさんが博識なのは、当然と思ってしまうほど何でも説明してくれるけど、クレアさんの方も色々知識を持っているようだったから、小さい頃の話は少し意外だった。
「あ、でもお見合いの話もあったか」
初代当主様がお見合いで……という話で即行動に出ようとしたらしいから、昔は知識よりも行動を優先する性格だったのかもしれない。
そう考えると、ティルラちゃんと似ているような気がして、やっぱり姉妹なんだなという感じがする。
「ワフー」
「お?」
ベッドに座っていると、レオが鼻をスンスン言わせながら近づいて来た。
「どうした、レオ?」
「ワフワフ」
「お、おい!」
レオは俺に顔を近づけて、ぺろぺろと舐めて来る。
その勢いに押されつつも、負けないように俺もレオの頭をガシガシと撫でる。
「何だ? 遊びたかったのか?」
「ワフ!」
顔を離してレオに聞くと、大きく頷く。
「そういえば、最近あまり構ってやれてなかったな」
「ワフワフ」
そうだそうだと言わんばかりのレオ。
ここしばらく、ティルラちゃんとの鍛錬、ミリナちゃんとの勉強、さらに昨日からはランジ村に持って行くためのラモギ栽培と、レオを構ってやる時間が無かった事を思い出す。
よくティルラちゃんやシェリーと遊んでいたり、鍛錬のために俺達の剣を避けて遊んだりはしているが、俺と1対1で遊ぶことは無かった。
レオとしては、それが寂しかったんだろう。
剣の素振りをやった後だから、少し時間は遅いが……今日はとことんレオに付き合って遊んでやる事にしよう。
「よーし、レオ。今日は存分に遊ぶぞ!」
「ワウ!」
嬉しそうに尻尾をブンブン振ってるレオを見て、明日の寝不足を覚悟した。
まぁ、明後日にはランジ村に行かなきゃいけないから、今日くらいしか時間の余裕がないしな。
それに、レオにお願いして乗せてもらうんだから、相棒の相手もしっかりしとかないとな。
「よーしよしよし」
「ワフーワフー」
まずはと、耳の付け根の後ろを両手を使ってガシガシと撫でる。
以前は指先で良かったんだが、今は大きいからな。
気持ち良さそうな声を漏らして、レオも喜んでるようだ。
耳の後ろは、マッサージ効果もあるみたいだからな。
「次は……こっちだ!」
「ワフー」
足の付け根あたりを、モサモサの毛を掻き分けて両手で皮を引っ張るようにする。
人間で言うと、肩揉みのような効果だ。
これには特に気持ち良さそうな声を漏らして、尻尾もブンブン振っているのが見える。
普段足を使って走ったり、立ったままだったりで疲れてる部分なんだろうな。
「ははは、気持ち良いか?」
「ワフワフー」
しばらく揉み解すように皮を引っ張ったり、撫でたりしてやる。
遊んでるというよりも、レオをいたわるようになってるが、以前のようには遊べないからな。
以前は小さかったから、抱き上げてやったり指を甘噛みさせたりとしていたが、今はそれが出来ない。
大きさもそうだが、鋭い牙を見ると指どころか腕を簡単に持っていかれそうだからな……。
「レオ」
「ワフ」
しばらく撫でたりマッサージしてやった後、正面に立って手をかざす。
俺の呼びかけに、何をするのか気付いたレオは、4本の足で立って俺を見る。
「お座り!」
「ワフ!」
「伏せ!」
「ワーフ!」
「もう一回お座り! からのちょうだいのポーズ!」
「ワフー……ワフ!」
指揮をするように手を振り、レオに指示を出す。
それに従っていちいち返事をするように鳴きながら、レオはお座りから伏せ、そこからまたお座りになって、両前足を上げた体勢になる。
最後のはあれだな、本来なら4文字のあまり大きな声で言えないようなポーズの事だな。
ねだるように前足を動かすレオを見ると、体が大きくなっても昔から変わらないレオのままなんだなぁと実感する。
しかし、さすがに大き過ぎて見上げるのも一苦労だな……頭が天井にぶつからないか心配だ……この屋敷の天井が高くて助かった。
「偉いぞレオー。じゃあ次はもう一回伏せだ」
「ワウ!」
「よーしよしよし、偉かったなー、ちゃんと覚えてたんだな」
「ワフ!」
伏せをしたレオの頭を、笑顔を浮かべながらしっかり撫でてやる。
以前なら、ここで好物のソーセージをご褒美に上げてたが、今はそれが無いし最近はいつもヘレーナさんが用意してくれてるからな。
その代わり、十分に褒めておこう。
「それじゃあ次は……」
「ワフー!」
楽しそうにしているレオを、遅くまで構ってやった。
おかげで寝たのがいつもより数時間遅かったが、嬉しそうなレオを見れて満足だ。
久しぶりに色々構ってもらえて嬉しかったんだろう、レオは寝る時も体を半分ベッドに乗せて、俺の枕になってくれた。
寝る時も一緒で、ずっと尻尾を振るレオを見ながら眠りに就いた。
―――――――――――――――――――
「おはようございます」
「……おはよう、ティルラちゃん」
「ワフ!」
「キャゥ!」
翌朝、ティルラちゃんがシェリーを連れて、久しぶりに俺の部屋へ来た。
最近は無かった、朝食に呼びに来たようだ。
寝不足で、少しだけだるい体をベッドから起こし、ティルラちゃんを迎え入れる。
レオは寝不足なんて関係ないとばかりに元気だ。
「タクミさん、少し疲れてますか?」
「ははは、大丈夫だよ。昨夜は久しぶりにレオと色々遊んだからね。ちょっと寝るのが遅くなっただけなんだ」
「だからレオ様は機嫌が良いんですね!」
「ワフ!」
「キャゥ!」
ティルラちゃんには、レオが機嫌が良いかどうかわかるようだ。
確かに、寝起きにも関わらずレオは尻尾を振り続けて、楽しそうにシェリーを構ってやっている。
シェリーの方は、レオとじゃれ合って楽しそうだ。
「じゃあ、準備をして食堂に行くよ。先に行って待ってて」
「わかりました。シェリー、行きましょう!」
「キャゥ!」
「ワフ!」
「レオ様も来てくれるんですか?」
「ワフワフ」
「ははは。ティルラちゃん、レオも連れて行ってやってくれるかな?」
「はい、わかりました! レオ様も行きましょう!」
「ワフー!」
「キャゥキャゥ!」
ベッドから出て、朝の身支度を始めながらティルラちゃんに声をかける。
ティルラちゃんとシェリーは、部屋を出ようとして、レオが付いて行きたそうにしているのに気づく。
珍しいな、レオが俺じゃなくてティルラちゃんに付いて行くなんて。
昨日存分に構ってやったからかもしれないな。
楽しそうに部屋を出るティルラちゃん達を笑いながら見送って、寝不足のせいでちょっとだけ重い体を動かし、朝の支度をした。
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