水道管が通っていたようでした
「うん、やっぱり間違いないと思う。帰ってから確認すればはっきりするだろうけど……これは、排水しているみたいだ」
川に入れた手の平に、上流から流れるのとは別の水流を感じる。
水温は川の水より少し暖かいくらいだろうか……? いや、大きな違いは感じられないから、錯覚の可能性もあるな。
ともかく、ちょっと手を入れた程度では水の出口になっている場所を探り当てる事はできない、というか届かないが、川の流れとは別に、横から水が出てきているのは間違いない。
つまり、あの堀跡から川に向かって水を排出しているって事だ。
「排水……って何、パパ?」
「聞いた事があります。使用した後の水が、流れていく事ですね」
「んー、まぁそんなところかな」
リーザには排水という言葉は難しかったようで首を傾げているけど、知らなくても無理はないか。
テオ君の方は聞いた事があるみたいだけど……微妙にあっているような間違っているような。
なんにせよ、水が排出されている上に村から続いているようだったって事はつまり……。
「堀跡は、水道管を埋めるためのだったんだろうなぁ」
「すいどうかんー?」
「水を通すための管……筒の事だよリーザ。地下に埋める事で、地上で何かを邪魔する事はないし、何かに邪魔される事なく水を運べるんだ」
「へー……」
俺の説明を受けて、平坦な声を出すリーザ……あまり興味ないようだな。
水道管を地下に埋める理由は、損壊を防ぐためなのが大きな理由だったと思う……地球には車があったし、こちらの世界では魔物もいれば馬車もあるからな。
どれだけ頑丈に作っていても、地上に露出していれば壊れる事が多くなるわけで。
他にも、保温というか保冷の役割や地中深くの水源から水を運んだり、地下に排水するためとか聞いた事があるようなないような……?
とにかく、水道管は地下に埋めて水を通すのがいいって事だ。
「本当に水道管なのかは、帰ってセバスチャンさんに聞いてみればわかるか」
聞けば、喜んで説明してくれそうでもある。
まぁ上下水道に関しては、大体の説明をもうすでに聞いているんだけど。
「それにしても……川の水と遜色ないな。無色透明……汚れなんかも出てきていない」
排水されるのは、屋敷で使われた生活用水。
当然ながら洗剤を使えば、油汚れなんかも落とすわけで……流される水が綺麗なわけがない。
早い話が汚水だな。
けど、川に流れていく水は全く汚れているようには見えない。
よく調べて見ると、もしかしたら何かしら汚れているのかもしれないけど、手で掬って目で見る分には綺麗な水でしかない。
「何か、おかしい事でもあるんですか?」
調べている俺を不思議そうに見るテオ君。
リーザは……興味を失くしたのか、リルルの所に走って行っているな。
……パパちょっと寂しい。
「いや、そうじゃないんだけどねテオ君。いや、これがユートさんに聞いた浄水の効果か」
下水に関して、途中で魔法具を使って浄水して流すから飲めるくらいになっている、と言っていたからその効果だろう……。
それは、水を引き込んで使用する場所の近くで貯水して浄水しているのも、同じだが。
とにかくその話を聞いた時は、流した汚水が見た目は綺麗になったとしても、飲みたくないな……なんて思ったものだけど、実際に流れているのを見れば飲めるくらいというのがよくわかった。
まぁ、飲んで試したりはしないけど。
「そういえば、途中で道が二つに分かれていましたけど……あれは?」
「あっちは多分、上水……川から水を引くための水道管が埋まっているんだろうね」
上流に目を向けつつ、俺に聞くテオ君。
テオ君にとっては、すっかり俺がセバスチャンさんのような、聞けば教えてくれる存在になりかけているようだ。
ともあれもう一つの道……堀跡は、川の上流の方に向かっていたわけだから、あちらが上水道なのだと思う。
上流で水を引き込んで、綺麗にしつつ供給し、使った水はまた綺麗にしつつ下流に流すって仕組みみたいだ。
限定的だし、魔法具に頼る事で小規模が可能になっているみたいだけど、立派な上下水道ができているんだなぁと、ちょっと感心。
その魔法具も、地下に水道管を埋めるのも、莫大な費用が掛かるだろうから小規模といっても気軽にはできそうにないけど。
現状では、お金持ちしか設置できないというのも納得だな。
いや、むしろ小規模だからお金がかかるのか? もっと大規模に、それこそ浄水場を設置してそこから各家庭に行き渡るようにすれば……。
「それはそれで、もっと人もお金も必要になるか」
結局、水道管を通すのに地面を掘らなきゃいけないし、浄水場に魔法具を設置するにしてもそのお金もかかる。
魔物もいるから浄水場の警備も必要だし、ラーレみたいに空を飛ぶ魔物もいるわけで……むしろ、実現させるのは地球より困難かもしれない。
場所に関しては、水源さえあればなんとかなりそうではあるけど。
「タクミさん、どうかされましたか? 何やら考え込んでいるようですけど……」
「あぁいや……ごめん。ちょっと夢みたいな事を考えてしまっていたよ」
テオ君に声を掛けられて、ハッと気づく。
ちょっと深く考え過ぎてしまっていたみたいだ。
排水を確かめるため川に突っ込んでいた手が、ちょっと冷たくなっていたので、戻して手を振り水気を飛ばしながらテオ君に答える。
「夢みたいな事ですか?」
「うん。話には聞いていたけど、こうして上下水道が通っているのを間近で見てね、どうにかして多くの人に使えるようにできないかって。今は、川や井戸から水を汲んで来るのが一般的でしょ? だから、大勢が水道を使えるようになれば便利だろうなって」
日本では、大体の一般家庭でインフラが整っているため、水道が使える。
気軽にお湯も出せるし、料金や節水などを気にしなければ、それこそいくらでも使えると言えるくらいだ……実際にはもったいないので使わないけど。
だからついつい、その便利さを思い出して多くの人が使うためには……なんて考えてしまっていたなぁ。
さすがに実現は不可能だろうから、夢みたいな話だな――。
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