氷漬けになった対処を考えました
「えーっと、さすがにこのままってわけにはいきませんよね? とはいえしばらく融けそうにないですし……」
氷漬けのニグレオスオーク三体は、同じく氷漬けになっている木と完全に繋がっていて、引き剥がすのも一苦労そうだ。
動けば汗が滲み出るくらいの気温でありながら、魔法のせいなのかなんなのか、氷の表面はまだまだ融けそうにない。
近くにいるだけでいいなら、涼しくていいんだけど……斬り裂かれたり、噛み付かれたオークの惨状を見なければ。
「そ、そうですね……ニグレオスオークが氷漬けになっているというだけなら……いえ、それでも少々難しいでしょうか」
「……っ! うぅむ、硬く凍り付いていて、引き剥がそうにも簡単には……。時間を掛ければ、融け始めるのと一緒に、なんとかできるとは思いますが」
困ったように俺の声に答えるのは、オーリエちゃんの護衛班長、女性の近衛護衛さん。
もう一人は、テオ君の護衛班長の男性近衛護衛さんで、金属の籠手を着けたまま氷に打ち付けたりしていたけど、割れる気配はない……さすがに傷は入っているようだから、続けていれば割れるだろうけど。
ともあれ、この氷漬けになったニグレオスオークをどうするかだ。
夕食用にと思っていたのだから、持って帰らないといけないんだけど……人の力で一体丸々持って行くのは苦労する。
切り分けて手分けして、と思っても全身氷漬けになっているのでそれも難しい。
一塊だったり、氷漬けでなければフェンリルの背中に乗せたり咥えてもらったり……と言った方法もできたかもしれないけど。
割ればなんとかなるかもしれないが、今すぐそうするのが難しいのは、今男性の近衛護衛さんがやった通りだ、剣とか刃物を使うと刃こぼれしそうだし。
そう、俺がフェンリル達を褒めるかどうかを少しだけ悩んだ理由はここにある。
木と一緒に氷漬けにしたら動かせないし、そもそも凍っていたら運ぶのも手間がかかりそうだ、と考えたからだ。
てっきり俺は、噛み付くなり爪で切り裂くだけで終わると思っていたんだけど……まぁ、確実に止めを刺す方法としてフェンリルにとっては、一番いい方法をと思ったのかもしれないが。
これも、具体的な指示を出していなかった俺が悪いなぁ。
「……フェンリル達がこれ程の魔法を使えるのであれば、もしかしたら……?」
「何かいい案が?」
困りつつ、思案していると女性の近衛護衛さんが何かを思いついた様子だ。
「同じく魔法で解かしてしまうのはどうでしょう? こう、炎とかで」
金属鎧をガチャガチャと動かしながら、腕を振って炎が広がるようなジェスチャ―も加える。
確かに融かすなら熱を加える、それなら炎でと考えるのは間違いじゃないとは思うけど……。
「あ~……それは確かにいい案かもしれませんけど、森の木々が燃えてしまいません?」
「これだけの規模を一瞬で凍らせるフェンリルが、融かせるような炎となると周囲の木々が簡単に燃えてしまいそうですね」
「そ、そうでした……」
氷が融ける前に、周囲に広がった炎が木々や草花を燃やしてしまう想像の方が勝つ。
というか、想像ではなくおそらくそうなるだろうと予想できたため、男性近衛護衛さんも俺に同意しながら肩を落とす。
さすがにこんな所で火事を起こすわけにはいかないと、恐縮した様子の女性近衛護衛さん。
二人共、フェンリルの戦いを初めて目の当たりにした驚きと困惑で、上手く頭が回っていないのかもしれない……俺もそうだし。
俺は以前フェリーとフェンが戦うのを見たから、運動能力がちょっとどころじゃなくよくわからないくらい高いのは知っていたけど、こうして魔法を使って戦うのを見るのは初めてだからなぁ。
ランジ村への移動中、ユートさんが合流した時にも見たけど、あれは壁を作ったくらいでしばらくすると消えたし。
ニグレオスオークや木を氷漬けにしているのは消える気配がないので、あの時とは違う魔法なんだろう、多分。
「とりあえず、持ち帰るにはどうしたらいいか、フェンリル達にも聞いてみましょう。何か方法があるのかもしれませんし」
「は、はぁ……」
ここでこうして考えているだけでは解決法が見つかりそうになかったので、相談するよう提案。
近衛護衛の二人は半信半疑というか、相談してどうにかなるのか? といった雰囲気だったけど、それはフェンリルと会話とかはっきりとした意思疎通ができるのか、という疑念のようにも感じた。
リーザやレオの通訳とか、そういうのに慣れていないからだろう。
クレアがいれば、シェリーを通して話す事もできるけど、獣人とあまり関らず従魔を持たない人にとっては、魔物……全てではないみたいだけど、人間以外と話す事に懐疑的になってしまうものなのかも知れない。
ランジ村やラクトスの街にいる子供達は、そういった事を気にせずレオ達と遊んだりしているけど、あれは無邪気さがなせる事だろうからな。
「それで、なんとか融かさないと持って帰れないんだけど……どうしたらいいと思う?」
というわけで、フェンリルに詳しいどころかフェンリルそのもの、群れのリーダーフェリーを呼んで、氷漬けのニグレオスオークを前に相談開始。
「グルゥ?」
「んっとね……」
一緒に来てもらったリーザの通訳と、フェリーが右前足を上げて爪を見せる仕草。
斬って運べばいいのでは、と言っているようだ。
「えっと……斬れるのかどうかって疑問は、今更か」
レオ程じゃないとしても、フェンリル達の爪の威力は今しがた目の当たりにしたばかり。
フェリーがやれると言っているんだから、男性の近衛護衛さんが金属の籠手で殴っても、傷くらいしかつかなかったのでも斬れるんだろう。
「……」
「あの氷が斬れるとしたら、我々の鎧も全く役に立たないのかもしれないな……」
それならと、実際にちょっとだけフェリーにやってもらうと、バターでも切っているかのようにあっさり氷の一部が斬り裂かれた。
それを見た近衛護衛さんは、女性の方が絶句し、男性の方は自分が身に着けている金属鎧に触れて何やら呟いていた。
金属もあっさり斬れるなんて事……ないとは言えないんだよなぁ。
さすがにこちらは試したりはしないけど――。
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