ついつい水道の便利さについて考えてしまいました
「便利ですか……確かにそうかもしれません」
「うん。まぁ便利になりたいっていうのは、今が不便だと思っているからで、それを改善しようと……というのはいいか。とにかく、便利になるためには時間も人もお金も、多くの物が必要になるんだなって」
「不便を改善。僕はわかりませんが、そんなに不便なのでしょうか?」
「うん? あー、テオ君はそうかもしれないけど、まぁね……」
テオ君はこれまで、不便さを感じていた事はほとんどないんだろう。
住んでいた場所での水道事情は知らないが、身分を考えれば不便が無い様にお世話をされていて当然でもあるから。
とはいえ、ユートさんの方針として一定期間を市井で暮らすとなっているのだから、一般の人が感じる不便さを感じる事、知る事も一つの理由なのだと思う。
なので、フェリー達が休憩している間に水道がない場合の不便さをテオ君に話していく……もしテオ君にとっていらない情報だったら、後でユートさんに謝る。
「……成る程。毎日、必要ならば追加でと」
「うん。俺もそういう生活はこちらに来てからだし、一時期体験しただけだから偉そうなことは言えないけど……」
大体がブレイユ村での体験からだ。
別邸には一部で水道があったし、必要な時はライラさん達使用人さんが持って来てくれるため、不便さを感じる事はなかった。
少ない体験だから、俺より説明をする適任者がいるかもしれないけど……セバスチャンさんとか、喜んで説明してくれそうだし。
でも、水道が当たり前の場所で生活していた俺が、当たり前じゃない場所にきた事でわかる不便さというのも、多分ある気がする。
「こうして、手で掬っても重さはあまり感じないし、やってみないと大変さはわからないかもしれないけど……」
「……んん。タクミさんが言う通り、こうしていてもよくわかりません」
川から両手で水を掬って見せる。
それをテオ君も真似をして、掬った水をまじまじと見つめるけど、首を傾げるだけだ。
手で掬えるくらいの量じゃ、水の重さなんて実感できないくらいだけど、桶などに入れて運ぼうとしたらちゃんと重い。
「でも、大量に水を運ぶっていうのは、結構な重労働なんだよ」
今話しているのは、多分この世界の一般の人なら誰でも感じた事のある内容だ。
川が近くにある村や街もあるんだろうけど、近くだからといっても汲んでから運ばなきゃいけない。
井戸も、各家庭一つというわけでもなし、使う分だけ汲み取っておく必要がある。
ブレイユ村にいた時は、フィリップさん達と交代しながら井戸からくみ上げた水を、台所の土間にある甕に溜めていた。
溜めるには何度も井戸と家を往復する必要があるし、足りなくなればまた汲みに行かなければいけない。
……デリアさんは軽々と運んでいたけど、俺には結構重かったしそれだけで汗が流れるくらいだった。
あれが、水道がない家庭で誰でもしている苦労の一つだろう。
それに一緒に住んでいる家族が多ければ多い程、多く必要になる……その代わり、交代で汲みに行く人も多くなるけど。
「だからもし、水道が各家で使えるようになったら便利で、皆喜ぶだろうなってね」
「それはそうですね! タクミさんの話を聞くだけでも、すごく大変そうでした」
「とはいえ、そのためには人やお金もそうだし、魔物対策も必要で、考えなきゃいけない事が多過ぎて……実現は無理だろうなぁって。だから夢みたいな事、だね」
そもそも、俺が考える事じゃないんだろうけど。
屋敷ではすでに水道が引かれていて便利になっていて、使用人さん達が困る事はほとんどないわけだし。
今は国家事業だとユートさんは言っていたけど、お金を出すのは水道を引こうとしている人だ。
浄水場まで作ったら個人で管理するのには大規模すぎるし、国が管理するにしても全てが無償じゃ成り立たなくなるかもしれない。
そうなると、水道料金を取る必要があるし……結局、お金に余裕がある人しか使えなくなる可能性だってある。
うん、やっぱりこうして考えると、すぐになんとかできる問題じゃないな。
夢みたいな事と言った理由を説明するために、一応考えていた事はテオ君に伝えた。
「成る程、確かに夢みたいな事……なのかもしれません。各家庭で、誰でも水道を使えて便利に。人やお金……タクミさんが便利になるためにはと言っていた理由がわかりました」
セバスチャンさん程説明が得意というわけではないし、俺の説明でこの年頃の子が理解してくれるか不安だったけど、テオ君はわかってくれたようだ。
頭のいい子なんだろうな………身分を考えれば、俺がこう考えるのも不敬な気がするけど。
俺がこのくらいの年頃の時は、こんな話をしても理解できなかっただろうなぁ。
ただ単純に、便利な水道があるんだから使えばいいじゃないか、くらいにしか考えなかったと思う。
「なんにせよ、俺が考える事じゃないしできる事じゃない。実現の難しさもあるけど、国に住む大勢の人たちに影響する事でもあるからね」
そういうのは、政治をする人に任せる事であって、俺が考えたり実行するべき事じゃない。
民間の会社的な物で……という考えもできなくはないけど、水の独占は争いを生みそうだから関わるのは勘弁だ。
川の上流と下流にあるそれぞれの村で争いが、なんて事もあったみたいだし。
水源が文化や歴史の一部を作る、と言っても過言ではないくらいで、簡単に考えていい事じゃない。
「国や多くの人に影響……タクミさん、これからもこういった事を教えて頂き、そして相談させてもらえますか?」
何やら少しだけ考え込んだテオ君が、真っ直ぐな目を俺に向けて言った。
急にどうしたんだろう?
「え、うん。俺で良ければ、相談にも乗るしわからない事なら教えるよ。と言っても、俺もまだまだわからない事でいっぱいだけど」
日本での知識……あやふやなものもあるし、はっきりと覚えているものもあるけど、それと合わせて教えられる事なら構わない。
ただむしろ、俺が教えてもらう立場になる事の方が多い気がする……こちらでは、俺はまだまだ世界の事に対して初心者だ。
逆にテオ君に教えてもらう事の方が多いかもしれない、なんて思った――。
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