人間サイズのミノムシがぶら下がっていました
「ふふふ、おはようリーザちゃん。まだ夜だから、こんばんはかしら」
「朝じゃないからな、はは。おはようリーザ」
「ワフー」
「クピー……」
クレアは俺が渡したシェリーを膝に抱いて落ち着いたのか、いつもの微笑みに戻して挨拶を返す。
俺は色々と抑え込んで苦笑に変えておく。
レオも鳴き声で返事をしていたけど、唯一深く眠ったままのシェリーは寝息で返していた。
リーザは起きたのに、シェリーは声に反応するどころか深く寝ている姿は……ちょっとだけ面白いな。
「あれぇ? まだ明るくならないんだね……それじゃあ……んふふー」
「お?」
「あら?」
首を何度も傾げながら空を見上げた後、リーザは何を考えたのか俺とクレアの間を押し開けて、そこに収まる。
「パパにママ。それからクレアお姉ちゃんと一緒ー」
「ふふ、そうね……」
両手にそれぞれ、俺とクレアの片腕を取ってレオに背中を預けてご満悦なリーザ。
リーザの可愛さと、クレアと離れる寂しさ……天秤にかけるわけじゃないけど、ちょっと複雑な心境になりながら、しばらくそのまま和やかな雰囲気を楽しんだ。
「ワゥ……」
レオだけは、ちょっと不満そうだったけど。
多分、リーザが寄りかかっているだけだからだろう……少しじゃれ合いたかったのかもしれない。
寝る前に、クレアやリーザと一緒に寄りかからせてくれた事を褒めつつ、撫でておく事で落ち着いてくれた。
まぁ、その前にティルラちゃんが乱入してシェリーが飛び起きたり、少な目ながらニコラさんを監督係にしての鍛錬というか素振りなんかもやったんだけど。
なんとなくのんびりした空気と、家族のような雰囲気を味わって鍛錬を終えた後、就寝するためにテントへ入る直前。
「本当にこっちでいいのか?」
「キャウ」
「ふふ、タクミさんに抱かれていたのが、嬉しかったみたいです」
「まぁ、シェリーと一緒に就寝って初めてだから、それもいいか」
テントに入ろうとした俺に飛びついてきたシェリーは、クレアではなく俺と一緒に寝たいと主張。
焚き火の前で俺に抱かれて寝ていたのが、気持ち良かったからっぽい。
小さかった頃のレオを抱いて、いつも一緒に寝ていたから慣れみたいなのを感じたのかもしれないな。
「ワウー……」
ただ、当然ながら体の大きさの問題でテントに入れないレオは、不満そうな声を漏らしてシェリーを見ていたけど。
せっかく、皆で撫でて機嫌が良くなったのに……明日はもっと構ってやろうと思う。
「にゃふー、私はこっちー!」
リーザは、シェリーと同じようにクレアに抱かれて寝ていたのが良かったのか、クレアのテントへと潜り込んで行った。
今日の所は、シェリーとリーザの交換って感じになったな。
そうして、見張り番のフィリップさんや使用人さん、クレア達と挨拶を交わして就寝した。
明日もまたランジ村に向けて移動が続くから、ちゃんと寝とかないと……大変なのは、走ってくれるレオや馬達だけど――。
「キィ、キィ~!」
「ピピ~!」
「ピィ~!」
「う……ん……?」
「……キャウ?」
外からの鳴き声で、目が覚める。
目を開けるのとほぼ同時に、顔だけ俺のシュラフから出していたシェリーも、目を開けて小さく鳴いた。
耳が忙しなく動いているのは、聞こえた声を確かめているからだろう。
「キィ、キィ~!」
「この声は、ラーレか……?」
「ピピ~!」
「ピィ~!」
「キャゥゥ……キュウ」
ラーレの物と思われる声に続き、コッカーとトリースの鳴き声が聞こえた。
シェリーも気付いたようで、シュラフから抜け出して前足を突っ張り、伸びをしている。
「あぁ、朝か。ラーレはともかく、コッカー達は本当にニワトリみたいだなぁ……ふわぁ」
「キャゥ?」
「いや、なんでもないよ」
「キュウー」
さすがに「コケコッコー」とはいかないが、朝に鳥の鳴き声で目覚めるのはなんとなく面白い。
そういえば、コカトリスが大人になった時の見た目を聞いた限りでは、ニワトリみたいな感じらしいから、同じようなものなのかもしれない。
むくりと上半身を起こし、呟きながら欠伸をする俺を見上げて、首を傾げるシェリー……多分、ニワトリと言ったのが何かわからなかったんだろう。
誤魔化すように首を振り、シェリーを撫でると気持ち良さそうに鳴いた――。
「……で、気持ちのいい朝だと思ったんだけど……これは一体? あぁ、レオおはよう。よしよし」
「ワフゥ~」
シェリーを連れて外に出て目にした物を見て、はて? と考える。
俺が出てきたからか、のそりと既に起きていたらしいレオが近付いて、顔を寄せてきたので昨日一緒に寝られなかった分も含めて、撫でてやった。
気持ち良さそうな鳴き声を出してからに……猫がゴロゴロと喉を鳴らすようなものかな?
「助けてくれてもいいんだよ、タクミ君?」
「その方がいいかもと考えつつも、何かあったからこうなっているわけで……どうしていいのか迷っているんだよ。あと、本当に助けて欲しいと訴える表情じゃないし」
「たはー、タクミ君は手厳しいねぇ」
寝起きに考え込ませる物になっていた……男性用テントが並ぶ中の一つ、その出入口にミノムシみたいに縄でぐるぐる巻きにされた挙句吊るされているユートさん。
そのミノムシ……じゃなかった、ユートさんがプラプラと揺れながら助けを求めるけど、降ろしてもいい物か悩む。
だってユートさんの表情、楽しそうに笑っていて嫌がっているようには見えないし、心なしか肌艶も良さそうだ。
ただまぁ、一応大公爵だったり建国者だったりする人が、こんな扱いでいいのかなとか、やっぱりすぐ降ろさなきゃなんて考える自分もいるわけで。
「タクミ様、おはようございます」
「おはようございます。そちらには構わなくてもよろしいですから……ささ、朝の支度を」
迷ってとりあえずレオを撫でていた俺に、ライラさんが焚き火で沸かしたらしいお湯の入った桶を持って来てくれた。
それを受け取りつつ、一緒に来たらしいルグレッタさんがとてつもなく冷めた目でユートさんを見ていたので、深く追求するのは諦め、勧められた朝の支度をする事にしよう。
「は、はぁ……あ、ライラさん、ルグレッタさん、おはようございます」
おっと、忘れずに朝の挨拶はちゃんとしなきゃな。
「あれ、僕にはないのぉ?」
ミノムシ状態になったユートさんからも求められたけど、ルグレッタさんが怖かったのでそそくさとその場を離れた――。
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