従魔関係の素案を一緒に考えました
「シェリーも、クレアの事を大事に思っているのは間違いないし、クレアもそうでしょ? それは俺にもレオにも伝わっているよ。な?」
「ワウー」
「ありがとうございます」
シェリーとクレアがお互いを大事にっていうのは、俺だけじゃなくて屋敷の人達にも伝わっていると思う。
まだ子供だからか、はしゃいでリーザやティルラちゃんと遊ぶ事は多いけど、やっぱりクレアが近くにいる時は、よく視線を向けたりしていて気にしている姿を何度も見ているから。
それに、クレアの姿が見えない時は鼻を空に向けてスンスンさせていたりもするからな……多分あれは、クレアの匂いを探ってどこにいるか把握しようとしているんだろう。
……食べ物の匂いを探しているわけじゃないはずだ、中にはそんな時もあったのかもしれないけど。
「っと、話を戻そうか。えっと、従魔は契約主の所有物という扱いからは外せないって事だよね?」
「はい。ですので契約主が従魔に何をしたとしても、それはその契約主が所有している物に対してやっているだけだとなるんです」
「うーん……成る程ね」
デウルゴの場合は、悪巧みをしていたようでもあるし、公爵家の強権を使ったのに近いから例外だろう。
でもそればかりは使っていられないし、クレアやエッケンハルトさんはそういった事をどちらかと言えば嫌う性格だ。
必要でない場合に権力を振りかざす事は、公爵家では禁じているらしいし、そもそも全てをエッケンハルトさんやクレアが判断するわけにもいかない。
だからこそ、もし何かあった時に取り締まる側が貴族でなくても、判断できる決まりを作っておかなければいけないってわけなんだけど。
やっぱり難しいな……。
従魔が所有物としてではなく、個の生き物や権利などが認められれば、全て解消できるんだろうけど。
人間と同じ扱いになれば、それは契約主だからとしても暴力を与えれば障害罪になるんだから。
「いきなり全てを変えるのは難しくても、少しずつなら……だとしたら……」
「タクミさん?」
「ワフ?」
「あぁ、ごめん。ちょっと考え込んじゃった」
何か、良さそうな案がないかを考え込むあまり、クレアと一緒にいるんだって事すら忘れそうになってしまった。
クレアとレオに呼ばれて、深く思考に沈んでいた意識を戻す。
「いえ……これまでもタクミさんがそうなっていた時は、何か良案が浮かんでいた事が多いですから。私こそ、タクミさんの考えを邪魔してしまって……」
「いやいや、絶対いい考えが浮かぶってわけじゃないし、買いかぶり過ぎだよ」
「ふふふ、そういう事にしておきます」
俺は頭がいい方じゃないと思っているから、むしろ集中して考え込まないといけないんだけど、クレアにとっては俺がそうする事で何かを思いつくと感じていたようだ。
苦笑する俺に、クレアはまた微笑みかける。
……これは俺が言った事を信じていない表情だな、ただの謙遜だとか思っていそうだ。
本当に買いかぶり過ぎだと思うけどなぁ……けど、なんというか男の性というべきか。
こういう時、ちゃんとした案を出して格好つけたいという欲求があったりなかったり。
今回は違うと思うけど、大抵の場合女性は話を聞いて欲しいだけで、別に改善案なんて欲しいと思っていない場合が往々にしてあったりもする。
格好つけるのと一緒に助けたい男性の考えと、ただ話を聞いて、もしくは同意して欲しいだけの女性とで延々とすれ違う世の不条理……というのは大袈裟か。
とにかく、今考えていた事とは関係なしに、俺自身もヴォルグラウの事だけでなくこれからを考えて、何か解決策があればと思う。
「でもタクミさんが言っていたように、いきなり全てをではなく少しずつ変えていくというのはいいかもしれませんね」
「え、俺そんな事言っていた?」
「えぇ、小さな声で言っていましたよ?」
「ワフ」
「口に出してたかぁ、ちょっと恥ずかしいね……」
意識せず、考えていた事が漏れていたらしい、レオも頷いているし。
恥ずかしそうにする俺に、キョトンとした表情のクレア……変な事を口走る可能性があるから、気を付けよう。
「でもそうだね、いきなりは無理でもいずれそうなるように少しずつなら、受け入れられそうかも?」
「はい、そうですね。そしてゆくゆくは、従魔になった魔物も個として認められるように……」
どこまでできるかはわからないけど、クレアのように目指すのは悪い事じゃない。
とにかく、急に全てを変えようとするから色んな問題が出てしまうし、反発もされる可能性が高いわけだ。
なら、少しずつ変えて行けば……問題が出なくなったりはしないし、反発がなくなるわけじゃないけど、少なくなって対処がしやすくなる。
「差し当たって、そうだね……従魔に対して不当な扱い……は個人の判断で左右され過ぎか。えっと……怪我をさせないとか、も難しいか」
不当な扱いってだけなら、解釈次第での幅が大きいからな。
怪我をさせないというのも、魔物に襲われる事がある世界だ……絶対怪我をしないなんて事は難し過ぎる、それが故意にしろ偶然にしろ。
「でしたら……そう、そうです! 従魔に暴力を振るわない、無責任に放り出さない、これでどうでしょうか?」
「ワフ、ワウワフ!」
「お、レオも同意しているみたいだ。うーん、そうだね……」
妙案を思いついたように、明るい表情になったクレアが考えを披露、レオも賛成とばかりに鳴く。
けど、もう少し声は抑えめにな? リーザ達が起きるし、今夜だし外で声も響くし。
暴力と遺棄を禁止するってわけか……つまり、ヴォルグラウのように契約主から無理矢理訓練と称して、痛めつけられる事はなくなり、傷付いたからと言って、デウルゴは死んだと思っていたらしいけど、捨てたりするような事もなくなると。
「悪くない、というよりいい案だと思う。けど……暴力というのがどこまでの範囲になるか、かな。放り出さないっていうのはもちろん絶対必要だと思うけど」
放棄、つまり捨てる事を禁じれば、ヴォルグラウのような従魔も減る。
そちらを真っ先に賛成する気になったのは、レオを拾った時の事があるからかもしれないけど。
ただクレアの考えた案って、日本の動物愛護法第一条に似ている気がする。
あれは確か、虐待及び遺棄の防止だったっけか……虐待を暴力に置き換えたら、一緒だった――。
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