朝は一部の人が慌ただしかったようでした
「……あの様子じゃ、ルグレッタさんを怒らせるような事をしたんだろうなぁ」
なんて呟きつつ、お湯で顔を洗い支度を進める。
その後は、使用人さん達とそれぞれ挨拶を交わしつつ、フェンリル達の様子見。
孤児院の子供達は、さすがの無邪気さというか適応力で、フェンリル達に懐いており……フェンリル達が懐いているのかな? ともあれ、朝から楽しそうな声が聞こえてくる。
ラクトスで加わった従業員さん達も、多少フェンリル達に及び腰な事以外は元気で問題なさそうだ。
リーザやティルラちゃんと、ヘレーナさん達の料理を手伝い、朝食。
そうしてる間もずっと遠くから……具体的には片付けられていくテントの中で、唯一残された所でプラプラと左右に揺れながら「助けて―」「おーい、僕を無視しないでー」「あ、でも無視されるのもそれはそれでいいのかな?」「ちょっと、緊急事態かも……」なんて声が聞こえてきていた。
まぁ声の主は間違いなくユートさんなんだけど、ルグレッタさんがその前で厳しい表情で立っているうえ、時折剣の先でツンツンして揺らしていたから、誰も近付けなかった。
ほんと、何をしたんだろうかあの人は……? というか、緊急事態って言っていたけど……。
あれこれあって慌ただしかったけど、とりあえず朝食。
折りたためる木組みのテーブルを囲むのは、ユートさんと俺とクレア、リーザにティルラちゃんだ。
レオやシェリーは、フェンリル達と一緒だな。
「では、頂こうかなーっと」
「頂きます」
何事もなかったかのように、皆に食べる号令を出すユートさんに続き、手を合わせて食べ始める。
こういう時、皆に食べ始めの声や身振りで合図を出すのは、その場で一番位の高い人ってのが貴族式らしい。
これまでの屋敷ならクレア、エッケンハルトさんがいる時はエッケンハルトさん、今はユートさんだな。
俺は地位なんてないけど、新しい屋敷では家主になるからその役目を任されるらしいと、アルフレットさんから少し前に聞いた……位が高いとは一体……クレアもいるのに。
ちなみに朝食前に慌ただしかったのは、ユートさんが緊急事態に陥ったからであって、料理や野営の片付けがって意味じゃない。
朝、長時間吊るされていたらしいユートさん、生理現象と言えば、どう緊急事態だったのかがわかると思う。
ギリギリのところで見極めたらしいルグレッタさんが、ユートさんを解放した事で最悪の自体は免れたけど……慣れている様子だったのが、一番ルグレッタさんに対して恐怖を抱いた瞬間だったりする。
「いや~、ルグレッタと二人で旅している時とは違って、美味しい料理をたらふく食べられるのは嬉しいなぁ」
先程の緊急事態もどこへやら、一切気にした様子もなく朝食に舌鼓を打つユートさん。
今朝の食事は、昨日予定外にフェンリル達が狩ったオークの肉をメインに、パンと野菜のスープだ。
屋敷にいる時とは違って、手の込んだ物ではないんだけど……でも処理がいいのかなんなのか、確かに美味しい。
リーザ達と手伝っていたし、調理する時にも見ていたんだけど、特別な事はしていないのに美味しくなるのは腕がいいという事なのかな……?
調味料を使わなくても、焼いただけで美味しいオークの肉だからってのはあるかもしれないけど。
でもやっぱり、ヘレーナさん達料理人さんの腕は関係しているのは間違いないよな……柔らかく口の中でとろけるようだ。
「二人での旅というのも、身軽だからこそ楽しそうで思えますよね?」
クレアが食事を進めながら、ユートさんの言ったルグレッタさんとの旅、二人旅について興味を持ったようだ。
チラチラとこちらを見ている気がするから、少人数での旅がしたいのかもしれない。
……ユートさんの場合は、その二人がそこらの魔物に負けないくらい強いからできているわけで、クレアがやろうとすると今回のようになるか、少なくとも護衛さんが付かないとなぁ。
いやでも、レオがいれば十分か? 一応俺も護衛さん代わりにはならないかもだけど、オークならなんとかできるし……。
「うーん、確かに身軽だし気軽なんだけどね。でも、やっぱりちょっと寂しいと思う事もあるんだよ?」
「そうなのですか?」
「食事だって、手っ取り早く済ませるために簡素な物だし、寝る時は交代で見張りをしながらとかだからね」
「人数が少ないから、自分でできる事はやらないと、かな」
「おや、タクミ君は二人旅をした事が?」
「俺はフィリップさん達と……三人で。一人多いって言っても、今みたいに使用人さんが動いてくれるわけじゃないから」
ほんと、使用人さん達にはお世話になりっぱなしだなと思う。
手伝いくらいはするにしても、ほとんどの事をやってくれるんだから。
フィリップさん達とブレイユ村に行った時は、それでも俺よりニコラさんとかがよく動いてくれていたからなぁ。
男同士だから気兼ねはあまりなかったけど、当然食事も今のようにちゃんとした物とまでは言えなかったし。
「むぅ、私はいつもこうして多くの使用人や護衛と一緒ですから、そういう事もやってみたいです。まぁ、仕方ないのはわかっているんですけれど」
「興味を持つ事は悪い事じゃないけど、何かあればハルトが悲しむからね。クレアちゃんは我慢だ」
「はい……」
過保護、というわけじゃない。
魔物もいれば、悪い事を考える人間もいるわけで……森へ行った時のように、そして今回のように多くの人と一緒にとなるのは当然かな。
クレア自身は剣を扱えず、魔法が使えたとしても戦うにはちょっと……俺も心配だし。
まぁ、クレアより重要人物であるはずのエッケンハルトさんは、少人数で行動したりするんだけども。
あれは、エッケンハルトさん本人が剣の達人な事もあるけど。
刀が得意なニコラさん相手でも、軽々圧倒するくらいだし、剣筋見えないし……。
あと髭を伸ばしたままにしていた頃は、悪漢とかも近寄らない雰囲気があるから。
むしろ睨んだら悪漢の方が逃げそうなくらい。
「旅をする機会は、これから増えるだろうけどね」
クレアは薬や薬草を、別の村や街に宣伝や営業、輸送や交渉などをするために旅をする事もある。
その時にはリルルやシェリーもいるだろうし、場所によっては少なめの人数で行動する事ができるかも。
あくまで少なめであって、二人や三人という少数じゃないんだけど……。
あと今回は、移住のための移動だから特に人数が多いだけってのもあるか――。
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