水仕事での手荒れが気になりました
「確かにこれは、荒れていますね」
「荒れる……言われてみれば、その言葉が正しい気がしますね。料理をする者にとっては、誰にでもある事ですし……それだけ調理をしているという、一種の勲章でもあります。少々痛いのが悩みですけど」
ヘレーナさんの手は、一目見てわかるくらいの手荒れだ。
あかぎれやひび、水や洗剤だけでなく刺激物に触れても痛いだろう事は、想像に難くない。
外で乾燥するから、今はさらにひどい状態なのかもしれないけど……これは辛そうだ。
ヘレーナさん自身は、料理人の勲章という風だけど、できるならない方がいい気がする。
「ありがとうございます。こうなるまで、真剣にヘレーナさんが料理をしてくれたって事ですね」
「そう言って頂けると……」
少し照れるヘレーナさん。
大変だろうに、それがむしろ誇らしいんだろう……ふむ。
勲章でもあるという考えなら、そうなんだろうけど見るからに痛々しい、は少し大袈裟かもしれないが、なんとかした方が料理するにも楽になると思う。
これは、ちょっと考えた方がいいかもしれない……。
「タクミ様、レオ様へのご褒美ですか?」
「あぁ、ライラさん。はい。ちょっとした事でレオを褒めるついでに、ですね」
手荒れを今すぐどうにか、なんてできないので長話はせずレオがいる場所へと向かう、その途中にライラさんから声を掛けられた。
両手にそれぞれ大きなソーセージを持っているから、レオに……というのはすぐにわかったんだろう。
野営の片付け、出発の準備は滞りなく進んでいるようで、時間ができたから俺の様子見ってとこかな。
基本的にライラさんは、他に用がない時以外は俺についてくれているからな。
あ、そうだ。
「ライラさん、手が痛くなったりする事ってありませんか?」
「手がですか? いえ……特にそのような事はありません」
おっと、聞き方を間違えた。
今の聞き方だと、病気や怪我に関して聞いているみたいだったな。
「その、手がカサつくとか、何もしていないのに皮膚が少しだけ切れたりとか……」
「カサつく……そうですね……今は何もありませんが、屋敷にいた時は時折タクミ様が仰るような事がありました。皮膚が切れたりという事はありませんが。あ、そういえば他の使用人が、怪我をするような事をしていないのに、傷ができたりはしました」
「やっぱり、そうですか……」
水を使う仕事は、何も料理人さんだけじゃない。
使用人さんは洗濯や掃除などで、水に触れる事が多いはずだと思って聞いたら、思った通りだったようだ。
洗濯機もないから、当然手洗いだし。
場合によっては、絞る事が多いこちらの方が料理人さんよりも手荒れが酷くなる事もあるか。
でも、屋敷にいる時はあって、今はカサつかないというライラさんの話はなんでだ? んー……。
「……あ、そうか。洗濯するのは外だし、今は移動中で基本的に洗濯や掃除をしないからか」
手荒れは軽ければ、放っておくだけでも治るからな。
室内よりも外の方が乾燥しているようだから、手洗い作業を屋外ですると特に荒れるのもあるか。
「先程から、どうされたのですかタクミ様?」
「ライラさん、もしかしてですけど……手がカサカサしたり、何もしていないのに皮膚が裂けたりする事って、誇らしい事ですか?」
窺うライラさんに、質問で返す。
これでヘレーナさんと同じように、誇らしい事で治すべきではないくらいの感覚だったら、俺の考えている事はいらぬお節介かもしれないからな。
確認は大事だ。
「え? そうですね……それだけ自分の仕事をしている、という意味では誇らしく思えるかもしれません」
「もしそれがなくなる、もしくは、軽くなるのであれば、どうでしょう?」
「誇らしく思えたとしても、やはり嫌なものですから……なくなるのであれば嬉しいかと。使用人達の間では、よく愚痴として話が出ていますし」
「成る程、成る程」
仕事をしている証、として誇らしく思う事はあるにせよ、できればない方がいいと。
まぁ、すぐに直してもう手が荒れない、という事は不可能にしても軽減させられればそれに越した事はないだろう。
愚痴が出るのも、そのままにはしたくないって事でもあるんだろうし。
「……タクミ様?」
「あ、すみません。さっきヘレーナさんの手を見て思ったんですけど……」
俺ばかりが納得していたからか、ライラさんから訝し気に見られてしまった。
とりあえず、できるかはともかく考えている事をライラさんに話す。
「成る程、そういう事ですか。ヘレーナさん達料理人はわかりませんが、私としては……いえ、使用人達は助かると思います」
「そうですか。まぁ、まだ考えている段階でできるかはわからなんですけど、少なくとも軽減する物くらいはできる……といいなぁと」
考え始めだから、断定はできないけど……多分大丈夫かなと。
以前セバスチャンさんに借りた、薬草の本に絞ると少し粘度のある液体……多分ローションみたいな感じなのを採取でき、それを肌に塗って水気を保つ、と言ったような内容の物があった。
ラクトスに卸す薬草には含まれていなかったし、特に需要があるわけじゃなかったのでまだ作った事はないけど、だからこそ『雑草栽培』でできると確信している。
需要がない物って事は、特別それを作っている人がいる可能性は低いって事でもある。
人の手が入っていない植物、農業の作物ではない物であれば作れるんだから。
「そのお顔は、できると期待してもいいように思わせてくれますね。楽しみに待っています」
「そ、そうですか? えっと、できるように頑張ります」
表情に出ていたのか、微笑むライラさん。
使用人さん達が少しでも嫌な思いをしないよう、できるだけ頑張ろう。
もし手荒れを治す、もしくは軽減する薬ができれば、きっと多くの人に売れるだろうし、人気商品になりそうだ。
洗濯、掃除、調理、それらはどこの家庭でもする事なんだから。
それにしても、手荒れ用という事はハンドクリームみたいな物か……化粧品とか、もしかしたら需要があるかもしれない。
化粧には縁がなかったから詳しくないけど、薬草の組み合わせで少なくとも肌にいい物とかはできそうだ。
ランジ村に行ったら、もう一度薬草の本を読み直す必要があるか……それと、セバスチャンさんに貸し出し延長をお願いしないとな。
そんな事を考え、手に大きなソーセージを持ったままレオのいる場所へと向かった――。
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