魔法を放った犯人が土下座しました
「ぬあ!? 氷の壁にも驚いたけど、今度はシルバーフェンリル!? どうしてここに……! ってもしかしてレオちゃんか!?」
レオが氷の壁の向こう側に行った直後、再び響く何者かの声。
あの声……そしてレオの事をちゃんを付けて呼ぶって、もしかして?
俺以外は基本的にレオに対して皆様付けだけど、一人だけ例外がいたのを思い出した……そうか、あの声はあの人のものか!
「レオちゃんがいるなら安心……ってごめん! もう魔法が完成しちゃった! 止められな……」
「ワフ」
「え、いいの!?」
「ワウワウ」
「わかった! それじゃレオちゃん、ごめんね!! エクストレミティ・エクスプロージョン!」
間違いない、あの人の声だ。
その人は、呪文をほとんど唱え終わったため途中で止められなくなったらしく、焦った声を出している。
だがレオは落ち着いた様子で、その人に向かって鳴いた……声の感じから頷いてもいるんだろう。
そして最後の一言、魔法を解き放つための言葉を発し、氷の壁越しにもわかる破壊的な何かが膨れ上がっていく……。
絶対、人間が使っちゃ駄目な魔法だろうな……なんて、漠然と感じる魔法。
その力が膨れ上がり、解き放たれるその時……。
「グルウゥァォォォン!!」
おそらくレオのものだろう、これまで聞いた事のないような力のこもった吠え声を発しているのが、氷の壁越しに聞こえる。
次の瞬間、凄まじい爆発音と共に地面が揺れた――。
「申し訳ありませんでしたー!! フェンリル達が集団で行動し、街に近かったのもあって何か企んでいるんじゃないかと!」
「静止したのですが、ユート様が止まってくれず……いえ、言い訳にすぎません。私の監督不足でした。申し訳ございません」
渾身の土下座再び……今回はルグレッタさんも一緒に、レオと俺の前で地面にひれ伏している。
……頑張ったレオはともかく、俺は何もしていないから土下座されても困るだけなんだが……色々驚いたけど。
聞こえて来ていた叫び声は、記憶を掘り起こしてなんとなくそうじゃないか? と思っていたユートさんの物だった。
ついでに、もう一人分の叫び声は制しようとしたルグレッタさんのもの。
本人はあまり気にしていない様子だし、この場では俺以外知らない事でもあるんだけど……まぁこの国で一番偉い人とも言えるお方だったりする。
ユートさん、今は大公爵で王族という地位になっているみたいだけどそれは表向きで、実際は初代国王にして建国者……本来はこの国の誰もがひれ伏さなくてはいけない立場にあるはずなのに、今はレオの前で全力で土下座中。
ちなみに俺と同じ異世界、というか日本から来た人物でギフトを持っているうえ、なんらかの魔法で不老だとか。
ちょっと反応に困る趣味を持っている以外は、気さくな人ではある。
ルグレッタさんは、そんなユートさんのお目付け役というか名目上は護衛役。
ユートさん自身に護衛が必要なのかどうかという疑問はあるが、一人よりも二人の方が突発的な事に対処しやすいのだろうと思う事にしている。
そんなルグレッタさんは、ユートさんを止められなかったと同じく土下座。
ユートさんに個人的な感情を持ちつつも、見る者を苦笑させてしまう趣味に付き合わされている人でもある。
……雰囲気はヨハンナさんに近いけど、それ以上に本質的にもドが付く嗜虐的な思考を持っている可能性のある人だ。
その本質が発揮されるのは、おそらくユートさん以外に敵対する存在に対してみたいで、俺を含めた他の人達には穏やかに接してくれる人でもある。
「えーっと……どうしましょう?」
「うぅむ、困りましたな……こうして、ユート様が皆の前でひれ伏している状況そのものが、少々困るのですが……それはまぁ、レオ様の前だからと考える事にしますか」
「それでいいんですか……?」
騒動の原因がユートさんだとわかり、俺とレオのいる場所まで来ていたセバスチャンさん……クレアも一緒だ。
セバスチャンさんにしては珍しく、本心から困った様子がその寄せた眉根からわかる。
だがとりあえず、レオだからという事で無理矢理納得したいようだ。
「とりあえずは、ですね、タクミさん。ほら、お父様もレオ様には同じ事をしていましたし、既にランジ村で一度同じ事がありましたから」
「あぁ、そうですね」
エッケンハルトさんは、屋敷に来てレオを前にするなり。
ユートさんに至っては、初めて会った時ランジ村の人達の前で土下座した過去がある。
エッケンハルトさんに関しては悪い事はしていないんだけど、ユートさんはレオに斬りかかったからなぁ……今回と似ていると言えば似ている。
まぁ、レオ自身が襲われたという認識はなくて前足一本で留めていたし、傍からは遊んでいるようにしか見えなかったんだけど。
「じゃあ、とりあえずいいのかな? レオも、ユートさんに怒っていないみたいだし」
「ワフ。ワフワーフ」
「むしろ、それなりに魔法を使えたから楽しかったと。……あれでレオにとってはそれなりなのか」
レオにとっては、ストレス解消とか運動代わりとみたいなものだったらしい。
フェンリル達が作った氷の壁がなくなった後、見晴らす限り焼け野原になっていたのに……。
今は、半分くらいのフェンリル達がフェリーの指示で、証拠隠滅……もとい消火作業に当たっている。
「僕は、全力だったんだけどね。でも、許してくれるならありがたいよ……」
許される雰囲気になったからか、顔を上げたユートさんはすぐに一切疲れも見せず、楽しそうな雰囲気すら感じられるレオを見て、項垂れた。
おそらくギフトがあったおかげなんだろう、人間が一人で使用できそうにないあまりにも威力が高い事が予想された魔法。
炸裂後の様子を見るに、威力が高いのは間違いなかったんだけど……皆を守るための氷の壁があったから、実際どうだったかははっきり見ていないけど。
それを、レオは皆に被害が出ないようにした挙句、ちょっとした運動代わりに言われたらそうなるのも無理はないか。
「それで、タクミ君とレオちゃん。さっきから、フェンリル達が僕に向かって匍匐前進で、じりじりと寄ってきているんだけど……ちょっと怖い」
何とも言えない表情で、ゆっくりと立ち上がったユートさんが周囲に視線をやって、フェンリル達の状況を訴える。
ルグレッタさんも一緒に立ち上がったけど、こちらは澄ました表情……俺やレオが敵意がないとわかっているため、危害が加えられないだろうとわかっているからだと思う――。
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