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安心感と雇用について考えていたようでした



「ラーレの事も含めて、北の山が以前より安全と言えるのは、ここにいる父様達や私しか知りません。報せて広めようにも、上手くいく可能性は低いと思います」


 まぁ、公爵家が言えばある程度信用はしてくれるかもしれないけど、皆が皆、心から信じるかは微妙だからな。

 だったら、余計な混乱を招いてしまわないために、一部だけ知っておけばいいってところかな。

 スラムに住んでいる人達は、特に信じてくれない人が多そうだし。

 それからティルラちゃんが話してくれた考えはこうだ。


 一度ラーレで軽々と外壁を越えて、街に突入したティルラちゃん。

 それを見ている人は多く目立ってもいたから、北の山から同じように、空を飛ぶ魔物が襲来したら……という人が出てきているらしい。

 だからこの機会に、外壁の補修と称して少し高くしてみてはどうかかという意見。

 もちろん補修であって拡張ではないから、高くするのはほんの少し……まぁそこは予算などと相談みたいだけど、とにかく頑丈にする事で、街に住む人たちの安心感をと考えたらしい。


「成る程、自らの行いを逆手にとってというわけか」


 片目だけを大きく開けて、ティルラちゃんを窺うエルケリッヒさん。


「はい。私はあれから、姉様やタクミさん、セバスチャン達に言われて反省し、二度と短慮な行動を慎むよう心掛けます。姉様、タクミさん、それから父様も爺様にも、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」


 最初から、こうしてあの時の事を改めて謝る事を決めていたんだろう。

 さっきまでは紙束に目を落として、記されてある事を読んでいる時もあったのに、エルケリッヒさんに頷いてからは顔を上げて言った。

 そしてクレアや俺だけでなく、エッケンハルトさん達に深々と頭を下げるティルラちゃん……セバスチャンさんやアロシャイスさん達にもだ。


「うむ、街へ行くのは構わんが、皆が驚き、恐れさせたのは反省すべきだ。以後慎むように」

「はい、父様」


 少しだけ重い雰囲気を醸し出して締めるエッケンハルトさんに、真っ直ぐ目を向けて頷くティルラちゃん。

 傍から見ていると、親子だとか以前に十歳の子供には見えないくらい、しっかりしている。

 無邪気にレオ達と遊ぶばかりじゃないんだなぁ。

 エルケリッヒさんが、厳しくし過ぎではないか!? とエッケンハルトさんを見てオロオロしていたから、台無しだったけど。


 ともかく、ティルラちゃんの反省は終わりで話の続きだ。

 外壁を補修して住民に安心感を与えるのと共に、スラムの人達にもと考えているらしい。

 これは、スラムが街の北側にあるためで、空から魔物が……という恐怖心を一番感じているだろうからとか。

 スラムから山を見れば、時折空を飛んでいる魔物が見えたりもするみたいだから、もしかしてという考えは消えないものらしい。


「つまり、外壁を高くする事で北側の山を見えにくくする効果も見込めます。そうして、安心感を得ると共に外壁補修に際して、スラムにいる人達の仕事とする事もできるんです」


 本当に魔物の脅威は取り除かれたとは言えないけど、外壁を高くして外を見えなくする事で魔物への恐怖心を薄めようって事か。

 俺なんかは、高い壁に囲まれたら閉塞感を感じると思ってしまうけど、危険な魔物がいるこの世界ではむしろそちらの方が安心できるのかもしれないな。


「スラムにいる者達を雇うわけか……」

「はい。ニックも言っていましたが、今スラムの人達は真っ当に生きようと、ちゃんとした仕事に就こうという考えが広まっているみたいなんです。もちろん、全員じゃないですけど……」

「そうなのか、ニック?」

「へ、へい! 仰る通りでさぁ。アニキとティルラさんのおかげで、今スラムで悪さをしようと考える奴はほとんどいません。だからといって、街を出ていく金もない奴らばかりです。だったら、できる事なら真っ当に働いて生きて行こうと、考えている奴らが多くてアッシのところへ来るくらいでさぁ!」


 問いかけるエッケンハルトさんに、緊張しながらもいつもの調子で答えるニック。

 相手が誰であれ、緊張し過ぎないでいられるのは一種の才能かもなぁ。

 ともかく、スラムにいる人達が働きたがっているというのは、以前から聞いていた。

 街道の整備で雇ってくれないか、希望者が殺到するくらいだからな。


「それも、ニックとタクミさんが原因らしいんですけど……」


 ティルラちゃんが話してくれる原因とやらは、俺がニックを雇って真っ当に働いて生活ができているからだそうだ。

 スラムから抜け出し、カレスさんに教えられながらだけど、徐々に読み書きもできるようになってきているらしいニック。

 元スラムの住人として、憧れ……とまでじゃなくても、俺達も私達も近い事ができるんじゃないか、と思う人が増えたとか。


 あと、エッケンハルトさんの放った密偵さんが、コッソリ目立たない範囲で真っ当な方向に誘導しようとしているのもあるとかなんとか。

 草の根活動じゃないけど、内部から地道に働きかけるっていうのは有効なのかもな。


「セバスチャン達とも話したんですけど、タクミさん達がここに来てラクトスから離れたのもあって、その影響力というかそういうのがなくなる前に、行動を起こすべきだと思いました」


 俺が離れる、つまりレオもランジ村にいる事になるので、ラクトスには簡単に行けなくなる。

 今俺やレオの噂とかティルラちゃんの事もあって、スラムの人達がおとなしくなっているので、治安も良くなっているとか。

 ただ俺があまりラクトスに行けなくなれば、そうした部分も少しずつなくなっていって以前までのラクトスに戻ってしまう可能性もあると考えられるわけだ。

 ニックがいるから、ある程度は抑えが効くし行こうと思えば半日程度で、レオに走ってもらえるけどそれはともかく。


 だからティルラちゃんは、今のうちに手を打とうとしていると……これはセバスチャンさんというより、アロシャイスさんからの意見も大きそうだな。

 鉄は熱いうちに打て、ってところか――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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