テントに一部の男達を集めました
「キィ、キィ~」
「おぉ~。ラーレも気持ちいいんですねー!」
「ピピ!」
「ピピィ!」
「ふむ成る程。コカトリスも毛……いえ、羽根を撫でられるのは気持ち良いと……」
なんとかリーザの尻尾を一本捕まえて、ブラッシングを始める頃、また別の方ではティルラちゃんがラーレに、そしてセバスチャンさんとアルフレットさんが、コッカーとトリースにそれぞれブラッシングをしていた。
あちらは毛というより羽毛で、絡まる事は少ないけど……それでもブラッシング自体は気持ち良いものらしい。
もくもくとトリースのブラッシングをするアルフレットさんと、興味深そうに頷きながらコッカーのブラッシングをするセバスチャンさんが印象的だ。
「ヴォルグラウもヴォルターさんがやっているし、馬は護衛さん達か。人が休憩するというよりも、魔物や動物たちが労われる感じになっちゃったな」
リーザの尻尾をブラッシングしながら、あちこちで行われているブラッシングを眺める。
ヴォルグラウは仲が良くてコンビになっている様子のヴォルターさんが担当し、フィリップさん達は水や食べ物を与える傍ら、馬達を担当している。
ユートさんは少しぎこちないルグレッタさんを連れて、フェンリル達の所にいるな……あっちは、フェンリルの撫で心地比べとかやっているようだけど。
総じて、人は一部を除いて魔物や動物を労って休憩にはあまりなっていない様子だな。
まぁ、移動中頑張ってくれているのは、レオやフェンリル達、ラーレや馬達なのでそれもありか。
コッカー達は……ついでだろうけど。
「お、リーザ。結構絡まっているなぁ。痛かったら言うんだぞ?」
「うに……にゃ……にゃふふー」
リーザの持っている大きな尻尾。
毛並みはいいんだけど、結構絡まっている事が多くてブラシがよく引っかかる。
それを優しく梳かしながら、痛くしないよう気を付けた……リーザからは、返事と一緒に猫っぽい声が聞こえるので、今のところ大丈夫そうだな。
「リーザ様、失礼します」
「にゃふ!? うにーにゃっふふふふ!」
「リーザ、その笑い方はちょっと不気味だぞ?」
ライラさんが、俺と同じブラシを持ってリーザの二本ある尻尾のうち、もう片方を手に取ってブラッシングを始める。
同時に二本の尻尾をブラッシングされているからか、リーザの声が猫を越えて奇妙な笑いになっている。
我慢している様子でもないから、くすぐったいわけではなく、気持ち良くて思わず出た声ってところだろう。
ただ、ちょっと不気味だったのでそこは注意しておく。
女の子だからな……尻尾を撫でられて変な声を出すのはちょっとな……。
いや、男の子だったらいいというわけでもないんだけど。
ともあれ、そうして休憩時間は俺達がレオ達にサービスをして労うという、ブラッシングタイムで過ぎ去っていった。
ランジ村に向けて再出発する時、フェンリル達や馬達もなんだか妙に張り切っている雰囲気になっていた……リフレッシュできたって事だろう。
ただ、一部のフェンリルは少しだけ不満そうだったのは、人手が足りなくてブラッシングが行き渡らなかったからだと思う。
チタさんとエメラダさんは大変だろうけど、夕食後にでもまた再開してもらって欲しい。
あの二人と子供達はものすごく楽しそうな声が聞こえていたので、喜んでやってくれそうだ――。
「さて、集まってもらったのは他でもありません」
夜、夕食を頂いてクレアと過ごす時間を取り、さらにティルラちゃんとの訓練をクレアや、他の人達に見守られながらこなした後。
つまり、就寝直前。
テントの中に集めた男性陣を順番に見ながら声を掛ける。
「他でもないって、理由は特に聞いていないんだけど、タクミ君?」
「某は聞いていますが……参加していいものか……」
「私はこの際、ランジ村で伴侶を見つけるために、参考にさせてもらいたいと思っています。元々あまり深く考えていなかったのですが……タクミ様やクレアお嬢様を見ているとどうしても」
集めたのはもちろん、一番話を聞かないといけないユートさん。
それから、ある意味聞いてみたいという興味からニコラさん。
ニコラさんへ話を持って行った時に、地獄耳のように聞きつけたフィリップさんだ。
クレアの方も予定通りルグレッタさんを連れて、女子会を始めているだろう……テントに入る前、こちらに目配せをしていたから。
……何故かその中に、ヨハンナさんがしれっと混ざっていたり、ライラさんがクレアに引っ張られていたりもしたけど。
ヨハンナさんはともかく、ライラさんは完全に巻き込まれたようだ……明日は、あまり俺のお世話とか考えずに、ゆっくり過ごして欲しいと思う。
移動中なので、ゆっくり休めるかどうかはわからないが、辛そうなら疲労回復薬草を出そう。
「あ、フィリップさん。この場でだけは一応言葉遣いは普段通りで構いませ……構わないよ。ブレイユ村に行ったときみたいに」
「え、ですが……」
「あぁ、僕の事なら気にしないで。公爵領より治安の悪いスラムで、絡んできたならずものと飲み明かすくらい、身分なんて気にしないから」
いや、そこは気にして欲しいんだけど、ユートさん。
ならずものと飲み明かす大公爵、または王家の貴族様っていうのはどうかと……ルグレッタさんの苦労が偲ばれる。
「は、はぁ……わかりまし、いえ。わかった」
「うん、僕に対しては別に畏まる必要は普段からないからね。タクミ君と同じで、あまり畏まられるのには慣れていないんだ」
「……経歴を知れば慣れないといけないし、慣れていると思うけど」
頷くフィリップさんに、それでいいと頷くユートさんの言葉を聞いて、ボソッと呟く俺。
元が俺と同じ日本人で、その頃の生活はともかくこちらに来てすぐの頃なら、畏まられるのに慣れないというのもわからなくもない。
けど、建国から数百年……大公爵でも王家でもあるユートさんは、慣れていないとおかしい気がする。
まぁ、フィリップさんやニコラさんを安心させて、言葉遣い程度で気分を害する事はない……と伝えたいだけなのかもしれない……と思う事にしよう。
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