ヴォルターさんはヴォルグラウと仲良くやっているようでした
「あぁ成る程。ヴォルグラウ用のおやつですね。相変わらず仲がいいですね」
「まぁ、私がフェンリル達と接した後は、必ず寄って来てくれるので……これくらいはしてやりたいなと」
「ははは、まだフェンリル達には慣れませんか」
「な、慣れる日が来るとは思えませんが……ヴォルグラウのおかげで、なんとかなっています」
ヴォルターさんは、レオを始めフェンリル達への恐怖心とかをまだ克服できていない。
村の人達や、屋敷の人達のほとんどが、レオだけでなく大量にいるフェンリルにも慣れてくれているのになぁ。
まぁ一度怖いと感じて、それが深く刻まれたら払拭するのにも時間がかかる人だっているか。
とは言っても、物語を作って読み聞かせをし、フェンリルやシルバーフェンリルが人とは敵対する魔物ではない、というような事を浸透させる役目を自ら買って出たヴォルターさん……半分くらいは俺からの提案だけど。
フェンリルとも接しておかないといけないと、セバスチャンさんから特に強く言われているので、我慢して散歩に付き合うか、撫でる時間を設けているようだ。
その時、恐怖心を我慢したヴォルターさんをヴォルグラウが癒してあげているという事だろう。
「……どうぞ、ヴォルターさん。昼食後なので、あまり多くはありませんが」
「いえ、助かります。ヴォルグラウも喜ぶと思います。ではタクミ様、私はこれで」
「はい、ヴォルグラウ達にもよろしく言っておいて下さい」
ヘレーナさんから、食べ物の入った包み……人が食べる場合は一食分は余裕でありそうな量を持ち、厨房を出て行くヴォルターさん。
ヴォルグラウだけと考えたら、多過ぎじゃないかとヘレーナさんに聞くと、他のフェンリル達にも別けるかららしい。
ヴォルターさんなりに、フェンリルと仲良くなろうと頑張っているんだなと納得。
「それで、旦那様はどんな御用でしょうか?」
ヘレーナさんが改めて、ここにきた俺の用を聞くために問いかけて来る。
ヴォルターさんは正式には使用人ではなため、以前と同じくタクミ様と呼ぶ。
ヘレーナさんは本来、クレアの料理人だから旦那様と呼ぶ必要はないんだけど、共同での屋敷の主人だからそう呼ぶ事にしたそうだ。
ともあれ、厨房に来た用事だな。
「えっと、フェル……ブレイユ村の方にいたフェンリルなんですけど、長距離を走って来て労ってやりたくて。フェリー達も食べたそうでしたので、今夜はハンバーグがいいかなと。もう他の料理を準備し始めていたら、明日でもいいんですけど」
「成る程、そういう事ですか。まだ夕食の支度は始めていませんでしたので、ちょうど良かったです。元々考えていた献立はありますが……それはまた後日に回しましょう」
まだ夕食の準備を開始する前だったらしく、今夜はハンバーグを作るので大丈夫みたいだ。
もしかしたら、ヴォルターさんが求めたヴォルグラウ達のおやつを用意するため、少し遅れていたのかもしれない。
いつもならもう夕食のための調理が始まっている時間だし、何かを調理した後の片づけを他の料理人さんがしているから。
タイミングが良かった。
「すみません、急に変えてもらう事になって。元々の献立は何にするつもりだったんですか?」
ヘレーナさんに謝りつつ、興味から予定していた献立を聞いてみる。
そちらでフェルが喜ぶような物であれば、ハンバーグは明日にしてもいいかもしれないからな。
フェリーには、我慢してもらう事になるけど。
「昨夜タクミ様方が食べられたお米……炊くとご飯になるのでしたか。あれを使って何かできないかと。また、スープ……ミソスープですか。あれも少し味を変えてみようかと」
「成る程……」
聞いてみれば、ご飯のアレンジ……というか、炊く時に別の何かと一緒に炊いてみては、と思って考えていたらしい。
ミソスープというか、味噌汁は入れる具材を変えればまた違った味わいになるのではないかと。
そのため、ある程度料理人さん同士で相談して、こうしようと決めて今夜の献立として出そうとしていたらしい。
さすが、新しい食材や調理法だとしても、アレンジ含めて美味しさや料理の幅を広げる事に余念がないな。
ただ、炊く時に他の具材とという発案は炊き込みご飯みたいでいいんだけど、牛乳と一緒にとかはもっとちゃんと試作してからにして欲しいと思う。
ミルク粥とかあるけど、失敗したら酷い事になりそうな予感、というか悪寒を感じた。
薬草というか、七草粥みたいな食べれる植物と一緒に炊くというのもあるけど、こちらはまだ提案しない方が良さそうだ……俺も詳しい作り方を知らないしな。
「ご飯は、醤油やキノコ類と一緒に炊き込むと美味しいかもしれません。俺自身は作った事がないので、色々試してみる必要はあると思いますが……」
使う醤油やキノコの種類など、こちらも俺自身はやった事がなく、話しに聞くくらいだったので試してから食卓に出す必要はあると思うけど。
「あとご飯はそのままでも、他の料理を充実させて合うように調整するのでもいいですね。例えば、今俺が言ったハンバーグは、パンとも合いますけどご飯とも合います。もちろん、味付け次第ではありますが」
「おぉ、ハンバーグとご飯が!」
俺が食べてきたハンバーグが、日本人好みにアレンジされているという理由もあるだろうけど。
それでも、ハンバーグとご飯は鉄板の組み合わせだな……洋食屋でも、一緒に出て来る事だってあるわけだし。
なら今日は、フェンリル達にはご飯があまり好まれそうになかったから別として、俺達が食べる方にはハンバーグと一緒にご飯を出してもらうのもいいかな。
パンに挟むだけより、バリエーションが出て皆も喜びそうだ。
「濃い目の味付けで、ご飯と一緒に食べるとパンとは違った美味しさが口の中に広がるんですよね。他には……」
なんて、最初の用を忘れてご飯について語ってしまう俺。
料理人さん達は俺の話を聞き逃さないよう、真剣に聞いてくれているので今後もっと美味しいものが出て来てくれる事が期待できそうだな。
あ、そうだ。
話している途中、お米を使った料理を思い出した……あれなら簡単お手軽、俺でも作り方がわかるし作った事もあるからな――。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。







