髪の手入れについて聞いてみました
クレアさん達が話していた内容は、戦闘だとか、魔物の返り血だとかはあったけど、三人の話す内容は完全に女子トークだ。
髪の手入れなんて気にする事がほとんどなかった俺には、参加しづらい内容過ぎる。
とりあえず、馬車の外を見てレオやフェンリル達が走っているなぁとか、空を飛んでいるラーレは気持ち良さそうだ……なんて考えて意識を逸らしていた。
いや別に、女子トークを聞きたくないとかじゃないんだけど……なんとなく、聞いてはいけないものを聞いているような気がして……。
「男性は、あまりそういう話はされませんね。子供の頃から、髪の手入れに関しては女同士が定番でしたから」
「そうなの? でもそうね、お父様とはこういう話はしないものね。するとしたら、もっぱらエルミーネとかメイドばかりかしら」
「私も、騎士たちの中ではあまり……一部の女性騎士が、こだわりを持ってはいますがそれくらいで。女性でも、動きを阻害すると髪を剃る者も中にはいるくらいですが」
女性の騎士さん、思い切った事をする人もいるんだなぁ。
でも良かった、男はこういう話に入りづらいというのはわかってもらえたらしい。
髪に関しての関心は、こちらの世界でも女性の方が強いって事はよくわかった。
艶やかな髪かぁ……ルグレッタさんもそうだけど、クレアやライラさんは十分に手入れされているようで、サラサラの艶が維持されているのは、パッと見でもわかるくらいだ。
これ以上を求める必要があるのかはわからないが、手入れとなると……。
「とりあえずユ……じゃない、男性の多くは女性の艶やかで綺麗な髪が好きな人が多い、って事で」
肩身が狭いので、ちょっと強引目にまとめておく。
男性意見の代表のように言ってしまったけど、大きくは間違っていないはず。
それに、そう言わないとユートさんの意見としたら、ルグレッタさんがまた取り乱しそうだからな。
意識しているのか、さっきからルグレッタさんは自分の髪をしきりに撫でているし、十分だろう。
「そうですね。でも、もっと楽な手入れの仕方があればいいのですけど」
「……参考までにだけど、今はどういった手入れをしているのかな?」
俺が使うわけじゃないけど、溜め息交じりに言うクレアが気になったので、一応聞いておく。
「うーん……お風呂ではお湯で何度も流して洗いますが、その他では頻繁に櫛で梳かす事でしょうか」
「お風呂の後、乾くまでずっと髪を梳かし続けますね」
考えながら答えるクレアとライラさん。
何度も、というのが気になったけど……櫛で梳かすとかはよくある部類だな。
できればドライヤーが欲しいところだけど、当然そんな物があるわけないし、乾くまで櫛で梳いて……というのは仕方ないのかもしれない。
ドライヤーがあっても、似たようなものだし……乾くまでにかかる時間はともかくとして。
「他には、髪用の油を付ける方もおられますが……あれは臭いがするので……」
「私もあの臭いは苦手ですね……」
髪用の油というのもよくある話か。
ただその匂いはあまり好まれていないようで、ライラさんの言葉にクレアが少し嫌そうな表情になる。
香料を加えたり、別で香りを付ければ? とは思ったけど、その油にはできない事なのかもしれない……もしくは、多少の香料ではどうにもならないくらい臭くなってしまうのかもしれないな。
「あれは……艶を出すにはいいみたいですけど、一部では嫌われていますね。私のように、旅をする者は絶対に使いません」
「絶対に? 一部で嫌われているだけで、使う人くらいはいるんじゃないですか?」
ルグレッタさんの言葉が気になって聞き返す。
嫌われていても、艶を出すためなら我慢とか……臭いを薄くする方法だってあるかもしれないのに。
それに、旅をする者はというのは気になるな。
「全てではありませんが、特定の魔物を引き寄せるんです。使われている油の臭いが好みらしく……」
「……成る程、魔物を引き寄せるんじゃ旅の途中だと危険で、使えませんね」
魔物が好む臭いなのか……ルグレッタさんとユートさんなら、そこらの魔物が近付いて来ても平気だろうけど、いつ来てもいいってわけじゃない。
それに、他の旅をしている人達が全員、魔物を簡単に倒せるわけじゃないからな。
確かに旅をする人には使われないか。
……あとどの魔物かは気になるけど、今の話はそこじゃないな。
「臭い以外には、その油に問題はないんですか?」
「使っている者が言うにはないようです。髪に艶が出て、まとまりも良くなり傷みもなくなる……という効果ですね。誰にでも買える物ですし、小さな村でも行商や商隊が立ち寄った際には、取引されているようです」
「利益は少なくとも、確実に売れる物だから……ですね」
男性が使う物でなくても、どこの村や街に行っても女性はいる。
女性がいれば全員じゃなくても、髪に関心のある人がいてもおかしくないから、多かれ少なかれ、確実に売れる商品としての位置付けか。
「あの臭いが私は苦手ですから、使っていませんし買っていません。使用人達の中には、使っている者はいるようですけど」
「近くに寄ってわざわざ嗅ぐ、というような事をしなければ自分以外はわからない程度ですからね。聞いてみると実は……と言う人は多いようです」
「わざわざじゃなければわからないくらい、って事は……そんなに気にならない人が多いんじゃないですか?」
想像していたよりも、臭いに関しては控えめみたいだ……周囲に異臭とまではいわなくとも、一部の人が嫌う臭いを振りまくようなのを想像していたんだけど。
でも、考えてみればそこまで強い臭いだったりしたら、嗅覚の鋭いレオとかはともかく、使用人さんが使っているのに俺も気付いていたはずか。
屋敷や街でも、そういった気になる臭いを感じた事はない。
「髪の長い者が使う事が多いのです。だから、自分にとってはその嫌な臭いがいつまでも付きまとっているように感じられると、言う者が多いですね」
ルグレッタさんが、自分の髪を揺らしながら答えてくれる。
そうか、髪が長いという事はそれだけで臭いの元である油が多く、さらに揺れた時にふんわりと香る事が多い……ような気がする。
生活するうえで、常にそれが付きまとうというのは……多少なりとも苦手だったら、嫌がる人も多くなるよな――。
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