炊き方によっても違いが出るようでした
「気にする必要はないぞ、タクミ殿。――ユート閣下も、以前は同じような反応を成されておいででしたからなぁ? あれは、私がまだティルラくらいの頃でしたか……」
「あ、エルケその話をする!? あれは仕方ないんだよ、僕とタクミ君では求めていた期間が違うんだから! ものすごく久々だったんだから! あと、感動したのは味とかよりも、ようやく安定して食べられた事に対してだから!」
俺に声を掛けてから、ユートさんに目を向けつつも昔を思い出すように目を細めるエルケリッヒさん。
焦ったユートさんが何やら言い募るけどそうか、ユートさんも俺と同じような反応をしたんだな。
それを見て覚えていたからこそ、さっき俺が思わず涙を零した時にもエッケンハルトさん達のような反応をしなかったのか。
こうなるってなんとなくわかっていたのかもしれないな。
「ですが、ほとんど同じ反応でしたぞ? 違いはあれど、今のタクミ殿を笑うのであれば、あの時のユート閣下自身をも笑う事にもなるかと思われますが……」
「くぅ……」
エルケリッヒさんにやり込められて、悔しそうに声を漏らすユートさん。
ルグレッタさん相手じゃないのもあるんだろうけど、ユートさんも悔しそうにするんだなぁ……こういう時は大体、逆に喜ぶ事が多かったのに。
それはともかく、確かに俺とユートさんじゃ生きている年数というか、この世界に来てからの年季が違う。
エルケリッヒさんがティルラちゃんくらいの頃って事は、数十年前になるかな。
ようやく安定してとユートさんは言っていたから、こちらの世界で一切食べられなかったという事ではないとは思うけど。
それでも久々に食べて、これからも食べられる喜びに俺と同じように涙を零したんだろう。
ユートさんの場合は、生きている年数が他の人の百倍くらいスケールが違うから、久々に食べたのがどれくらいになるのかわからないけど。
「んぐ。うん、やっぱり美味しい」
「はい。確かに、タクミさんが言っていたように、特別凄く美味しいとまでは感じませんが……なんというのでしょう、ホッとする味と言いましょうか」
「そうだね。ご飯とそれから味噌汁もか。どっちも、単体で特別な美味しさではないんだよ。でも、体に染み渡るような感じもあるんだ」
必要な栄養分がとか、そういう意味も少しくらいはあるのかもしれないが……ともあれ、日本人として慣れ親しんできた味なわけで。
それだけで、クレアが言っているようにホッとするし、体に染み渡っていくような気もする。
「でもなんだろう? 以前食べていたのよりも、美味しく感じる気がするような。久しぶりだったからかな?」
味噌汁は、別物に近い味になっているからともかくとして、ご飯の方は記憶にある味よりもさらに美味しく感じるのは何故だろう?
久しぶりだから、食べたくても食べられなかったからか、特に美味しく感じるとかなのかもしれない。
「あー、それは多分作り方にあるんだと思うよ、タクミ君」
「作り方? って、もう復活したんだ」
さっきまで、エルケリッヒさんにやり込められていたユートさんは、もう平常に戻っていた。
「ふっふっふ、僕の打たれ強さを舐めてもらっちゃ困るな。伊達にルグレッタに鍛えられていないからね!」
それは、あまり得意気になる事ではないと思うんだけど……離れた所で食事をしているルグレッタさんにも、ユートさんの声が聞こえたのか、溜め息を吐いている様子だったし。
まぁユートさんなら、ルグレッタさんに多少呆れられても、それすら気持ちいいとか言い出しかねないけど。
「おっと、僕の事はともかくとしてね。タクミ君が食べたご飯って、基本は炊飯器で炊いた物でしょう?」
「まぁ、うん。レンジでチン! のやつも食べていたりもしたけど」
パックになっていて、数分温めただけですぐ食べられるあれは便利だった。
一人暮らしだから頼る事が多くて、でもやっぱり少し味気なかったりもしたけど。
とにかく、そういうインスタントのご飯以外では当然、炊飯器で炊いたご飯を食べていたのは間違いない。
現代日本人で、自炊などをした時に炊飯器以外でご飯を炊く人はほとんどいないだろうし。
「炊飯器のも十分美味しんだけどね……色々と切磋琢磨していたし。でも、ご飯って炊き方というか炊くために使う物によっても味が変わるんだよ。本当に違いがあるのかまでは、僕もわからないけど。でも確かに食べて見ると違うって感じるんだ」
「炊くために使う物の違いかぁ。それはもしかして、土鍋で炊いたりとか?」
実際にやった事はないけど、土鍋で炊いたご飯は美味しいという話は聞いた事がある。
あと他には……アウトドアとかでやる飯盒炊爨か。
飯盒炊爨の場合は、外で食べる特別感などの気分から来る美味しさの可能性もあるかな。
外でと言えば、今も屋敷の中庭で屋外だし大勢がテーブルについていて、特別感という意味ではその通りなのかもしれない。
「そうそう。で、今回は土鍋で炊いているからね。その炊き方を教えたのもあるけど……他にもいくつかあるけど。とにかく、タクミ君が特に美味しいと感じたのには、記憶違いとかではなくてちゃんとした理由があるってわけだね」
「成る程……同じだけど、ちょっとした事の違いでって事なんだ……」
食べる環境や気分にも味覚は左右されるけど、それだけじゃなくちゃんと美味しさの秘密じゃないけど、味が違う理由もちゃんとあるわけだ。
「……うん。やっぱり美味しい」
味を確かめるよう、もう一口ご飯を食べると感じる確かな美味しさ。
今まで屋外で食べた事はほとんどなく、炊飯器やパックの物以外も食べて来なかった俺だからこそ、同じような経験しかしていない人には、一度でいいから土鍋で炊いたり外で食べてみて欲しいとすら思った。
おにぎりでもいいか……空気のいいところで、ピクニックみたいな感じで食べれば、なんて。
「あ、でもそういえば、お米の違いもあるかな?」
「それも少しはあるだろうね。やっぱり、美味しいお米かどうかっていうのもあるし。品種によって違うから」
お米といっても、種類は多種多様。
日本人の美味しさを求める探求心ゆえか……それだけじゃないだろうけど、とにかく、お米は種類によっても味が違う。
ちょっとした形の違いだってある。
炒飯などの炒め物に向いている物もあれば、もち米のようにご飯とは違った食べ方に向いた物もあるんだからな――。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。







