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1425/1998

客間で談笑を始めました



「個人的な趣味が入っている事は否定しないけど、そうじゃなくてね。ここで暮らしていたり、ある程度察している人はともかく、様を付けて呼ぶのはちょっとどうかなって思ったんだよ」


 否定しないんだ。

 ユートさんの趣味はともかく、確かに兄様と呼ぶのは身分を隠すうえで不都合かもしれない。

 ある程度事情を察している人なら、微笑ましく見られるだろうけど……何も知らない人から見ると、違和感を感じるかもな。


 平民だと偽装するなら、確かにユートさんの言い分は正しいか。

 一般人は、親しい兄妹でも兄の事を兄様とは呼ばない……かもしれない。


「というわけでオフィーリエ、お兄ちゃんだよ。言ってごらん?」

「えとえと……おにいしゃん?」

「~~っ!!」


 清々しいという言葉が似合いそうな程の笑顔で、オーリエちゃんを促すユートさん。

 言い慣れた言い方じゃないからか、恥ずかしそうにしながら舌ったらずに言うオーリエちゃんに対し、ユートさんが両拳を握って俯く。

 感動しているようだ……多分、しっかり「ちゃん」と言えなかったのが、ポイント高かったんだろうと思う。

 というか、言われたテオ君以上に反応するのはどうなんだろう。


「……言われ慣れていないから、ちょっと恥ずかしいね。ありがとうオーリエ。それじゃあ、これからはその呼び方で行こうか」

「あい! おにいしゃん!」

「うんうん、いいよいいよぉ……!」

「はぁ……ユートさんが言われているわけじゃないのに。ん?」


 ポリポリと頬をかきながら、それでも笑ってオーリエちゃんと話すテオ君……ユートさんよりよっぽど兄をしているなぁ。

 いや、ユートさんは誰かの兄じゃないけど。

 もしかしたら、日本に弟とか妹とかいたのかな? それを思い出して呼んでほしかったとか……考え過ぎかな。

 とりあえず、溜め息を吐いてジト目でユートさんを見ていると、袖を引っ張られる感触。


「パパ、パパもお兄ちゃんって呼ぶ?」

「ワフ?」


 キョトンとした表情で、単純に興味があるといった感じで聞いて来るのは、服の袖を引っ張ったリーザ。

 レオも首を傾げて俺を見ているが、あちらは俺にというよりリーザが言い出した事に対して疑問って感じだな。


「……あれはユートさんの悪乗りもあるから。リーザは今のままで呼び方を変えなくていいんだぞー?」

「うん、わかったパパ」


 素直に頷くリーザ。

 確かにリーザは年齢的にも可愛らしい見た目でもあるし、お兄ちゃんと呼ぶのは似合うだろうけど……身分を隠す必要はないからな。

 というか、今も何も隠さず尻尾をフリフリ、耳をピコピコと動かしていて、誰がどう見ても獣人だ。


 まぁ初めてリーザと出会った時に、お兄ちゃんと呼ばれていたらそれで良かったんだろうけど、パパと呼ばれ慣れて娘のように感じているから、今更だな。

 とりあえず、リーザに変な影響は与えないで欲しいと願いつつ、俺はクレア達の所へ移動した。


「おはようございます……と言うには遅いですか。こんにちは、エッケンハルトさん、エルケリッヒさん」


 昼の挨拶をエッケンハルトさん達と交えつつ、促されたので俺も一緒に座る。

 テオ君はオーリエちゃんと一緒に、レオやリーザといる事にしたようだ……ニヤニヤしたユートさんが一緒にいるけど、レオがいてくれるから大丈夫だろう、多分。


「ありがとうございます、アルフレットさん」


 俺が座ってすぐ、客間にいたアルフレットさんが淹れてくれたお茶が出され、お礼を言いつつ一口飲む。

 大変だったわけではないけど、なんとなく人心地ついた気分だ。


「このダンデリーオン茶というのか。少々癖はあるが、慣れれば中々だな……タクミ殿が考案したとか?」

「あ、はい。エルケリッヒさんはそちらを飲まれていたんですね」


 俺がお茶を飲むのを見つつ、同じくカップのお茶を飲んだエルケリッヒさん。

 あちらは俺のとは違ってダンデリーオン茶だったようだ。

 いつも出て飲んでいるお茶は、紅茶に似た物で、ダンデリーオン茶は望めば出て来るといった感じ。

 コーヒーに似ている味だから、人によってはこれまで通りのお茶の方がいいと考える人もいるからな……あと、何も説明もなく出したら驚くだろうし。


「タクミさんが出ている間、お爺様達とタクミさんの話をしていたんです。そこでダンデリーオン茶の話になって、お爺様が興味を持たれたんですよ」

「ははは、いない間に話されているのはむず痒い感じがするというか……ちょっと怖いね」

「ふふ、お爺様もお父様も、隠れて誰かを悪く言う人ではありませんから、大丈夫ですよ」


 苦笑する俺に、微笑むクレア。

 クレアの言う通り、エッケンハルトさんもエルケリッヒさんも、陰口を叩いてほくそ笑むようなタイプじゃない。

 むしろ、何かあれば直接言うタイプだろうし、そもそも隠れて悪く言う必要のない人達でもある。

 まぁ怖いというのは冗談で、家族でどんな話をされていたのかと考えて、照れ隠しのために出た言葉だ……なんとなく、雰囲気から察するに褒める方向性っぽかったし、実際ダンデリーオン茶を直接褒められたし。


「あれ、そういえばティルラちゃんは?」


 家族、というところで思い出した。

 ランジ村に来ているリーベルト家の人達……クレア、エッケンハルトさん、エルケリッヒさん。

 それからもう一人いるはずのティルラちゃんが、客間にいなかった。


「シェリーと一緒に、中庭に行ってラーレと遊んでいるみたいです」

「あぁ、成る程」


 活発なティルラちゃんだし、この村に来るまで色々と考える事があったみたいだから、ようやく落ち着いて思いっ切り遊んでいるってところだろう。

 それなら、もっと早く散歩から帰ってレオとも一緒に遊んでもらった方がよかったかもしれないな。


「ラーレ……カッパーイーグルだったか。レオ様やフェンリルだけでなく、伝説で語られる魔物が他にもいる事に驚きだ。しかも、フェンリルの子供を従魔にしたクレアだけでなく、ティルラも従魔を持つ事になっているとはな。いや、ハルトから聞いてはいたのだが……」


 テオ君達といるレオの方を、チラチラと見ながらラーレやシェリーの事を話すエルケリッヒさん。

 昨夜のように、レオに対して行き過ぎるくらい畏まった態度は今のところ見られない……エッケンハルトさんの説得の賜物だろうか? 今だけかもしれないけど。

 そういえば、エルケリッヒさんのエッケンハルトさんに対する呼び方は、ユートさんと同じくハルトなのか。

 呼びやすそうだ――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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