フェリー達の休憩が終わりました
「ありがとうございます。便利になる方法、そのために必要な条件。労力やお金、時間……成る程……」
「……」
俺がさっきそうしていたように、今度はテオ君が深く思考している様子。
考えているのは各家庭への水道の事か? いや、便利になるというのを主軸にしているのが、小さく呟く中から聞こえてきたから、それだけじゃないんだろう。
うーん、ここで考える事じゃないし、個人で考えてもなぁ……と思ったところで、ハッと気づいた。
今は市井の人間として、身分を『一応』隠しているけど、テオ君は国家事業を動かせる立場の人間だった。
少なくとも、これから順調に行けば動かせるようになる人物だ。
まさかいきなり、水道を全ての人に! なんて無茶な事に乗り出したりはしないだろうけど……。
これは、まずい事を教えたかもしれない。
いや知識や考えというのは、あって悪い事は……多分あんまりないはず。
と、とりあえず屋敷に帰ったら、テオ君についてユートさんと相談しておこう。
俺が教えた事が原因で、国の将来が不安になるなんて事になったら大変だからな。
……真面目で素直なテオ君なら、大丈夫だと思いたいけど。
「グルゥ」
「ガウ」
「ガウゥ」
「お、フェリー達も休憩終わりか?」
若干の不安を覚えながら、テオ君の尻尾がブンブン振られているような幻視をしつつ話していると、休んでいたフェリー達が立ち上がってこちらに来た。
リーザはまたリルルの背中に乗っている。
「グル、グルルゥ」
「まだちょっと疲れているけど、お腹が減ったってー!」
フェリーが鳴いて、リーザが通訳してくれる。
朝食後にちょっとだけの散歩だったはずなのに、それなりの時間が経っていたな。
腹ごなしどころか、空腹になるまで走ってしまったのは、ちょっとフェリー達に悪かったかも。
持って来ていた時計を見ると、針は十一時を指していた……屋敷を出たのが九時前くらいだったから、二時間以上か。
走っている時間は大体一時間程度だけど、村を見たりテオ君と話し込んでしまったからな。
「まだ昼食には早いけど……戻って休んでいたらすぐか。わかった。それじゃ屋敷に戻ろう。――おーいレオ! 帰るぞー!」
戻ってすぐ昼食、には少し早いけど、クレア達が待っていてくれるだろうし、心配させちゃいけないな。
散歩として村の周りを走るのは言ってあるが、さすがに川まで行くとは言っていないし。
そう考え、まだバシャバシャと泳いでいるレオに声を掛けた……ずっと泳いでいるとは、本当に元気だなレオ。
「ワブ!? ワブブブ……」
「レオ様、どうしたんでしょう?」
「あー、なんとなくやりたい事がわかった。テオ君、ちょっと離れておこう。フェリー達も」
「え、あ、はい」
「グルゥ」
「はーい」
一度こちらを見て、姿勢を低くするレオ……おかげで、顔がほとんど川に浸かっている。
不思議そうにするテオ君を連れて、フェリー達と一緒に川岸から離れた。
これからレオがやることがわかったからな、さっきリーザにも言ったけど、拭く物を持っていないので濡れるのは良くないから。
「ワブ……! ワッフー!」
水に浸かっていたレオが、勢いよく空へと舞い上がり……というか、俺達のいる川岸へとジャンプ!
大量の水をまき散らしながら、大きく吠えたレオがこちらへと迫る。
「ワッフ! っ!」
「おっと……もう少し離れていた方が良かったか。まぁでもこれくらいなら、すぐ乾くだろうけど」
「す、すごい勢いでした……」
「ママすごーい!」
スチャッ! と川岸に着地したレオは、その場で体を震わせて水気を飛ばす。
十メートル以上は離れていたつもりなのに、いつも以上に遠慮なく犬ドリルを披露したレオから、飛沫が届く。
幸い、量は少なかったので服が少し濡れた程度で済んだし、すぐに乾くと思う。
テオ君はレオを見て呆気にとられ、リーザは両手を上げて喜んでいる様子だ。
そういえば、テオ君はレオの犬ドリルやジャンプ力を見るのは初めてか……まぁ、飛ぼうと思ったらもっと飛べるみたいだけど。
横だけでなく、垂直にも飛んでいるラーレに届くくらいに。
今は必要ないから、今度見せられたらいいかもしれないな。
「よーしレオ、屋敷に帰るぞー。フェリー達が大変だから、帰りはさっきよりも控えめに走ろうな?」
「ワフ。ワフゥ……」
「グ、グルゥ……」
水気を飛ばしたレオに近付き、速度を落として走って帰るように伝える。
頷いたあと、フェリー達を見て不甲斐ないと溜め息を吐くレオ。
フェリー達が恐縮した様子で小さく鳴いて項垂れた……リルルだけは、自分は大丈夫ですよ? と言わんばかりに顔を空に向けて前胸を張っていたけど。
「こらこら、あんまりフェリー達を責めるんじゃないぞ」
「ワフ」
あれだけ走っても、さらに泳ぎ続けられる元気のあるレオとは比べちゃいけない。
疲労回復薬草とか、持ってきておけば良かったなぁ。
一応剣を腰に下げている以外は、特に備えていなかったのを、少しだけ後悔しつつ、俺の注意に頷いたレオが伏せてくれたので、テオ君と一緒に背中に……。
「ってレオ冷たいな。大丈夫なのか?」
レオに触れると、ひんやりとしてまだ濡れている感触。
先程の犬ドリルだけで、大まかな水気が飛んで毛が肌に張り付いてレオが小さく見えるなんて事はないみたいだけど。。
「ワフ、ワフ!」
「そうか……テオ君、ちょっと濡れるけど……」
冷えているのは特に問題ないらしく、大丈夫と言うように鳴くレオ。
毛の奥の体温までは冷たくなっていないようなので、体を壊す事は多分ないと思う。
とりあえず、濡れるのを我慢してもらいつつ、今度こそテオ君と一緒にレオの背中へ。
お尻がじんわりと冷たく、濡れた感触が広がっていくのがわかった。
……フェリーやフェンに乗せてもらった方が、良かったかもしれない。
なんて考えつつ、レオがやきもちを焼かないようにそのまま屋敷へと向かって出発した。
ちなみに、濡れる感触や冷たさすらも、テオ君は楽しんでいたようだ。
わりと色んな事を楽しめる子なのかもしれない……ユートさんのような性格にならないか、一抹の不安を感じたのは胸のうちにしまっておこう――。
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