日本での経験をクレアに話しました
「もちろんです、タクミさんが私を見ているように、私もタクミさんを見ています。監視とか、そういう理由ではないですからね?」
「うん、それはわかっているよ。俺も同じだからね」
誤解されるかと思ったんだろう、少しだけ瞳を揺らしてこちらを窺うように言うクレアに、頷いて安心してもらう。
好きだから、視界に入ればクレアを目で追ってしまうし、見える場所にいなければどうしているんだろう? と考えたりもする。
それは意識してもしなくてもで、クレアも同じなのがわかったのは嬉しい。
「それで気付いたんです。タクミさんがこれまで隠そうとしていた事を……」
隠そうとしていた事、それはエメラダさんの緊張を解そうとしていた時に、自分でも少し意識したけど……皆の前で発表する事に対してだ。
あぁ、もしかしたらあの時、クレアは俺の様子を見て確信したのかもしれないな。
ともかく、多くの人の前に立つ事は少しくらいは慣れてきたから、緊張し過ぎたりはしなくなっている。
けど今回は、お互いに話すだけだったり、決まった事を伝えるだけならまだしも、どう思われるかという部分もあったからな。
「あまり、こういうのは好まれないとは思ったのですけど」
「いや、そんな事はないよ。むしろ俺としては、気付いてくれて嬉しい、かな?」
隠そうとしていた事を発見し、それを暴くのは勇気がいる、される方もする方も。
される方は隠していたからこそ、情けなく思ったりもするし、暴いた方は知られたくない事を知って嫌われてしまうのではないか不安になる、のかもしれない。
クレアも同様で、これを言って俺に嫌われないかと不安だったみたいだ。
俺も、クレアに気付かれたら、情けないと言われてしまわないかと不安だったしな。
「上手く表に出さないようにしていたとは思うんだけど、やっぱり俺には隠し事は向いていないのかもね。セバスチャンさんには、よく見抜かれるし」
「セバスチャンは、ちょっと特殊な気がします。これまでの年齢とか経験とか、そういう事なのでしょうけど」
まぁ、クレアの言う通りセバスチャンさんは別格か。
「私には知らない事が多くて、タクミさんに何ができるかわかりませんけど……でも、できる事ならタクミさんが我慢したり、苦しんだりはして欲しくないんです」
「それは、俺も同じだよクレア。そうだね、お互いがお互いを想っているって事なんだよね」
俺がクレアに辛い思いをして欲しくないと思うのと同じく、クレアも俺に対してそう考えているんだろう。
男女は関係なく、俺だけがクレアに辛い思いをせたくない、俺は我慢して頑張ればいい……そう思うのはただの独りよがりなんだろうな。
クレアに言われて、そう気づいた。
「だからタクミさん、もしよろしければ教えて頂けませんか? 何故今回だけ、タクミさんが普段と違う様子になっていたのかを。人の前に立つのが、というわけではないと思いますが、そうなった原因や理由まではわからなくて……」
「それは仕方ないよ。話していない事、というより話す必要のなかった事だからね」
人の前に立つ事自体が原因だと思わないのは、面談だったりと、何度か従業員さん達や使用人さん達の前に立って、話をする俺を見ていたからだろう。
そして、クレアがわからないのは当然の事。
こちらの世界に来る前に、経験した事が原因なんだから。
「つまらない話だけど、聞いてくれるかい?」
「もちろんです。タクミさんの話に……タクミさん自身のこれまでに、つまらない話なんてありませんから」
「ありがとう、クレア。この世界に、レオと一緒に来る前の事なんだけど……前にも話した通り、俺は働きづめでね。それで……」
日本にいた時の事は、ある程度クレア達に話してある。
働きづめでレオに構う時間は多くなく、精神的にも肉体的にも追い詰められていた時の事。
レオに関しては、帰るのが遅くなってしまうため、大家さんに様子を見てもらったり伯父さん達に預けたりなど、随分お世話になったけど。
それだけお世話になっているのに、迷惑を掛けちゃいけないなんて弱音を吐いたり相談できなかったのは、俺の悪いところだろう……追い詰められていて、考えられなかったのかもしれないが。
とにかくその頃、というか仕事を始めてからだな。
新入社員なのに、何も説明もなく会議で前に立たされ、その場で初めて見る資料を渡されて発表なんて事がよくあった。
もちろん資料は俺が作った物ではなく、直属の上司が作ったかなり適当な物……企画会議とか、その他諸々でも同じくだった。
当然、適当な発表をさせられた俺は、会議に参加している人達から追及されるわけで。
しかも自分が用意した物ですらなく、把握すらできていないためにしどろもどろになって、さらに追及されるの悪循環。
それに資料を渡して俺に擦り付けた上司まで加わるから、始末に悪い。
まぁそれがまかり通っているうえ、俺だけがそうされたわけではなかったから、同僚もどんどん会社を辞めて減っていったわけだが。
もしかしたら、能力のある人……仕事のできる人と言い換えてもいいけど、そういう人だったらその場で一瞬一瞬の判断で何とか切り抜ける事ができたのかもしれないが、俺には無理だった。
それらの事がトラウマになり、多分軽い社会不安障害になっていたんだろう……今考えると、よくそれだけで済んだなと思ったりもするが、なんとかなっていたのはレオがいてくれたからだと思う。
レオのためにもっと頑張らなきゃ、とか考えて、呟いて、不安を無視していたからな。
それがいいか悪いかは別として。
そしてそのトラウマが、さきの大広間で顔をのぞかせたわけだ。
なんとか我慢しきれたのは、他にも緊張していた人がいたり、俺を注目していても皆がちゃんと話を聞いてくれる様子だった事。
それと、追及するといっても悪い意味ではなく、発表される事に対する疑問など、興味を持っての事だったからっていうのもあるか。
会社での会議は、半分以上が興味なさそうな素振りで余所見をしていたり、居眠りしているのもいたくらいだからな。
どれだけ頑張っても、不安を押し殺して追及に答えても、誰も認めてくれないあの空気は二度と経験したくない。
そんな俺の経験を、ジッとこちらを見つめるクレアに話していった――。
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