お風呂がちょっとしたイベントになりそうでした
新しい屋敷のお風呂は、水圧は弱めでもシャワーがあったり、湯船が場所によって温度を変えられるという不思議風呂になっていた。
一部溺れないくらいではあるけど、それなりに深い場所があってレオやフェンリルが浸かれるようになっていたり、お湯が苦手なレオ用に水風呂にできたりもする。
リーザはそこで、バシャバシャと泳ぐ真似をしたりもしているとか……行儀が悪いから、止めるように注意するとライラさんに言ったら、微笑ましいだけですし気にする人はいないので問題ないと言われたりもした。
とりあえず、他に一緒に入る人がいる時くらいは止めるようには言っておく事にしたけど。
ティルラちゃんと一緒に入ったら、楽しそうに二人で泳ぎそうだなぁ――。
「リルルとかは多分気に入るんじゃないか?」
リルルは、そもそもお風呂を気に入っていたみたいだからな。
「レオも、お湯じゃなければ少しはマシだろ? だから、前よりはレオも体を洗いやすくなっているはずだぞー?」
「ママも楽しくお風呂に入ろ―!」
「ワフ……ワウゥ?」
本当に? という鳴き声と共に、両前足の隙間から目を出すレオ。
ほんの少しくらいは、興味が出て来たみたいだ。
レオがお風呂を苦手な理由は、顔や目に石鹸が入ったりお湯を掛けられるのが大半だからな……それで植え付けてしまった苦手意識は、まだとれないみたいだけど。
お風呂というワードに反応して嫌がっている節も、多少はあるみたいだし。
でも、水風呂なら川で泳いでいたように入る事ができると思うし、自分からなら顔を付ける事だってできる。
川では潜ったりもしていたから。
だからすぐに苦手意識が取り除く事はできなくとも、これまでよりはマシになると思う。
「だから、な? 新しい場所で心機一転! ってわけじゃないけど……もう少し前向きになってみるのもいいんじゃないか?」
「ワウゥ、ワウゥ……」
俺の言葉に、渋い表情になるレオ。
昔から……というか、犬と身近に接するとわかるようになるらしいけど、特にレオは俺から見ると表情豊かだったんだけど、こんな表情もできるようになっていたんだなぁ。
これもシルバーフェンリルになったから、か? 悩むような表情ができるようになった、というのは微妙かもしれないけど。
「私も一緒に入るから、ママも一緒に入って遊ぼー!」
リーザが悩むレオに抱き着きながら誘う。
「こらこらリーザ、お風呂は遊ぶところじゃないぞ? 嫌々入るよりは、楽しく入った方がいいとは思うけど」
周りに迷惑を掛けなければ、それこそ銭湯みたいな他人と一緒に入るような場所だと、マナーとか色々あるけど……まぁ個人で入る分には自由でいいか。
と思いつつ、リーザへの注意は程々にしておく。
俺も、小さい頃は大きなお風呂に入る機会があった時は、はしゃいでた記憶があるしな。
リーザにとってこの屋敷は自宅になるわけだし、それこそ誰かが迷惑に感じないのなら、少しくらい泳いだって大丈夫だ……大丈夫、だよね? 一応、明日ライラさんに確認しておこう。
ライラさん達が、リーザをお風呂に入れてくれているからな。
「しかしリーザも一緒に……か」
「駄目なの、パパ? 前にも一緒に入ったよ?」
「うん? いや、駄目というわけじゃないんだが……」
一度だけ、リーザをお風呂に入れた事はあるし……リーザが突撃してきたからだけど。
ただリーザとレオが、となるとティルラちゃんも入りたがるだろうし……。
「それなら、子供達を集めて皆で一緒にというのもいいかもな」
「皆で! 楽しそう!」
「ふっふっふ、レオも子供が好きだし……俺はともかく、あまり嫌がっている姿は見せたくないだろう?」
「ワ、ワフ!? ワーゥ……」
テオ君も一応子供枠でいいかな? あとはオーリエちゃんとか、孤児院から預かっている子供達。
それから村の子供達皆で入れば……さすがに全員は手狭になるかもしれないが。
あと、何度かあったように濡れてもいい服を着ていれば、男の子や女の子が混じってもまぁ大丈夫だろう。
もはや、お風呂というよりも遊びのイベントみたいになっているけど、レオの苦手意識が少しでも薄れてくれるのなら、これでいいのかもしれない。
「それじゃ、明日ライラさんや他の人達に話して、皆で入るようにしようか」
「うん! 楽しみー!」
「ウゥ……」
落ち込むレオと、喜ぶリーザ。
対照的だなぁと思いつつ、一応の予定を決めてからレオを撫でて慰める。
子供達と遊ぶのなら、できるだけ綺麗にしておいた方が喜ばれるだろうから、諦めてくれ……レオのふかふかな毛は評判いいからな。
遊んで汚れたりもするだろうけど、それはそれだ。
そういえば、フェンリル達の方はどうなんだろうか。
リルルは喜んで入ってくれそうだけど、他にもお風呂とか洗う必要があるフェンリルもいるかもしれないし。
明日、フェンリルのお世話係になっているチタさんや、シャロルさんにも確認してもらおう。
いずれにしても、明日だな。
「さて、それじゃもう遅いし……そろそろ寝るか」
「うん!」
リーザは明日が楽しみなようで、すぐに寝られるか心配なくらい元気に返事をしているけど、そこはさすがの健康優良児。
と言えるからかはわからないが、ベッドに潜り込むとすぐに目をこすり始めて、尻尾を一本抱き締めて丸くなった。
尻尾を抱き締めて寝るのはいつもの事だけど、最近はよく背中を丸めて寝ているのを見かける。
寂しいとか、何かを警戒しているみたいな方向性ではなく、なんというか見た感じの印象だけど、レオやフェンリル達が丸まって寝ている時のように、安心しきっているからこその寝姿に見えた。
獣人だから、そういうところは人間よりも獣寄りなんだろうか?
いや、レオ達もさすがに自分の尻尾を抱き締めたりはしないけど……時折、レオが自分の尻尾の毛先で鼻がくすぐられて、くしゃみをして起きるのは見た事はあるが。
そういう時は、何が起こったのかと顔を上げてキョロキョロとするレオを、見て見ぬふりをしてあげるのが親心という物だ、親じゃないけど。
一度笑ってしまった時は、恥ずかしかったのか拗ねたからな。
「ワゥ……キューン、クゥーン……」
「ははは、レオ。甘えたいのかー?」
リーザが寝るのとは反対側から、ベッドに上半身を乗せて鼻を近付けるレオ。
明日への不安というか、お風呂の事を考えたからだろう……甘えるような声を出していたので、ベッドに体重を預けるレオを寝転がりながら手を伸ばして撫でる。
日中はそれなりに忙しくしていたからか、すぐに眠気が来たけど甘えてくるレオを邪険にはできず、しばらく相手をする。
リーザはその間にも、健やかな寝息を立てて夢の世界に旅だったようだ……遠足前の小学生みたいにはならないんだな――。
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