待望の調味料がそこにありました
「最初はこれをプレゼントしようかなって思っていたんだよ。でもお米を手に入れられたし、色々あったからついついね。米俵の方が派手だし」
「それはわかったし、多分これからも目の前で我慢させられた事を、根に持つかもしれないけど。これはもしかして?」
「ごめんって。根に持たれるのは怖いから、勘弁してよ。それはね、醤油だよ。他には味噌とかもあるね」
いくつかある木箱には、瓶に入れて保存されている醤油、それから壺に入った味噌だった。
お米と同じく、日本人なら多くの人が喜ぶ調味料。
あれもこれもどれもそれも、醤油と味噌があれば作れると言っても過言では……過言かもしれないけど。
「醤油ですか……そういえば、タクミさんとヘレーナが協力して、醤油ぶっかけという料理を作っていましたね」
「醤油ぶっかけ?」
クレアの言葉に、首を傾げるユートさん。
醤油があるからと、ラクトスでうどんもどきを食べた事で思いついた、というか思い出した料理の一つだな。
まぁ、できれば出汁醤油の方がうま味があるから良かったし、麺はヘレーナさんにお任せで俺というよりヘレーナさん達のおかげなんだけど。
「醤油ぶっかけうどん、だよユートさん。醤油はあったんだけど、量が少なかったからあまり使えなくて。それなら直接かければいいかって」
「うどん……うどんかぁ! そういえば、ラクトスに行った時食べたよ。なんとなく違うなぁというくらいにしか感じなかったけど……」
俺達と合流する前に、ラクトスに行った時に食べたんだろう。
物の出入りが激しい分、ラクトスには珍しい食べ物が屋台として出されている事があるらしいから、ユートさんなら食べ歩きとかしてそうだ。
珍しい物といっても、それが美味しいかどうかはまた別の話しではあるんだけども。
「ラクトスにあるのは俺も食べたけど、あれはパスタ麺を使っているからうどんと言えるのかは微妙かなぁ。ヘレーナさんが頑張って、俺が覚えている限りでのうどんを再現してくれたんだ」
もっとうどんに詳しく、うどん麺にこだわりを持っている人なら違うと感じるかもしれないけど……俺にとってはこれがうどん麺だと言える物を作ってくれた。
「うどんなんて、こちらに来てからラクトスで食べた以外はなかったから記憶もおぼろげだけど、食べてみたいなぁ」
「ヘレーナさんに頼めば、多分作ってくれると思う。それに、これだけ醤油があればもっと食べる機会も増やせそうだし」
これまで、ヘレーナさんが公爵家のツテで仕入れてくれる醤油だけだと、数人分作るだけでも十日に一回食べられるかどうかだったから、頻繁には作れなかった。
だけど、木箱にある醤油瓶……大体一本一リットルくらいと考えても、かなりの数がある。
毎食はさすがに飽きるしどうかと思うけど、食べたいときに食べられるはずだ。
……うどん麺がパスタとは違う作り方だから、パスタを作り慣れているヘレーナさん達は大変かもしれないけど。
「うどん麺はツルッとしていて、弾力や歯ごたえもしっかりしていて……味もさっぱりと美味しかったですね」
「むむぅ、それは私も食べてみたいな……」
「ほっほっほ、この年になると肉類が少々重く感じる事がありますが、醤油ぶっかけは食べやすくて良かったですな」
醤油ぶっかけの感想を言うクレアに、羨ましそうにしているエッケンハルトさん。
そこに食べた事がある側として、しれっと混ざるセバスチャンさん。
醤油の量である程度調整できるが、基本的にさっぱりと食べられる物だから、濃い味付けや重い肉類が辛い人でも食べやすいだろう。
「よし、じゃあ早速たのも……」
「それはちょっと無理かな。うどん麺を一から作らないといけないから、時間がかかるし。それにヘレーナさん達は、宴会の準備に出ているから今は作れないかなぁ?」
うどんという日本食にそそられたユートさん。
だけどその言葉を途中で遮り、少しだけ口角を上げながら作るのは難しいと伝える。
「くっ……タクミ君、わざとだよね?」
悔しそうにしながら、俺を見るユートさん。
「そんなまさか……でも、反応が見たいからってお米を見せびらかした事への、意趣返しだなんてそんなそんな」
「絶対そうじゃないかぁ! くぅ、美味しそうな物を想像しているのに、食べられない悔しさ……! もう僕の口はうどんの口になっているんだよ!?」
どんな口なのか……気持ちはわかるけど。
あれが食べたい、そうだ食べよう……と考えて食べられないと、絶対食べなきゃいけないとまで思っていなくても、ものすごく悔しい気持ち。
つい今しがた、米俵を前に俺が味わった気持ちでもある。
そんな俺とユートさんとは別に、似たようなやり取りをしてエッケンハルトさんを悔しがらせている、クレアとセバスチャンさん。
あっちもあっちで、楽しそうだ……リーザとティルラちゃんは、こちらに関わらずシェリーやライラさんとレオを交えて戯れているみたいだな。
レオは、チラッとこちらを見て呆れたような溜め息を吐いていたけど……。
「あ、そういえば……味噌もあるから、味噌煮込みうどんなんてのも作れそうだ。野菜とか具をたっぷり入れてうどんと一緒に味噌で煮込む……。寒くはないけど、体が温まって美味しそうだなぁ」
「タ、タクミ君? ちょっと止めてくれないかな? 今すぐうどんを食べられないなら、生殺しだよ?」
ユートさんは、今すぐお米を食べられないとわかった時の俺と似たような反応をしている。
具だくさんの味噌煮込みうどん……自分で言ってユートさんにしかけたけど、想像してしまって俺も食べたくなってしまった。
いかん、これは自分にもダメージがきてしまう。
昼食後で満腹なのにもかかわらず、もうお腹が空いてきたような錯覚に陥ってしまいそうだ。
「そっちがその気なら……醤油があるって事は、おにぎりに醤油を塗って焼きおにぎりとかあったよねー。あ、そうだ。タクミ君は味噌煮込みうどんって言っていたけど、味噌焼きおにぎりっていうのもいいね。焼けて香ばしい匂いを立ち上らせる味噌焼きおにぎり……」
「なっ! 焼きおにぎりだって!?」
確かにお米だけでなく醤油や味噌があるなら、ユートさんの言っている焼きおにぎりができる。
塩と炊き立てご飯で作るおにぎりもいいけど、醤油や味噌が香ばしい焼きおにぎりもまた、食欲をそそる。
おっと、想像するだけで涎が垂れてしまいそうだ……気を付けないと――。
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