フェンリル達は圧倒的過ぎでした
「ガウワウ!!」
俺が指示の出し方について考えている間にも、指示を出された先頭のフェンリル二体は、ニグレオスオークへと飛び掛かった。
一体は、奥にいるニグレオスオークの首元に食らいつき、狙い違わず噛み付く。
そのままの勢いで、フェンリル自身より体の小さいニグレオスオークを引き倒し、その後首の力だけで別の一体へと投げ飛ばす。
噛み千切るつもりかと一瞬思ったけど、成る程投げ飛ばす事で別の一体にも攻撃を加える方法ってところか。
一瞬にして乱入してきたフェンリルに、仲間の一体がやられたうえ投げつけられたニグレオスオークは成す術なく、驚きの鳴き声っぽいものをあげながら二体で折り重なりつつ太めの木へと叩きつけられた。
さすがにそれだけでやられたりはしていないようだけど、最初に首元に噛み付かれたニグレオスオークは一瞬にして意識ごと狩り取られているようだ。
遠くて見えないけど、首は噛みついたフェンリルの牙に貫かれていると思われる。
「ガァ! ガウ~」
もう一体は、一番手前にいてこちらに背を向けているニグレオスオークの頭上に飛び上がり、降りて来ると同時に左前足の爪で右肩辺りから左の脇腹辺りまでを一気に斬り裂いた。
体が二つに別れる事はなかったけど、斬り裂かれる圧力と一緒に、二体のニグレオスオークが折り重なっている方へと弾き飛んだ。
余裕を見せるためか、フェンリルはニグレオスオークを斬り裂くと同時にシュタッと着地して、勝ち誇るように右前足を上げて暢気な鳴き声を出す。
フェンリル達にとって、奇襲でニグレオスオーク達を狩るのは遊びに近いのかもしれないな。
あと、フェンリル二体とも傍で見ている分には激しい動きながら、実際は急激な体の転換をしていないように感じるのは、背中に近衛護衛さんをそれぞれ乗せているからだろう。
乗っている人達は、それでも結構振り回されている感があったけど。
飛び掛かるように指示を出す前に、降りてもらった方が良かったか……これも、次への課題だな。
次があるかはともかくとして。
「ガウ」
「ガァ、ガァゥ」
「ん?」
その後、奥のフェンリルが後ろにいる……手前のニグレオスオークを斬り裂いたフェンリルに対し、鳴き声をかけた。
手前のフェンリルが頷いて返すのは、何かを示し合わせるように感じて、首を傾げる俺。
そう思った次の瞬間、ブワァッ! と周囲の木々がざわめくのと同時に俺達のいる方……いや、全方位に何かの波のようなものを感じる。
「これは……魔力?」
覚えのある感覚、以前レオに放出してもらった魔力に似ている。
あれ程ではないし、重圧みたいなのは感じずただ目に見えない何かが周囲に広がったような感覚。
「ワウ。ワフワフ」
「まだまだって、レオにとってはそうでも俺達にとってはそうじゃないからな?」
俺の呟きにレオが頷き、フェンリルの方を見てまだまだだと鳴くけれど、人間にとってはそうではない。
実際、周囲を急いで確認してみると、顔も覆う兜を被って完全武装の近衛護衛さん達はともかくとして、ハンネスさんやライラさんは顔をしかめているし……平気そうなのは俺とリーザ、それからテオ君とオーリエちゃんくらいか。
表情はともかく、近衛護衛さん達の方からは驚愕交じりの呻き声がかすかに聞こえるし。
レオ程じゃないと言っても、圧のようなものは微かに感じるし、急にそれらが発せられたら誰でも驚いたり、表情を歪めてしまうか。
って、ん? 俺とリーザはまぁレオが何かしてくれているっぽいけど……微妙にレオから発せられる気配のようなものがあるから。
でも、後ろにいるテオ君とオーリエちゃんが平気そうなのはなんでだ?
もしかして、ティルラちゃんみたいに多くの魔力を持っているとか……いや、それはあまり関係ないか。
あぁ、レオの後ろにいるから影響がほとんどないのか。
「レオ、ありがとうな」
「ワッフワフ~」
何がとは言わずとも、背中を撫でてお礼を伝えるとレオがなんでもない事のように鳴いた。
リーザも、俺の真似をしてレオの背中を撫でている。
やっぱり、レオが俺達に影響が出ないように何かしてくれていたんだな。
そんな事をしている間にも、フェンリル達の方で動きがあった。
いや、動きというか広がった魔力が二点に集中したような、そんな感覚だ。
フェンリル自体は、顔くらいしか動かしていない。
集中している二点は、飛び掛かって行ったそれぞれのフェンリル。
「「ガァ!」」
そうして大きく吠えると、ほんの一瞬だけ青白いスパークがフェンリル達の顔の前に発生した。
次の瞬間、三体のニグレオスオークが固まっている場所が一瞬にして凍る……叩きつけられていた太い木も一緒に。
「氷の魔法、とかそんな感じか……」
「すごいすごい!」
巨大な氷柱? いや、地面付近でニグレオスオークが一塊になって凍っているので、柱っぽくはないけど……太い幹と背の高い木を見上げれば、下を見なければ木を象った氷柱にしか見えない。
そうか、ブレイユ村とかで氷漬けになった魔物達、森でフェンリルが狩りをしたあとに持って帰ってきたのって、こうやって凍らされていたのか。
リーザは無邪気に喜んでいるけど……どうしようかなこれ。
「ガァゥ、ハッハッハッハ……」
「ガウ~ガウ~、ハッハッハッハ……」
尻尾を振って、舌を出してパンティングをしながらこちらに戻って来るフェンリル二体。
しがみ付くようにして背中に乗っている近衛護衛さんは、まぁ驚いているくらいっぽいからいいとして……褒めて欲しそうにしているフェンリル達はどうしたものか。
「えっと……うん。指示通りニグレオスオークをやっつけてくれたな。うんうん、偉いぞー」
ちょっとだけ迷ったけど、具体的な指示を出さなかった俺が悪いと考えて、とりあえずレオから降りて戻ってきたフェンリル達を撫でて褒めておく。
若干棒読みっぽい声になったのはご愛嬌ってところだ。
その後、レオから降りてフェンリル達を褒めた後、近衛護衛さんのうち二人をつれて氷漬けにされたニグレオスオークの所へ移動。
他の人達は、レオやフェンリル達と一緒に観戦していた場所にいる……リーザやテオ君、オーリエちゃんのはしゃぐ声が聞こえてきたりもしている。
仲が良さそうで何よりだ――。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。







