思い出話に花を咲かせました
「ははは、俺は別にあの時のクレアが我が儘だったとまでは思わないけど。見ようによってはそうだったのかな? でも、その後聞いたクレアの話で納得できたし、それに反省していたなら十分我が儘じゃないと思うよ」
「だと、いいのですけど……」
本当の我が儘は、自分の振る舞いを一切顧みる事ができない人なんじゃないかと思う。
それこそ、誰かに指摘や注意をされても、だ。
クレアはその点、セバスチャンさんに言われて気付けたし、振る舞いを顧みて反省もしていた。
だから本当の意味で我が儘なのではなく、ただあの時はちょっと気持ちが先走っただけなんだと思う。
事情を聞くと、区切りがついていなかったあの頃は、沸き上がる何かに突き動かされていたようでもあるから。
ただクレアなら、エッケンハルトさん譲りの行動力で、燻ってばかりではなく何かをやっていたような気もするけど。
「でも、森の中はオークみたいな魔物もいて危険だし、クレアの助けになれたなら良かったよ。あの時活躍したのは、大体レオだったけど……」
「ワフン」
まだ剣すらまともに扱えていなかった頃だ、一応露払い用にセバスチャンさんから借りていたけど、オークとかの魔物とはまともに戦えなかっただろう。
その点レオは、この世界に来た時から軽々とオークを倒したり、クレアを助けたりと存分に活躍していたからなぁ。
俺が褒めるように言うと、レオは誇らし気な鳴き声と共に鼻息を漏らしていた。
「いえそんな……タクミさんがいなければ、シェリーを見つける事はできませんでしたし、助ける事もできませんでした。レオ様もタクミさんも、活躍していましたよ」
「ははは、そうかもね」
大体は、俺というよりも『雑草栽培』のおかげだけど。
でも、この世界に来て備わった能力とはいえ、今では俺の一部になって来ている。
気を付ける必要はあるけど、間違えて別の薬草を作る事もほぼないし……あれはあれで、疲労回復薬草みたいに新しい発見があったりはするけど。
とにかく、元々なかった能力だからって謙遜ばかりするのではなく、自分が使える能力だからと受け入れて称賛も受けるようにしなきゃな。
だからって、調子に乗り過ぎたり天狗になったりはしないように注意するけど。
……俺自身、自分が調子に乗り過ぎる姿が想像できなかったが。
「俺も、少しは変わって来ているのかも。クレアやレオのおかげだ」
これまでの自分を考えて、確実に違う自分がいる事に気付いて呟く。
以前なら過剰に謙遜するだけだったからな。
いい方に変わっている気がするのは、間違いなくクレアやレオのおかげだ。
セバスチャンさんやティルラちゃんなど、こちらに来てから出会ってきた他の人達もだけど。
「タクミさんがですか? ですけど、初めて会った時からずっと優しいタクミさんのままな気がします」
「ワフ、ワフワフ?」
クレアが首を傾げ、レオも同意見のような鳴き声。
「優しい……まぁ人にはできるだけ優しく、柔らかく接するように心がけてはいるけどね、昔から」
それは、伯父さんや伯母さんの影響が大きい……両親がいなくなった俺を引き取って、優しく柔らかく受け入れてくれた人達だから。
俺の目標というか、尊敬する人達だな。
「昔……タクミさんが以前はどんな方だったのか、興味があります!」
「……面白味はないと思うけど」
昔という言葉に引っかかったのか、クレアは目を輝かせる。
俺の話なんて、特に面白くないと思うんだけど……。
「でも、私はタクミさんに昔の事を知られています。ズルいです……」
「そうかな? 俺もあまり詳しくは知らない事の方が多いけど……それなら、お互いの小さい頃の話とか、知らない事を話してみようか」
「……私の小さい頃……少し恥ずかしいですけど、タクミさんの事が聞けるなら!」
クレアは以前こうだった……こういう事をした、というのは折に触れて使用人さん達から聞いた事が何度かある。
主にセバスチャンさんからだけど。
でも俺だけ知っていて、クレアが俺の事をあまり知らないのは不公平という事だろう。
気持ちはわかるし、俺も好きな人の事だからもっと知りたいという気持ちがある。
それならとお互いの話を持ち掛けると、興味が勝ったクレアが乗っかった。
「ワフ! ワフワウ!」
「ははは、そうだな。レオの事も話そうか。まぁ、俺の話にもレオに関係しているんだけど」
笑いながら、自分もと主張するレオの話もする事にする。
レオと出会ってからは、レオ中心の生活だった事も多いからな。
もっと昔ならまだしも、高校生になって一人暮らしを始めてからすぐにレオを拾って、そこからの話にはほとんどレオが出て来る事になるだろう。
そうして、夜空に輝く星の下……時折ユートさんが邪魔しに来ないかと警戒しつつも、眠くなるまでクレアとお互いの話をした。
クレアは恥ずかしそうにしていたけど、小さい頃は今よりお転婆だったエピソードは、聞けて良かったと思う。
……クレアを目に入れても痛くないくらい可愛い、と豪語したエッケンハルトさんの両眼を指で突いたなんて……今では考えられないバイオレンスさを感じたけど。
お転婆で済まされるかはともかく、その時にエッケンハルトさんに怪我はなかったらしい事は良かったと安心した。
ただ、本邸内を走り回っていたクレアがつまづいて、勢いよくエッケンハルトさんに突っ込んだ際に、受け止め損ねて足を捻った……というのもあって、エッケンハルトさんには悪いけど笑ってしまった。
目を突かれても怪我しないようにしてたのに、あのエッケンハルトさんがクレアを受け止め損ねるとはなぁ。
クレアの方には、俺が仕事づくめでとか、両親を早くに亡くしていたというのは話していたけど、伯父さん達に引き取られてからや、レオを拾った時の話を興味深そうに聞いていた。
俺の方にはクレアみたいな走り回るエピソードはほとんどなく、面白くないんじゃないかと思ったけど、それは杞憂だったようだ。
話を続けるうちに夜も深くなり、さすがに連日徹夜や明け方まで話すのはいけないと、寄りかからせてくれたレオにお礼を言って褒めつつ、それぞれのテントに戻った。
まだまだお互いに話したい事や聞きたい事はあるけど、それでもこの夜、俺はクレアを、クレアは俺の事を深く知れたいい機会だったと思う。
夜眠れなくても悪くないどころか、良かったと思える事もあるんだなぁ……。
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