不思議な武器が渡されました
「綺麗ですけど、剣っぽくは……いえ、金属っぽくない、ですね?」
「牙を粉末にして混ぜた物を、芯にしているらしいが……でき上がった物は触感も見た目も、このようになったらしい。何分、初めての事だからフェンリルの牙を使えば必ずこうなるのか、鍛冶師の腕や偶然でこうなったのかはわからん」
牙を粉末に……真っ白な輝きは金属らしい鈍さはなく、どちらかというと大理石のような触り心地を連想させる。
エッケンハルトさんも言っているけど、金属に牙を粉末にして混ぜたらしいけど、見た目だけでなく金属らしからぬ材質になるのか。
「ただ金属ではない何かになったのが原因か……剣としての役割は微妙になってしまったのだ。祝いの品としてはどうかと思ったが、装飾品としては悪くないと思ってな。用を成さなくても、この美しい剣身だ」
「確かに、見ているだけで引き込まれるような気すらします。あまり詳しくはありませんが……鞘や柄の装飾も美しいと言えますけど、剣身はそれ以上ですね」
「お父様、こちらを見ても?」
「あぁ、構わん。剣はタクミ殿に、ダガーは二人にそれぞれ渡して飾ってもらおうと思っていたからな」
成る程、飾りとしてはかなりいい物だと思う。
剣やダガーとしての使い道は微妙らしいけど、見ているだけでも楽しく感じる美しさは、インテリアや象徴のように飾っているだけでも十分過ぎるだろう。
クレアも興味津々で、ダガーを鞘から抜いて剣身を確かめている……長さや形状以外は、エッケンハルトさんが抜いた剣と変わらず綺麗だ。
「キュゥ?」
「ふふ、これはシェリーの抜けた牙からできた物らしいわよ? 綺麗ね」
「キャウ!」
首を傾げて近寄ってきたシェリーに、ダガーを見せるクレア。
シェリーから、というのがクレアも嬉しいのだろう……喜んでいるのがよくわかるくらい、明るい笑顔だ。
「ありがとうございます」
「うむ。まぁタクミ殿には以前渡した刀があるからな。不要かもしれないが、部屋にでも飾ってくれ」
「はい」
価値のある高価な装飾品ではないが、目を見張る程綺麗な剣をもらえて嬉しい。
俺が男だからだろうか、ただ綺麗な物というだけでなく剣になっているのを見るだけで、高揚すらする。
熱狂的という程じゃないけど、やっぱり剣とか刀とか……銃もそうだが武器って憧れるからな。
既に剣も刀も、こちらの世界に来て使っているけど。
「あら? お父様、これものすごくよく斬れます……よ?」
「は?」
「え?」
不思議そうな声を出したクレアを、エッケンハルトさんと同時に間抜けな声を漏らして見る。
いつも間にかセバスチャンさんに用意してもらったらしい、何かに使われていただろう木片がいくつか、その一つをスッパリと二つに斬っていた。
……その木片が乗っている、剣を置くために用意された丸テーブルの端も一緒に。
近くにいたセバスチャンさんも、驚いた様子で固まっていた。
「そんなまさか……いや、私が試した時には何も斬る事はできなかったのだが……」
愕然としてクレアの方を見ていたエッケンハルトさんは、信じられないと言った様子で斬れた木片とテーブル、そしてダガーを見比べている。
エッケンハルトさんは、俺が知る限りで一番の剣の達人だ……知っている剣を使える人が、そもそも少ないけどそれはともかく。
その剣の達人が使っても斬れないのに、普段剣を扱う事すらないクレアがというのはちょっと信じられない。
「……すまないクレア。少し試させてくれ。むぅ、やはり斬れない」
「どうしてでしょう? 私の時は、特に力を入れなくても斬れたのですが……ほら」
クレアからダガーを受け取り、残っている木片の端に剣身を軽く振るうエッケンハルトさん。
だけど、乾いた音が響くだけで木片が斬れる事は一切なかった。
不思議そうにしながらも、クレアがダガーを返してもらって再び木片に振るう、というより押し付けるようにすると、音すらなくそのまま下まで斬れてしまった。
もちろん、木片が置かれている丸テーブルも一緒にだ。
エッケンハルトさんと違い、力は全く入っていないのは間違いなく見ていた……それなのにまるで豆腐に包丁を通すかのように簡単に斬れていたように見える。
「むぅ」
「えっと……俺も斬れました……」
「な、なんだと!?」
唸るエッケンハルトさんを横目に、自分も試してみようと残り一つのダガーを鞘から抜き、別の木片に対して軽く刃を当ててみる。
すると……クレアがやったのと同じように、そして本当に豆腐に対して包丁で切るように、抵抗を一切感じず、斬れてしまっていた。
こちらも、下にある丸テーブルも一緒にだ……ごめんなさい。
エッケンハルトさんは目を見張り、驚きの声を出す。
「この通りですけど。エッケンハルトさんは……やっぱり斬れないみたいですね。んー、セバスチャンさん?」
「くぅ……なぜだ!?」
「なんでございましょう?」
斬れた木片をエッケンハルトさんに見せ、俺が使った方のダガーを渡して試してもらうが、やはり結果は同じく斬れない。
少し考えて、セバスチャンさんを呼ぶ。
「俺とクレアは使えましたけど、セバスチャンさんとか他の人はどうなのかなって。あ、使えた場合は特に力を入れる必要はありません。本当に抵抗を感じるかどうかくらいで、斬れてしまいましたから」
「私もそうですね、タクミさん」
「そうですな……試してみる価値はあるでしょう。お借りします……ふむ、斬れませんな」
エッケンハルトさんが使えないのは間違いなく、俺やクレア以外にも使える人がいるのかを試そうというわけだ。
クレアも頷き、力を入れなくても斬れた事を確認しつつ、セバスチャンさんがエッケンハルトさんからダガーを受け取って木片に向かうが、やはり斬れない。
自分だけでなかったと、少しエッケンハルトさんが嬉しそうだった。
「俺とクレアだけ……? 理由がわかりませんね。他の人達も……」
首を傾げつつ、今大広間にいる使用人さん達にも試してもらうため、呼びかけてこちらに来てもらう。
ライラさんやゲルダさんを始め、大広間に残っている使用人さんや護衛さん達全員だ――。
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