全体に挨拶をしました
「護衛もいますし、さすがに本当にそんな事は起こらないとは思いますが、ラクトスにいる男性の一部。もしかしたら、多くの男性に恨まれてしまうのではないか、と思いましたので危険と言ったわけです」
「な、成る程……確かに、恨まれるくらいはしそうですね」
こちらの世界に来て数カ月、ラクトスには結構行っているから俺とクレアが一緒にいるところを見ている人は多いだろう……レオも一緒だけど。
でも人によっては、ぽっと出の男がクレアといつの間にか親密に……なんて思って、ハンカチを噛む人が出てもおかしくはないか。
……いや、ハンカチを噛むのは女性だったな、そもそも漫画の話だし。
「ですので、レオ様に乗られているならば襲われる事は一切ないかと」
レオに乗っていれば、もしもの際は走って逃げてくれるだろうし、寄せ付けないようにしてもくれそうだ。
そもそもに、公爵家の使用人さんから護衛さん、さらにレオだけでなく他のフェンリルまでいるのに襲い掛かって来るようなのは、単なるならず者じゃないかと思わなくもないが、それはそれとして。
セバスチャンさんに話を聞いて、色々と納得し始めてから内心前向きになり始めている俺。
その理由は、危険とはまた別の事なんだけど。
「わ、わかりました。レオから言い出した事でもありますし、レオの背中にクレアと一緒に乗ります」
「はい、畏まりました。ほっほっほ……」
レオに乗る事を承諾し、最後にセバスチャンさんが笑って内緒話を終える。
もう見せつけてしまえ……と言うような心境になっている。
レオがシルバーフェンリルだというのはラクトスの人達にも広く知られているし、レオに乗ってクレアと仲睦まじくしていたらおかしな事を考える人も減るだろう。
……石を投げられるくらいは、一応覚悟はしとくかな……いや、さすがにクレアも一緒にいるところに、石なんて投げられないだろうけど。
ちなみに前向きになった理由は、クレアに懸想する男性が多いかもしれない……と言われて想像したからだ。
そういう人は確実にいるだろうし、クレアくらい魅力的ならラクトスだけで、百人どころか千人いてもおかしくないからな、うん。
みっともないかもしれないけど、男の独占欲なのは……否定しないでおく。
「タクミ様、クレアお嬢様、全ての準備が整いました」
「はい、ありがとうございます」
「ありがとう、セバスチャン」
あれから、セバスチャンさんとの内緒話を終えてレオのいる所に戻り、クレアを正気に戻した。
まぁ、呼びかけても反応してくれなかったので、ちょっと苦労したけどそれはともかく。
レオの背中に乗って、パレードのようにラクトスを通る事が決まり、その後は出発準備が着々とすすむのを眺めるだけ。
リーザやレオ、クレアやティルラちゃんと話しているうちに終わったようで、準備全体の指揮を執っていたセバスチャンさんが報告に来る。
ちなみに、俺もクレアも手伝おうとしたんだけど断られた。
クレアはドレスだから手伝えないにしても、俺が手伝うくらいはいいんじゃないかなぁ……リーザやレオ、ティルラちゃんも同様だ。
使用人の仕事を奪わないで下さいとも言われたから、最終的には納得したけど。
「では、クレアお嬢様」
「えぇ。――これまで、私のお世話をしてくれてありがとう。これからも、ティルラの事をよろしくお願いするわね」
「「「はい! 公爵家の使用人として恥じぬよう、務めさせて頂きます!!」」」
セバスチャンさんに促されて、出て来ていた屋敷の使用人さんや護衛さん。
ランジ村にはいかず、屋敷に残ってティルラちゃんのお世話をする人達だ……大体、クレアと一緒に行く人と半々といったところだろうか。
一部、引っ越し補助として屋敷に残る使用人さんも、今は馬車の方にいるけど。
屋敷の方のメイド長は変わるが、執事長はそのままセバスチャンさんが務める。
「ランジ村に行ってからも、よろしくお願いね」
「「「はい! 変わらずクレアお嬢様の使用人として、勤めせて頂きます!!」」」
次に、馬車側にいる使用人さん達へクレアが声を掛ける。
こちらはランジ村に行く人達で、フィリップさんやヨハンナさん、ニコラさんなどもいる。
両方とも、使用人さん達が大きく声を揃え、護衛さん達は静かに敬礼をしていた。
「タクミ様も、お願いします」
「はい……」
移り住むための、屋敷を離れるための簡単な儀式のようなもの。
これまでお世話になった人達に感謝と別れを告げ、これからお世話になる人達に改めての挨拶。
クレアを見習って屋敷に残る人達に、長くお世話になった感謝と別れを告げた。
次に、俺が雇った使用人さん……アルフレットさんを筆頭に、ライラさん、ゲルダさん、ミリナちゃん、ウィンフィールドさん、キースさん、ジェーンさん、チタさん、それからヴォルターさんもだ。
皆にこれからよろしくと伝え、クレアの方の使用人さんにも同じく伝えた。
「ワフ、ワフワウワフ!」
「キャウキャウ!」
レオとシェリーも、それぞれ俺やクレアに続いて皆に声を掛ける。
はっきりとした意味はわからなくても、レオとシェリーの気持ちは伝わっただろう。
一部の使用人さんは、レオやシェリーがいなくなる事を残念に思っているのか、悲しそうにしていた。
まぁ、今後一切この屋敷に来ないという事はないから、またお世話になる事もあるだろうけど。
その時は、存分にレオを撫でてもらおうと思う。
「えーっと……?」
「グルゥ?」
目の前の光景を見て、なんと言えばいいのかわからず少しだけ首を傾げ、そんな俺を見てフェリーも首を傾げていた……。
最後に、なぜか俺がフェンリル達に対して声を掛ける事になった。
レオでもクレアでもなく、俺でいいのか? と思ったけど、皆の納得している表情やフェンを始めとしたフェンリル達が綺麗に整列し、俺を見てお座りしている姿を見ると、これでいいのかなと思う。
祝福を受けた時に、俺やクレアに従うという約束をしたような感じになったし、これまでにも俺から声を掛けると嬉しそうにしていたからな。
懐かれているんだと考えて、フェンリル達に伝える言葉を考え始めた。
とりあえず、これからの事や人間との接し方とかに関してで良さそう、かな――。
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