レオに叱られてしまいました
「ぐしゅ! うぅ、もう大丈夫になった、ママ?」
「ワウー、ワフワウ」
「うん、もう少しこうしとくね」
リーザがくしゃみをし、レオに話し掛ける声が小さく聞こえる。
もう少しそのままで、とレオは言ってリーザが従い、まだ深くレオの体に顔を押し付ける事にしたようだ。
俺達は布で覆っていたし、嗅覚も人並みだからなんとか我慢できたけど、距離を離したとはいってもやっぱり獣人として嗅覚の鋭いリーザには酷だったようだ……深く反省。
まぁ、俺達も平気というわけではなかったんだけどな。
「キィ、キィー!」
「うん、ラーレ?」
「どうしたんでしょう? こちらを見下ろして……」
「レオと同じく、俺達に文句を言いたいとかかな?」
レオに謝り、リーザの様子を見て心の中で深く反省していると、頭上から届くラーレの声。
ラーレもまた、降りてこない所を見るとやっぱり残っている臭いを嫌って近づきたくないみたいだ。
というか、やっぱり嗅覚は鳥の姿なのとは関係なく、人間よりもよっぽど鋭いみたいだな。
「キィー!!」
「ぶわっ!」
「またですかぁ!?」
再び、大きく翼を広げたラーレが、俺達のいる地上に向かって羽ばたく。
それと同時に、先程までよりは幾分か柔らかいながらも、服がバタバタと音を立ててはためく程の風が発生。
さっきはそんな余裕はなかったようだけど、口を押さえなくなってフリーになった両手で、叫びながらメイド服のスカートを押さえていた。
大丈夫、さっきも今も空を見ていたからスカートがめくれていたとしても、見えていないから……誰に言い訳をしているのかわからないけど。
「……ふぅ。なんだったんだ?」
「突然は驚きます……もしかして、ラーレを怒らせてしまったのでしょうか?」
「いや、そういう感じではなかったけど」
多少、ラーレの鳴き声に責めるようなニュアンスがあったとしても、怒っているという感じではなかった。
というか、本当にラーレが怒ったのだとしたら、風を巻き起こすだけでは済まなかったと思う。
敵対する魔物に対する時は、風と一緒に羽根が鋭く飛んで行って突き刺さったりしていた事もあるし。
今回は、風だけで羽根は紛れてなかったからな。
「それじゃどうして……」
「ワッフ!」
「レオ?」
首を傾げ、ラーレのいる頭上を不安そうに見上げたままのミリナちゃんに答えるように、いつの間に近付いていたのか、俺のすぐ横でレオの鳴き声。
体には、相変わらずリーザをくっつけている。
「ワウ~」
「うん……スンスン……あ、もう平気だー!」
レオがリーザに呼びかけると、パッと離れて鼻をひくつかせて周囲の臭いを嗅ぐリーザ。
泣きそうだった表情が、一瞬で明るくなった。
レオが近付いて、リーザが平気だと言うって事はもしかして……?
「……あぁ、もう臭いは何もないみたいだ。もしかしてラーレは、残っていた臭いを飛ばしてくれたのか?」
「キィ~」
「ワフ」
リーザに倣って、周囲の匂いを嗅いでみると、わずかに残っていた悪臭が綺麗さっぱりなくなっていた。
それどころか、森の中にいるような木々の爽やかな香りすら感じる。
多分これもラーレがやったんだと思うけど……風を起こすだけじゃなく、香りを発生させたのか? それとも、どこかから良い匂いのする何かを風で運んで来たとか?
庭にも木々が植えられているため、その香りなのかもしれないけど、これも魔法か何かなのか、それともラーレの特殊能力とかだろうか……。
「キィ、キィ?」
「あ、あぁ。ありがとうなラーレ。おかげで臭いも全部なくなったよ」
ようやく、空から降りてくるラーレ。
鳥特有の柔らかさ? で首を九十度くらい傾げていたラーレは、どう? と問いかけているようだったので、お礼を言いながら臭いがなくなった事を伝える。
「ワフ、ワフワフワウ!」
「……レオ、ごめん。興味本位だったんだけど……もう少し試す環境を考えるべきだった」
ラーレにお礼を言った後は、レオによる説教が待っていた。
フェンリル達だけでなく、ラーレやレオ自身、それにリーザにも臭いの被害が及んだからだろう。
時折、人にまだ不慣れなフェンリルに注意をするレオや、初めてティルラちゃんを乗せて飛んだ時など、ラーレに説教する事はあったけど……俺自身がされる事になるとは。
いや、今回はよく考えずにヤイバナを作った俺に非がある、素直に反省しよう。
「タクミさん、シェリーの様子が……それに、先程こちらでレオ様やラーレが騒ぐ声が聞こえましたけど……?」
「クレア?」
レオから叱られて、俺とミリナちゃんが反省をして説教が終わった頃、屋敷の中からシェリーを抱きかかえたクレアが出て来た。
一緒に、様子を見に来たのかヴァレットさんとエルミーネさんもいる……多分、仕事中だったんだろうな。
ミリナちゃんは少し前にカラスーリやゲンノショウ、ヤイバナから摘み取った花を持って屋敷に戻っている。
早く色々試してみたいんだろう……レオの説教に付き合わせてしまって申し訳ない。
「キュゥ! キュウ!」
「あ、こらシェリー。暴れないで!」
「キュゥ……!」
クレアに抱かれているシェリーは、腕の中で暴れて連れて来られたことに抗議しているように見えた。
成長して体も大きくなってきているので、そのまま抱いているのも結構辛そうだ。
「ワウワフ。ワフ……」
「あぁうん、俺のせいだよな。――ごめん、シェリー」
「タクミさん?」
ジト目で俺を見て鳴くレオに頷き、クレアに言われて一応はおとなしくなったけど、それでもいつでも飛び出せるように窺っているシェリーに謝る。
クレアは、何故俺が謝ったのか不思議そうだ。
「シェリーの様子がおかしくなったのは多分、いや間違いなく俺のせいなんだよ、クレア」
「タクミさんのせい、ですか? でも、シェリーはずっと私といましたし、タクミさんがこちらにいらっしゃったのなら……」
「まぁ、離れていたからと思うだろうけど……あ、もうシェリーは降ろして大丈夫。――シェリー、もう臭いは感じないだろ? 大丈夫だ」
ずっと抱いたままなのも、クレアが辛そうだからな。
最初に会った時より体が大きくなっているから当然なんだけど、シェリーも結構重くなってきているし。
口に出すと怒られてしまいそうだから、それは言わないでおくけど――。
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