新しい薬草作りを始めました
「では、ティルラ様や他の方々にも確認しておきます」
「お願いします。すみません、仕事を増やしてしまって」
翌日朝食後の庭にて、寝る前にレオやリーザとした話と、考えた事をライラさんに伝えて子供達も一緒に入るかの確認をお願いする。
俺は場合によっては他にする事があって参加できない可能性があるので、監督役もライラさんにお願いしてある。
なんでもかんでも、ライラさんにお願いしてしまって申し訳ないな、と思って謝る俺に対し。
「いえ、頼られるのは嬉しいものですから。お世話し甲斐があるというものです」
頼って欲しい、とかお世話をしたいというような事は以前から聞いていたけど、ライラさんにとってはむしろ気合が入ってしまうものらしい。
余り感情を表に出さないライラさんにしては少しだけ珍しく、楽しそうな表情をして屋敷に入って行くのを見送った。
ライラさんがやる気になっているのなら、俺が申し訳なくばかり思ってもいけないな。
「さて、リーザの方も大丈夫だったし、俺は俺でやる事をやらないとな」
俺がいなくても大丈夫か? とリーザにも聞いてみたんだけど、ライラさんがいるのならとむしろ嬉しそうだった。
リーザ曰く「お風呂に入った時はいつも、優しく洗ってくれるから」との事だ。
リーザがお風呂に入る時は、ライラさん以外にもゲルダさんなど女性の使用人さんと一緒なんだけど、その中でも一番懐いているライラさんと入るのがリーザは楽しいらしい。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ俺がいないかもしれないのを残念がって欲しかった、と思ったのは内緒だ。
ともあれ、リーザ達が楽しめればいいなと持って来ていたメモ書きに目を落としつつ、同じく庭に出て来てもらっていたミリナちゃんにも声を掛ける。
「それじゃミリナちゃん、昨日話していた薬草を作ろうか」
「はい、師匠。お願いします!」
森の異常を話し合うのは、昼食後の予定。
それまでに、昨日ミリナちゃんと話していた新しい薬草の試作を済ませておこうと、一緒に庭にいてもらっていた。
ライラさんにお風呂の話をしている時に、これまで通りの販売用薬草の方は作り終えていたりもする。
「まずは、カラスーリって薬草から……」
もう見慣れているだろうに、新しい薬草を作るからだろうか期待するようなキラキラとした、期待するような目で俺を見るミリナちゃんに頷き、地面にしゃがみ込む。
今日作る予定の薬草は、カラスーリ、ゲンノショウ、ヘクソラーズという三種の薬草だ。
……ヘクソラーズは、名前的にあまり良くなさそうなので別名のヤイバナと呼んだ方が良さそうだ。
別名があるのも、日本のヘクソカズラと同じだなという感想……いや、別名がある植物なんて他にもいくらでもあるけども。
「……」
本に記されていた特徴、描かれていた図を頭に浮かべ、心の中で『雑草栽培』と呟く。
初めて作る薬草なので、気合を入れて声に出そうかと一瞬だけ考えたけど……遠巻きにレオやフェンリル達の視線を感じたから、ちょっと恥ずかしくなった。
あと、ミリナちゃんも物凄く見ているし、レオ達と一緒にいるリーザもだな。
「うん、ちゃんとできたみたいだね」
数秒ほどで、地面から生えて来る植物。
もう慣れてしまったけど、最初はかなり不思議な感覚だったなぁ……植物観察の映像を早送りで見ている気分に近かった。
周囲は一切変わらないのに、植物だけどんどん成長していくからさらにだけど。
「はい。本にあった通りの薬草です!」
ミリナちゃんにも見てもらい、ちゃんとカラスーリという薬草ができているのを確認。
カラスーリはウリ科の植物っぽく、地面からつるが伸びて途中途中に葉を茂らせる。
きゅうりやスイカとか、ウリ科じゃないけどアサガオとか、似たような植物を見た事がある人は多いと思うけど、カラスーリもその例に漏れずだ。
おっと、他の植物の事を考えていたら勝手に『雑草栽培』が発動して、変な植物を作ってしまいかねないな。
『雑草栽培』を使う時は、できるだけ雑念を持たないようにしないと。
……そのおかげで、一部の薬草ができたりもしたから悪い事じゃないかもしれないが、今は必要ない。
ちなみに成長して小さな花を咲かせた後すぐ実に変わったカラスーリは、つるが巻き付く棒などを用意していなかったため、地面を這うように日が差す方へニョロッと伸びているのが見ていてちょっと面白かった。
「黄色い実、ですね」
「そうだね」
ミリナちゃんに頷きつつ、テニスボールを卵のようにした大きさの実を見て、やっぱりキカラスウリかと確信する。
花弁が五枚というのはカラスウリと同じだけど、本にも記されていたように花弁の先が細く枝分かれしてもじゃもじゃした毛のようになっている。
俺が知っているカラスウリの特徴とは違うので、似た別のキカラスウリの方だろう……実も黄色いし。
「それじゃあ、この実を摘んで……と、ミリナちゃんお願い」
「はい!」
カラスーリの実を手に取り、『雑草栽培』の状態変化で最適な状態にする。
手の平大の実は、さらさらとした粉末になってこぼれ始めたのでミリナちゃんにお願いして、布で受け止めてもらう……風の強い日じゃなくて良かった。
次からは、器とかを用意しておいた方が良さそうだ。
ラモギだともっと小さくて、手の中で少量の粉末になる程度だったからほとんどこぼれはしなかったけど、こういう事もあるよな。
「後はこの根を引っこ抜いて……っと! 行くよー、ミリナちゃん」
「いつでも!」
なんてやり取りをして、地面から引っこ抜いたカラスーリの根も状態変化で最適な状態にしていく。
こちらも粉末なうえ、実よりも大きく自然薯よりも太かったので最初から受け止めてもらう体勢を取る。
さっきの教訓がすぐに役立ったし、今は風がほとんどないので飛ばされないけど、今度からは室内でやった方がいいだろうな。
あと、一人じゃなく誰かに手伝ってもらわないと。
「この粉末を混ぜて、ひと煮立ちさせれば塗り薬になるわけだ」
「本に書かれてある通りなら、そうですね。あと、街の薬屋さんでも見た事があります」
カラスーリは珍しい薬草というわけではなく、それこそフェンリルの森に入った時、木々に巻き付いていたのを見かけたくらいだ。
実や花をつけていなかったので、今作って葉の形とかを見てそうだとわかったんだけども――。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。







