穴掘りが役に立つ時が来たようでした
「そこで、タクミ様にお願いがございます。こんな事を頼むのは畏れ多いとは思うのですが……」
「いえいえ、お願いしたい事や言いたい事があれば、どんどん言って下さい。畏れ多いとかありませんから。それで、なんでしょう?」
こちらを窺うように言うペータさんに、首を振って笑顔で聞き返す。
上から抑えるやり方は俺自身がやられていた事で、そういうのはやりたくないし、できるだけ皆の意見を聞けるようにして風通しを良くしたい。
それこそ、『雑草栽培』を持っているだけで畑に関してはほぼ初心者、知識がないに近い状態なので、専門家の意見というのは絶対に聞いておかないといけない事だからな。
「ありがとうございます。その、レオ様の穴掘りですが……他の場所にもできませんでしょうか?」
「ワッフ!? ワフワフ!」
「穴掘りを? うーん、まぁできるとは思いますよ、レオも楽しいでしょうし。でも……」
ペータさんの言葉に、レオが嬉しそうに鳴き声を上げ尻尾を振る。
けど俺は少しだけ難しい表情に。
「予定地全体をレオ単独で穴を掘るのは、ちょっと時間がかかりそうですよね」
レオが穴を掘るとしても、予定地は屋敷の敷地よりも広い。
一日や二日で全体に穴を掘って埋める作業はできないだろう……いや、レオに言ったらできそうな予感はするけど、無理はさせたくないからな。
あくまで、穴を掘るのが楽しいと思える範囲でやって欲しい。
以前、魔法で爆発させて大きな穴を作った事もあったけど、あれはレオにとって楽しい遊びの範疇じゃないだろうし。
「それは確かに……レオ様が掘った後なら、当然改めて耕して土を整える必要はあるでしょうが、私達人の手を入れるよりも良さそうだと考えてのお願いでしたが……」
「ワウゥ……」
残念そうに鳴くレオ。
なんでも、鍬で耕すよりも深く掘り返す事ができるので、奥の方にある土を表面に持ってきたり混ぜたりできるから、という事みたいだ。
地質によっても違うだろうけど、この辺り……というより公爵領は全体的に、奥の方の地質に植物を育てるために良い土が眠っている事が多いのだとか。
奥の地質って事は、もしかするとユートさんが平定したと言っていた、魔境と呼ばれていた時代に関係しているのかな? とふと思う。
確かあれは建国されるより前で、詳細は聞いていないけど五百年以上前の事のはず。
奥の方の地質になっていてもおかしくはない……かな? 素人なりの考えだけども。
「ワフ、ワウゥ?」
「ははは、レオが穴を掘るのを駄目って言っているわけじゃないよ。そうだな……ペータさん、レオだけだと時間がかかりそうですけど、幸い今はフェンリル達が大量にいます」
レオもそうだけど、フェンリル達も穴掘りを楽しめる習性があるみたいだからな。
完全に犬……と思ったけどそういえば、穴を掘る習性はどちらかというと巣穴を掘る狼の習性だったっけ。
狩りもするし、犬とか狼とかフェンリルとか問わずそういった習性が本能にあるんだろう。
……人間に飼われる事前提として改良された犬の中には、本能とか習性にないのもいると思うけど。
「フェンリル達……それなら!」
「はい。フェンリル達には俺から頼んでみますので、予定地全体を掘り返す事もできるはずです」
「ありがたい、よろしくお願いします!」
ペータさんにとって、質のいい畑を作る事は喜ばしい事なのだろう。
深々と礼をするペータさんに、フェンリル達へ穴を掘ってもらうよう頼む事を約束した……群れのリーダーだし、フェリーに頼めばいいかな?
全てを単独でじゃなければ、レオも楽しく掘れるだろうし。
「それじゃ、俺は……」
「申し訳ございません、もう一つだけお聞きしておきたいのですが」
「ん、なんでしょうか?」
畑はレオとフェンリル達に頼むと決めて、様子見も終わったと屋敷へ戻ろうとしたら、ペータさんに引き留められた。
まだ他にも何かあるみたいだ。
「畑の区画分けに使う、木を植えたいと考えております。つきましては、どのような木が良いかとご相談させて頂きたいのです。今すぐでなくても良いのですが、すみません」
「いえ、急いでいるわけでもないのでいいんですけど……区画分けに、木ですか」
区画分け、漠然と畑をいくつかに分けるというのは既にしてあって、まだ整備する前なのでほとんど区別はつかないが、畑道とする場所も印がつけてある。
後々、柵を設けたりする事くらいはあるかもしれないと考えていたけど、木が必要だとは思っていなかった。
「木を使って、外敵を寄せ付けないようにとかですか?」
「いえ、その意味もなくはないのですが……単一の作物を育てるのであれば、畑全体を何かで囲むくらいです。ですがタクミ様が作られる薬草畑はそうではありません」
「まぁ、色んな種類の薬草を育てますね」
少なくとも、今の予定ではまず十種類以上の薬草を育てる事にしている。
ラクトスの街へ卸しているだけでもそれくらいの種類になるし、ミリナちゃんが作った薬のための薬草を作ったり、その他の種類も必要に応じて作らなければいけない。
簡単に考えて、後々に二十種類以上になるのは間違いなさそうだ。
「完全に塞ぐような壁でも良いのですが、畑の状態を保つためには木が最適なのです。その木で、別の畑に……」
ペータさんが言うには、複数種類の植物を育てるのであれば木で区画を分けて、別の畑に種子などが飛んで行かないようにするのがいいのだとか。
壁で塞いでも同じ効果が見込めるけど、木だと落ち葉などが土の力になったり、根を張って用地を固める効果も見込めるのだそうだ。
あと、風除けだな……防風林みたいなものか。
これは壁の方が効果が高いけど、全く風が届かないというのもいけないらしいから、結局は木の方がいいとか。
「どのくらいの高さの木が良さそうですか?」
「栽培する薬草にもよるとは思いますが……ここはあまり強い風が吹く場所ではないようなので、育てる植物の背の倍から三倍程度でしょうか」
「成る程……」
現状作った事のある薬草は、大きい物でも膝を越えるかどうかくらいだ。
五十センチあるかないかってところだな。
その倍から三倍程度という事なら、人の頭の高さくらいで良さそうかな――。
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