屋敷と使用人さん達に迎えられました
「タクミ様、クレア様、レオ様達はここで少々お待ち下さい」
「え、あ、はい」
「えぇ、わかったわ」
「ワフ」
「はーい」
屋敷を見渡している俺にライラさんから声を掛けられ、ここに留まるよう言われる。
別邸程大きくなくても、感心どころか呆気に取られていた俺は、変な顔をしていなかっただろうか? と頷きながら少し心配になった。
少なくとも、口は開いていたような気がする……同じく頷いて返事をするクレアはともかく、レオに乗っているリーザは声を出す時慌てて口を閉じていたから。
「ふむ、まぁ新居と言うには少々小さく感じるが、最初はこんなものだろう」
ライラさんが屋敷の玄関を開き、ついて来ていた使用人さん達が中に入って行くのを見ている間に、エッケンハルトさん達の感想。
別邸もそうだけど、それよりさらに大きいらしい本邸に住むエッケンハルトさんにとっては、確かに小さく感じるのかもしれない。
多分、クレアも似たような印象なんだろう……と思ったら。
「ここでタクミさんと新しい生活……楽しみです!」
大きさとかはどうでもよくて、俺と一緒にという事に興奮している様子だ。
……ちょっとだけ、もっと大きな家を準備するように頼んでおけば良かったかも、なんて気持ちが沸いたけど……本当に楽しみな様子で笑顔になっているクレアを見ていたら、そんな男の見栄みたいな感情は消え去った。
「宿よりも大きいからねぇ。――あ、タクミ君。僕は大きくていい屋敷だと思うよ? うん。この家が小さく見えるくらいの建物をいっぱい見た事があるけど」
「……閣下、少々余計な事かと」
「うぉう、背後からとはまた……」
「ははは……」
ユートさんはフォローしようとしたんだろうけど、他にも大きな建物を見た事があるらしい。
後ろからルグレッタさんに突っ込まれて喜んでいるのはともかくとして……まぁ、一応元王様だしお城とかあるだろうからなぁ。
建物の規模としては最上級の物を、何度も見ているだろうしと苦笑した。
俺の周囲にいる人達の基準がおかしいだけだな、うん。
「……リーザ、これからはここがリーザの住むおうちだ。俺やレオ、クレアや他の皆もいるけど」
とりあえずリーザと話して、気持ちを落ち着かせよう。
リーザは「へぇ~」とか「すっごい大きいね!」と素直に感心してくれたので、俺の感覚がおかしいわけではない事を確かめられた。
うんうん、リーザは素直でいい子だなぁ……ラクトスの街でもこんなに大きな敷地や建物はなかったし、俺じゃなくて他の人達の感覚がズレているだけなんだ。
公爵家とか、元王様……現大公爵とかだからな。
レオは特に大きな建物に対して、何も気にしている様子はなかったけど……。
鼻をスンスンさせて、匂いというか気配というか、周囲の確認をしているようだからそっちの方が大事なんだろう。
「タクミ様、クレア様。準備が整いましたのでこちらに……」
そうこうしているうちに、両開きの玄関を大きく開けた右端に行ったライラさんに声を掛けられた。
一部の荷物などを持った使用人さん達が屋敷に全員入り、正面玄関前に残っているのは俺達だけになっている。
「タクミ殿はこっちだな。クレアは隣だがこちら側に。レオ様は……タクミ殿とクレアのすぐ後ろからだな」
「レオちゃんが大きいから、間には入れないからね。これでいいと思う」
「えっと……はい」
「ワフ」
呼ばれたので、ライラさんの所に行こうとする俺の肩を掴んで止めるエッケンハルトさん。
屋敷に向かって右側に俺、左側にクレアを配置……まぁ、ここまで歩いてきた時の逆になっただけだ。
後ろにレオとその背中に乗ったリーザを配置させて、ユートさんと確認。
クレアはニコニコしたままそれに従っているので、俺も同じく従っておく。
入る場所に決まりとかあるんだろうか?
大きく開いた扉は、レオの横に今ここにいる俺達全員が並んでも入れるくらい余裕があるのに。
「それでは、タクミ殿、クレア。行ってきなさい」
「はぁ」
「はい」
ポン、と軽くエッケンハルトさんに背中を押されて、クレアと一緒に玄関に向かう。
よくわからないながらも、とりあえず返事をする俺とは違い、クレアはわかっているようで笑顔のまま深く頷いた。
何やら、決意のような物を感じる……いや、決意と言うと大袈裟か。
意気込み、かな?
「えーっと……?」
ゆっくりと、クレアと並んで玄関に。
開かれた扉の右端にはライラさん、左端にはエルミーネさんがこちらを見て待っている。
玄関に続く数段の階段を上り、左右にいるライラさん達の横に差し掛かった瞬間……。
「おかえりなさいませ、タクミ様」
「おかえりなさいませ、クレア様」
「「「「「おかえりなさいませ、タクミ様。お待ちしておりました!!」」」」」
「「「「「おかえりなさいませ、クレア様。お待ちしておりました!!」」」」」
ライラさんが俺を迎え、エルミーネさんがクレアを迎える。
それと同時に、別邸より少しだけ小さく見える玄関ホールの左右に別れた使用人さん達が、一斉に声を揃えて迎えてくれた。
隣のクレアが声に迎えられながら中に入るのに遅れないよう、俺もライラさんの横を通って玄関の中に入る。
吹き抜けになっているホールでは、玄関から真っ直ぐ進んだ先にある階段へ続く絨毯が既に敷かれており、階段への道のようになっていた。
その左右で、先に入った使用人さん達が別れて俺達に向かって頭を下げている。
「えぇ、ただいま帰りました」
「た、ただいま帰り……ました?」
驚き戸惑いながらも、クレアが頷き、使用人さん達に答えるのを真似をする。
つまりこれは、俺とクレアを屋敷に迎える、という事なんだろう。
使用人さん達が声を揃えて迎えてくれるのは、別邸で慣れていたからもう驚かないと思っていたんだけど……さすがにこれには驚いた。
右側には、アルフレットさんを先頭にゲルダさんやジェーンさんなど、俺が雇った使用人さん達。
左側には、クレアが雇った使用人さん達が並んでいる……料理人さん達や護衛さんは、偏りが無いように別れているな。
あ、運びこんだ荷物が端の方に積まれている……さすがに、あれだけの時間で整理するのは無理だから仕方ない。
右側に並んだ人達が俺を呼び、左側にいる人達がクレアを呼んだってところか――。
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