出発前にレオやクレアと話しました
「大丈夫だけど、できれば立ち上がる時はゆっくりな?」
「ワフ」
意識がクレアに行っていたせいもあるので、注意というわけではないけど、気を付けるようには言っておく。
結構な高さだから、落ちると危ないからな。
「ふふふ、こうしているとタクミさんの鼓動が感じられて、安心しますね」
立ち上がったレオに驚いた拍子に、俺の胸に顔……というか耳を付ける形になったクレア。
顔を綻ばせるクレアからは、本当に安心しているような雰囲気が伝わって来る。
「……恥ずかしいって前にも言ったのに。でもクレア、よくそうして耳を当てているね?」
人に自分の鼓動を聞かれるっていうのは、思っていたよりも恥ずかしいな。
最近は何度も同じように、クレアに聞かれているけど。
「はい。安心しますし、幸せだと感じるんです。まるで、こうする事が当たり前のようにも感じます」
「当たり前かぁ……俺が恥ずかしさを我慢するか、慣れれば本当に当たり前になるのかも」
「そうですね……ふふ」
心臓の鼓動を聞くと安心するのは、胎児だった頃に母親の鼓動を聞いているから……なんて聞いた事がある。
もしかしたらその効果なのかもしれないけど、当たり前のようだと言って微笑むクレアからは、別の理由も感じられた。
……想い合っているから、とかだといいなぁ。
「ワフワフ!」
「レオもクレアと同じ意見みたいだ」
「あら、レオ様もそうなんですか?」
「ワウ!」
「まぁレオは、今は違うけど昔はよく抱いてやっていたからね」
レオからも同意するような鳴き声と頷き。
今は俺を乗せられるくらい大きいからできないが、マルチーズだった頃はよく抱いてあげていた。
というか、レオからよくせがまれていたからな。
その時にレオは俺の心臓の鼓動を聞いていたんだろう……犬も哺乳類だし、人間と同じように鼓動で安心感を得られるのかもしれない、よくわからないけど。
そういえば、楽しい事や嬉しい事があって興奮している時、またその逆で怖い事(大きな音など)があって怯えた時などに、レオを胸に抱いて撫でてやると落ち着いてくれたっけな。
あれにはそんな効果があったからなのか……。
「ワフ、ワフワフ」
「えっと……」
「……タクミさんとレオ様の間にはそんな事があったのですね」
俺を通じて、レオと会話するクレア。
内容としては、俺が今考えた鼓動によって安心感というのが否定され、捨てられていたレオを俺が拾って元気になってから、抱かれたのが温かかったからって理由だったらしい。
今明かされる新事実……という程衝撃の事実ではないけど、レオからあの時の事をクレアに話されるのは、照れ臭いな……通訳しているのは俺だけど。
「ふふふ……レオ様は、本当にタクミさんが大好きなんですね」
「ワフ!」
「ふふ、私も負けませんよ、レオ様?」
「ワウ~?」
「……そんな事で勝負はしないで欲しいんだけど」
俺の事をどれだけ好きか、という内容で張り合うクレアとレオ。
まぁ、両方とも冗談みたいな声と雰囲気だからいいんだけど、聞いている俺は照れ隠しの苦笑をしながらそっぽを向いて呟くくらいしかできなかった。
子供達と、ついでにアンナさんも東門まで一緒に、馬車に乗って全ての準備が整い、いざ街の中へ。
「クレア・リーベルト様! タクミ・ヒロオカ様! お二人の門出を祝しましてっ!!」
先頭の馬車などが門を通り、レオに乗った俺達が門に差し掛かった際に、衛兵隊の隊長さんが大きな声で叫んだ。
俺の名前、フルネームで伝わっていたんだな……クレアさんに名乗った時などは、広岡巧、と名字を前にして名乗ったけど、どこかのタイミングで名字と名前がクレア達とは逆だという話をしたような……していないような……?
まぁ、伝わっているようだからいいか。
それにしても、二人の門出って……盛り上げるためなのか、それとも本当に盛り上がっているのか、門から先、左右に別れて道を作っている衛兵さん達が、それぞれ大きく声をあげているし。
まるで、ある式を終えて出てきた二人を歓迎し、祝福しているようだ。
「セバスチャン、ちょっとやり過ぎじゃないかしら? 楽しそうに手配している表情が思い浮かぶわ」
「あの人なら、全力で楽しそうに全力で取り組んだんだろうね」
門を通り抜けた先では衛兵さん達が道を作り、さらにその後ろには見物人なのか、街の人達が集まっている様子が見えた。
俺達がレオに乗りながら話している時、セバスチャンさんが熱心に隊長さんと話していたんだけど……その時手配したんだろう。
俺達の反応も含めて、予定通りといったとこか。
先を歩くフェリーに乗っているセバスチャンさんから、「ほっほっほ!」という楽しそうな笑い声が聞こえてきそうだ。
「タクミさん、私……重くはないですか?」
俺達が姿を見せたことで、ワッ! と盛り上がる見物人。
そんな状況でもクレアが気になるのは自分の重さらしい……俺がちょっと調子に乗って、動き始める前にクレアをお姫様抱っこしている形にしてみたからだけど。
ドレスのため、横向きに乗っているクレアの背を左手で支えているくらいなので、右手は自由だ。
距離としてはクレアが俺の胸に耳を付けて鼓動が聞けるくらいだったので、引き寄せる必要もなかったけどな。
「大丈夫。羽のように軽いよ。やっぱり、ダイエット料理とか考えなくてもいいんじゃないかな?」
「もう、それは大袈裟ですよタクミさん……」
さらに調子に乗って、大袈裟に格好つけた言葉を発したのは、完全に照れ隠しだ。
思った以上の人に見られているのがわかって、テンションが上がったというよりは恥ずかしさや照れくささが振り切ったような……。
おそらく……いや間違いなく、後で落ち着いた時に自分の行動を振り返って、一人で悶絶する事だろう。
けど、今は先の事を考えないようにしよう、後悔先に立たずだ……ちょっと違うか?
「ふふ、それじゃタクミさん。街の者達に、私達の幸せな姿をたっぷりと見せましょう!」
「意識が変わったのかな? ははは……」
集まった人達の多さや歓声に触発されてか、照れ顔から意識が変わったとはっきりわかる笑顔を見せるクレア。
本当に式の後、みたいになってしまいそうだなと思いつつ、顔に笑みを張り付かせて見物人へと意識を向けた――。
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