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1514/1997

覚えのある臭いがしました



「あれ……? あ、ミ、ミリナちゃん、器、器!」

「は、はい!」


 手に持ったゲンノショウは、確かに乾燥した状態になったんだけど、それと共に汁がブワッと漏れ出してこぼれ落ち始める。

 慌ててミリナちゃんに言って、持って来てもらっていた器を受け皿にしてもらう。


「乾燥するだけかと思っていたんだけど……?」


 カラッカラに乾燥したゲンノショウを手に持ちながら、ミリナちゃんの持つ木の器を見て首を傾げる。

 『雑草栽培』の状態変化は、その植物を最適な状態に変える……だから、煮て乾燥させた段階になると思っていた。

 まぁほぼそのような状態になったのかもしれないけど、だとしたら出て来た汁は一体?


「師匠、多分この汁が薬なんだと思います」

「え、そうなの?」

「はい。白く濁っているようで、匂いも……」

「くんくん……あぁ、確かにそうだね」


 ミリナちゃんに言われて、器の中に入っている液体を嗅いでみる。

 ゲンノショウから作った薬は、甘く濃厚な香りでありながら爽やか……と記されていた。

 その通りの香りに、白っぽい濁った液体が薬になっているのかもと思う。

 ただどこかで嗅いだ事のある匂いのような……?


「んー、あぁ、ジャスミン茶か!」


 思い当たって、思わず声を上げた。

 あのちょっと独特な香りと味、好みは別れるけどスッと爽やかな後味のあるお茶の香りだ。

 ジャスミンその物の香りというよりは、お茶の香りの方が近いと思う。


「じゃすみんちゃ……ですか?」

「ごめんごめん、似たような香りのお茶があってね」


 ジャスミン茶と言っても、ミリナちゃんはわからないのも無理はなく、キョトンと首を傾げている。

 五枚の花弁が白い、というのはこの世界のゲンノショウも、地球のジャスミンも同じではあるけど、大きさとか葉の形などが全く違う。

 だからゲンノショウがジャスミンって事はないはずだけど、香りが似ているのはちょっと面白いな。


 そういえば、日本の三大民間薬で、ドクダミとセンブリともう一つが似たような名前だったような……? もう少し、日本にいる間に興味を持って調べておけば良かった、と思うのは後の祭りか。

 日本に戻れないどころか、調べる余裕もなかっただろうしな。


「ともかく、これが本当にゲンノショウの薬としてそのまま使えるかどうかは……あ、そうだ。レオ、済まないがもう一度来てくれるか?」

「ワフー?」


 カラスーリを引っこ抜いてもらった後、再びフェンリル達の所に戻っていたレオを呼ぶ。

 とりあえず薬かはともかくとして、毒があったりはしないかを確かめてもらうためだ。

 レオならおそらく、それくらいの判別ができるだろう……これまでにも、似たような事はあったし。


「スンスン……ワウ、ワフ!」

「ん、そうか。ありがとうなレオ」

「ありがとうございます、レオ様」


 匂いを嗅いでもらったレオ曰く、特に危険な匂いはしないとの事。

 尻尾が振られているので、どちらかというと好きな匂いらしい……ジャスミン茶の匂いが好きとは、強めの匂いだから苦手かもしれないと思っていたけど。

 ともあれ、レオにお礼を言ってミリナちゃんと一緒に撫でつつ口を開けたので、舐めてしまわないように注意しつつもう一度フェンリル達の所へ送り出す。


 危険はないし、毒じゃないだろうけど好きな匂いだからって、とりあえず舐めようとするんじゃありません。

 そもそも、飲み薬じゃなくてカラスーリの傷薬とかと同じく、塗り薬だし。


「毒とかはないみたいだね。効果は今確かめられないけど……薬かどうかは、セバスチャンさんとか他の使用人さんに後で聞いてみよう」

「はい、わかりました」


 ゲンノショウの薬は、消毒薬として屋敷にも備蓄されているはずだろうし、全員かはわからないけど使用人さん達なら実物を見た事があるだろう。

 後で、見た目や匂いなどを確認だな。


「じゃあ一応、カラスーリと同じく数を作っていくよ」


 とりあえずゲンノショウ自体は間違いなく作れているので、状態変化をするかは後にして、数を作っておく事にする。

 さっきの液体がちゃんとした薬になっていなかった場合、本に書かれた方法での処理をするためでもある。

 少し手間がかかるけど、薬にできるのなら作っておいて損はないからな。


「さて、カラスーリとゲンノショウは作り終えたけど……」

「もう一つの薬草、ですね」

「うん。とりあえず別名の方のヤイバナって呼ぶ事にしよう、ミリナちゃん」

「わかりました。言いにくい名前でしたからね」


 残る薬草はヘクソカズラ……もといヤイバナだ。

 俺の頭の中だけで決めていた呼び名を、ミリナちゃんと共有しつつ、お互いに様子を窺う。

 本にも書かれていた事だし、俺の想像通りの植物であればあまり作りたいと思えない物だからだ。

 同じく本を熟読しているミリナちゃんも当然知っているわけで、臭いに警戒しているんだろう。


 曰く、決して素手で触ってはいけない、人の集まる場に投入したらそれは暴力と混乱を巻き起こすだろう、とか書かれていた。

 大分大袈裟に書かれているとしても、なんの気なしに作るのは躊躇われる。

 素手で触ってはいけないのは、どれだけ洗っても二、三日は臭いが取れないからとか。

 ……臭いままだと、レオやリーザが嫌がりそうだし気を付けないとな。


「とりあえず捨てるためのいらない布を持って……」


 このために、最初から用意していた布……と言うべきか雑巾というべきか。

 ミリナちゃんに用意してもらっていた、使い古したものだ。

 掃除などで使われていて、洗っても汚れた見た目のままなのであとは捨てるだけ、という物らしい。


 ともあれ、ヤイバナに触れる際にはこの雑巾越しにするとして、臭いは口と鼻を覆うように清潔な布を巻いておく。

 こちらは口元に付けるため、綺麗な布だけど……場合によってはこれも捨てる事になるかもしれないかもなぁ。

 と、準備をしている時にふと気付いた。


「あ、そうだ。ちょっと待ってねミリナちゃん」

「はい」


 ミリナちゃんに言って、ヤイバナ作成を待ってもらい俺達を遠巻きに見ている、レオやフェンリル達の方へ体を向ける。


「おーいレオ、リーザ、フェリー達も! もしかしたら凄く嫌な臭いがするかもしれないから、もっと離れていてくれー!」


 嗅覚の鋭いレオ達には、もしかしたら酷な臭いになるかもしれないからな。

 できれば俺やミリナちゃんと同じように、鼻を覆うような布を付けてやりたいが……そっちも嫌がりそうだし、難しい。

 なので、俺達からできる限り離れてもらう事にした――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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