ライラさんのおかげで部屋を気に入ったようでした
「はい。タクミ様の所と同じですよ、リーザお嬢様? とはいえ、隣の部屋は使用人待機室なのですが。主に私かアルフレットさんが使用する部屋ですが……ちょっと面白くありませんか?」
「……パパのと一緒。ほぇ~」
扉を開け閉めして、別の部屋と繋がっている事を示すライラさんに、声を出すリーザ。
さっきまで垂れ下がっていた尻尾と耳が、ピンと立っているから興味津々みたいだ。
隣にある使用人待機室、常に主人の近くに控えておくために使用人さんが交代で使う部屋らしい。
それはつまり、主人が寝ている時もあまり離れずというわけだ。
リーザの部屋の隣になったのは、おそらく俺の部屋と離れ過ぎるとリーザが嫌がるだろうと予想して、前もって話し合って決めていたりする。
本来は、執務室か寝室の隣が望ましいらしいけど……ともかく、自分の部屋にそういった隠し通路とまでは言わないけど、ちょっとした道があるのは子供にとって興味をそそられるものらしい。
使用人待機室を覗き込んだリーザの尻尾は、先程と違ってゆっくりと左右に振られているから。
喜んでいるみたいだな。
ちなみに逆側、クレアの寝室の向こう側には俺と同じく扉で繋がる執務室があり、その隣に使用人待機室がある。
そちらは、クレア側の使用人さんが交代で待機するための場所だな。
さらにその向こうには、クレアのドレスなど服を保管し着替える事もできる、衣裳部屋があったりする。
俺にも衣裳部屋を、と言われたけど服を多く持っていないのでそれは断った。
大量の服を所持する予定はないし、もし必要になれば空いている部屋を使えばいいだろうから。
この屋敷の部屋、村に住む予定の従業員さんも全て入ったとしても、二桁くらいの空室が残るんだよなぁ……まぁ、いずれ何かの用途で使う事を予定して、余裕を持たせて建設してもらったからなんだけど。
「最近は、リーザちゃんもあまり寂しそうにする姿を見なくなりました」
「そうだね。最初の頃はともかく、今はライラさんと一緒にいる事も多いし……俺やレオがいなくても、誰かがいれば一緒に寝る事だってあるから」
「さすがにまだ、一人でというわけにはいかないのかもしれませんけど、これもタクミさんやレオ様が惜しみない愛情を注いだからでしょうね。信じてもらえているんだと、私から見てもそう思います」
「ははは……」
ライラさんとリーザのやり取りを微笑ましく見つつ、言われたクレアの言葉に面映ゆく感じて、思わず苦笑した……惜しみない愛情とまで言われると、さすがにな。
別邸に連れて帰った時は、とにかく俺やレオと離れようとしなかったリーザだけど、今では離れて行動する事も増えている。
まぁ、一番懐いているライラさんと一緒にいる事が多いけど、他にもティルラちゃんやフェンリル達、ゲルダさんとか他のメイドさんといる事だってあるな。
リーザは可愛いし、耳と尻尾の触り心地が人気で可愛がられている事が多いとも言えるんだけど。
「けど、クレア達がいてくれた事も、大きい思うよ」
「私なんて……リーザちゃんは可愛いですし、ティルラと同じく妹のように見守るくらいしかできていません」
「そんな事はないよ。特にあれかな……」
俺やレオだけでなく、クレアがいてくれた事もリーザが今屈託なく笑えるようになっている理由の一つなのは間違いない。
特に、マリク君が石を投げてレオが怒った時……というかその後、リーザをクレアが抱き締めて思いっきり泣いてからが一番の転機だったんじゃないかな。
あれでリーザは、俺とレオ以外の大人に安心して近付けるようになって、信頼できるようになったと思う。
実際、最初はオドオドしていたのが鳴りを潜めて、無邪気に話したり行動したりする事が増えたから。
そんな風にクレアとリーザの事を話していたら、ライラさんがふと俺が気になっていた並ぶ椅子の方へと近付いた。
「リーザお嬢様、こちらにお座りになって下さい」
「え? うん……」
ライラさんに促されて、鏡台に向かって座るリーザ。
「では、失礼します。くすぐったかったり、嫌だったりしたら言って下さい」
そう言って、どこからともなく……というよりメイド服のスカートのポケット? から取り出したるは、トリミングブラシ。
ずっとそこに持っていたんだ、ライラさん……。
トリミングブラシは、レオに使っている大きな物と違って俺が昔使っていた物よりも、少しだけ大きいくらいのやつだ。
中型犬とかに使うくらいかな?
長方形の木枠に無数のピン、そこから伸びる手に持つための柄がある。
そのトリミングブラシを右手に持ち、さらにもう一つ左手にはヘアケアにも使われるような、一般的なブラシ。
その二つを持ち、鏡台の前に三つ並んでいる椅子の一番後ろ、低い椅子に座るライラさん。
「っと……どうですか、リーザお嬢様?」
「んにゃ~」
リーザの据わった椅子とライラさんが座った低い椅子、その真ん中のもう一つ空いていた椅子にリーザの二つある尻尾を乗せ、まずはトリミングブラシで毛を梳き始める。
そうしながら、感想を聞くために声を掛けるライラさんだが、さすがのテクニックなのか……リーザは気持ち良さそうな声を出すだけで、まともに答えられていない。
……いつも、お風呂上がりにリーザの髪や尻尾を梳いているし、レオの毛を梳いたりもしているからなぁ……ライラさんも慣れたんだろう。
優しく、されど気持ちのいいツボを押さえるような手つきは、もう俺では満足させられなくなっているかもしれない……。
「クゥーン……」
トリミングブラシからケアブラシに変わったあたりで、部屋をのそのそと回っていたレオがリーザとライラさんの方を向いて、甘えるような声を出した。
レオもブラッシングは好きだからなぁ……羨ましいんだろう。
「ははは、レオはまた後でな。今やると大変だし」
「その時は、私も協力します。ライラには負けていられません」
「ワウ……」
ライラさんに負けていられない、と意気込むクレアと一緒に、レオを撫でて落ち着かせる。
今からレオのブラッシングを始めると、屋敷探訪の時間がなくなってしまうからな――。
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