レオとラーレが協力して処理しました
「あっひは、大変な事になっへいまふね」
「まぁ、俺やミリナちゃんよりも、かなり鼻がいいからね。とりあえず、これをどうにかしないと……屋敷の中にもって入るのも気が引けるし」
相変わらず口と鼻を押さえているミリナちゃんも、レオ達の様子を見て呟く。
雑巾に包んでいる状態でも、そこから強い匂いが布越しに感じるという程の拡散力なので、屋敷の中にもってい入ると大変な事になるかもしれない。
一部の人にとってはテロに等しいかも……?
だもんで、とにかくこの場でどうにか処理しないといけないわけだけど……どうしよう? とりあえず、一番楽な対処法として埋めるかな。
「燃やしたら、さらに臭いが発生して拡散するだろうからなぁ」
ヤイバナ自体は既に根っこから引っこ抜いているので、直に臭いの発生は収まるだろうけど……いつになるかわからないし、燃やしたらそれはそれでまた臭いを発生させたり、煙などでさらに広く拡散させてしまいそうな気もする。
本には、燃やすか埋めるという処理法が書かれていたけど、この場合は埋めた方が手っ取り早いかもしれないな。
けど、もしレオかフェンリルが掘り起こしたりしたら……いや、あれだけ嫌がっている匂いだから、わざわざ掘ったりはしないか?
「キィ、キィキィー!!」
「ん、ラーレ!?」
「アオォォォォン!!」
「レオも!?」
突然、空からラーレの鳴き声が響いた。
屋敷の屋根に止まっていたはずなのに、どうしたんだろうと空を仰ぎ見ると同時、レオが大きく吠えた。
「ラーレももしかして、臭いを感じ取ったとか……?」
「わ、わはりまへんへど、翼を激しくははめはへへいまふね」
屋根の上から、ひたすら翼をはためかせているラーレ。
レオが吠えた理由はわからないが、ラーレに呼びかけているようにも見える。
ラーレがこれだけ大きく反応するって事は、ヤイバナの臭いが高くまで届いて感じ取ったのかもしれないが……鳥類って嗅覚は発達していないから、ほとんど臭いとか感じないんじゃ?
いやまぁ、伝説級の魔物らしいから、嗅覚が鋭くてもおかしくないかもしれないけど。
「ワウ!!」
「キィ!!」
なんだろう……レオとラーレの視線が交わり、お互いの意思が通じ合っているような雰囲気だ。
示し合わせるように、お互いに向かって吠えてもいるし。
というかラーレが翼をはためかせているのは、飛ぶためとじゃなく風を送って臭いを遠ざけようとしているとかかな?
「ワフ、ワーウワフワウ!」
「え、あ、俺か……えっと、わ、わかった!」
上を見ていたレオが俺へと顔を向け、何かを訴えるように吠える。
一瞬何を伝えたいの変わらなかったが、すぐに理解して行動を起こす。
何がしたいのかはともかく、俺が持っているヤイバナを雑巾で包んだ物……つまり臭いの元凶を空に向かって投げろ、という事らしい。
逃げ惑ったり、慌てふためくフェンリル達の様子から、じっくり事情を聴いている暇はないと感じて、レオに従い空へと投げた。
俺も、ずっと我慢していたけどミリナちゃんと同じく、臭かったし早くどうにかしたいという気持ちで焦っていたからな。
「ワウ!」
「キィ! キィィィ!!」
「うぉ!?」
「ひゃ!?」
俺が投げた雑巾は、空高く……とまでは言わないし、ラーレのいる場所にも届かなかったけど、大体十メートルくらいだろうか。
ただ雑巾で包んでいるだけなので、投げた勢いで解けて中身が出そうになった瞬間、レオが呼びかけるように吠え、ラーレが応えてこれまで小刻みに羽ばたいていたのを止め、大きく翼を広げて溜めを作った後、一度だけ羽ばたかせた。
その瞬間、ラーレのいる場所から俺達の方に激しい突風が襲い掛かり、さらにその風は投げた雑巾を追いかけるように空へと抜けていく。
突然の突風に、俺もミリナちゃんも大きく声を上げる。
体が飛ばされる程ではなかったけど、突然だったからな。
そしてその風は、空へと上がる途中でさらに激しさを増したのか、俺が投げた雑巾とその中身、ヤイバナの茎や葉、根を巻き込んでさらに高く巻き上げた。
遠く、遠く……どれだけの高さかもわからない程、それが雑巾とかだったのかすらわからず、なんとか点が空を舞っているというくらいになった次の瞬間。
「グルゥゥゥ……ガウ!!」
「おぉ!!」
レオが空に向かって吠えた。
すると、点にしか見えなくなっていた雑巾、ヤイバナが拳サイズくらいの炎になり、一瞬で燃え尽きて行った。
「……」
「……」
静寂が訪れ、ミリナちゃんと二人で首が痛くなりそうなくらい空を見上げ続ける。
点だった物は燃えて消し炭どころか、影も形もなくなっている。
塵とかも燃えてしまったのだろうか? 高い場所の事で近くでは見ていないためどうなったかはわからないけど、多分俺達がいる地上からは視認できない程小さな灰などになって、なくなってしまったんだろう。
「焼却処分……できちゃったって事かな?」
「た、多分そうふぁと思いまふ。あ、師匠、もうほとんど臭いがありません」
「ほんとだ……」
呆然と呟く俺に同意しつつ、口や鼻を覆っていた布を外したミリナちゃんが、鼻をひくつかせて嗅ぐ。
先程、ラーレが起こした風が俺達の周辺を通過した時、広がっていた臭いも一緒に飛んで行ったのだろうか。
俺も覆っていた布を外して嗅いでみるが、確かにヤイバナの悪臭がほとんどなくなっていた。
それでも、まだかすかに残っているようだし、鼻の奥や覆っていた布にも残っているけど。
「ワフ!」
「あ、レオ?」
まだ臭いが残っているからだろう、レオがこちらへは近付こうとせず離れた場所で鳴く。
牙をむき出しにしている、とかではないがそれでも険しい目をしているので、俺達を責めているんだろう。
「ワウワウワフ! ガウワフ!」
「う、うん。すまん……もう少し周囲には配慮するべきだったと思う」
「ワウ!」
目だけでなく、鳴き声でも俺を責めるレオ。
興味本位で作るべき薬草ではなかったと、強烈な臭いを発生させてしまった今では思うし、できるならレオやフェンリル達がもっと逃げ場のある……例えば、屋敷の敷地外や村から離れた場所でするべきだったと反省。
少なくとも、塀で覆われた庭で作るべきじゃなかったな――。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。







