レオからも提案がありました
「一日中……ですか!? そ、そんな、一日ずっとタクミさんの腕の中……私、耐えられるのかしら……」
「ふむ、クレアお嬢様は何やら旅立ってしまわれたようですな……」
俺の言葉に落ち込んでいた様子はどこへやら、両手を頬に当てて目を開くクレアは、ブツブツと言いながら想像……妄想? の世界へ。
セバスチャンさんの言う旅立ったというのが、しっくりくる。
それにしても、耐えるって何を耐える必要があるのだろうか? 恥ずかしさかな。
「ではタクミ様、よろしくお願いいたします」
「あ、はい。って、え……?」
妄想が暴走しているクレアは置いておいて、セバスチャンさんが恭しく頭を下げる。
思わず頷いてしまったけど……あれ? これはもしかして承諾した流れになっているのか?
もちろん、嫌じゃないし恥ずかしいという部分を除けば、断る理由はないんだけど。
……本当に、断る理由ないのかな? まぁいいか。
「ワフ、ワフ!」
「レオ?」
「どうなされましたかな?」
お座りをして話を聞いていたレオが、右前足を上げて何やら主張。
発言する時に挙手するとは、中々人間らしい事を覚えたもんだ。
「ワウ。ワッフワッフ、ガウ~」
セバスチャンさんと一緒にレオの方を見ると、何やら鳴き声を上げつつ立ち、クルっと体を回転させて背中を見せる。
その後、尻尾を振りながらその場で足踏み……上機嫌に歩いている様子を表しているようだ。
まぁ、鳴き声から俺は何を言っているのかわかっているんだけど、ジェスチャーでセバスチャンさん達にも伝えているんだろう。
レオは俺とクレアが、自分の背中に乗って街の中を歩けばいい、と主張。
上機嫌な様子は、注目される俺やクレアを乗せているからだろうか?
「成る程、それも一興。レオ様の背中に乗っていれば、危険も少ないですし……」
「完全にパレードになりそうな……」
セバスチャンさんには、レオ渾身のジェスチャーが通じたようで乗り気の様子。
多くの使用人さんや馬車などを連れて、一番目立つレオの背中に乗ってって……俺の脳内ではオープンカーに乗って観衆に手を振っている様子が浮かんだ。
いや、オープンカーなんてないけど。
「……って危険?」
想像している途中で、セバスチャンさんが言った言葉が引っかかる。
危険ってなんだろう……レオが護衛代わりとかそういう意味かな?
レオに乗っていたら、俺の手がしびれてクレアを落としてしまう、とかの心配ではないと思うけど。
「いえ……ちょっと失礼します」
「あ、はい」
首を傾げる俺に、セバスチャンさんが顔を近付けて耳打ち。
あまり周囲に聞かれたくない内緒話のようだ……クレアに聞かれたくないのかな?
「クレアお嬢様に懸想している男性から、タクミ様が襲われないかなと思いまして……」
「え……えぇ!?」
俺以外に聞こえないよう話される危険と言った理由……懸想って日本でも中々聞かない言葉で、一瞬だけわからなかったけど、意味を理解して思わず声を出してしまった。
多分、こちらの言葉が俺に理解できるよう翻訳された際に、そういう言葉になったんだろうけど……。
「ふえぇ……うふふ……」
クレアは……まだ妄想の世界から戻って来ていないからいいとして。
「ワフ?」
「どうしたのパパ?」
レオやリーザ、他にもアルフレットさんや周囲にいる人には愛想笑いで誤魔化した。
「ちょ、ちょっとセバスチャンさん、こっちに!」
「はい」
セバスチャンさんを連れて、皆と少し離れて内緒話。
何やら、面白そうな笑顔を浮かべているけど……気にしないでおこう。
「確かにクレアは、容姿、佇まい、性格、全て可愛く綺麗な女性ではありますが……」
「……私は、のろけられているのでしょうか?」
「そんなつもりはないですけど……クレアの事をと考えている男性、多いと思いますか?」
「身近でお世話をしている私などからすれば、欠点などもあるにはありますが……それでも十分魅力的な女性である、と私は思います。ラクトスの街が近い事もあり、何度も訪れてその姿を住民に見られておりますし、そういった方は多いかと」
「そ、そうですか……」
思わずのろけとも取れる事を言ってしまったけど、ひいき目に見なくてもクレアは魅力的な女性だ。
女性の使用人さん達も、魅力的な人は多くいるけど……いやいやそうじゃなくて。
容姿は言わずもがな、他にもなんというか黙って立っていると凛とした佇まいだったり、話すと誰が相手でも基本的に分け隔てなく優しく話してくれる。
当然ながら、そんなクレアに惚れてしまう男性というのは多くいるのは間違いないか。
以前から評判がいい、という話は聞いていたし。
「まぁ、さすがに直接クレアお嬢様を口説こうと挑戦なさる方はいませんが……旦那様が以前お見合いの話を多く持って来ていた事は覚えていらっしゃいますか?」
「はい」
クレアやティルラちゃんが、別荘であるラクトス近くの屋敷に住むようになったきっかけだな。
多過ぎるお見合い話に、断るのが億劫になって……とかだ。
その原因が実はクレア自身だったんだけども。
「旦那様は、身分にこだわりがありませんので……さすがに人となりが全くわからない人物などではありませんが、広く一般の街や村に住む人からの話も持って来ていました」
「そ、そうなんですか……?」
「当主によっては、家柄などにこだわって選ぶ事もあるようですが、今の公爵家ではあまりそういった事で選ぶ事はないのです。本題ですが、そういった話は公爵領内でもある程度知られていまして……」
まぁ、一般の人からも募っている……かどうかはともかく、お見合いの話を大量に持って来ていたのなら、知られていてもおかしくないか。
もちろん、他領の貴族や他国からってのもあったのかもしれないけど。
「クレアお嬢様のお人柄からも窺えますが、特に地位の高い者でなくとも、権力を持っていなくとも、もしかしたら……と思う方は後を絶ちません。実際、そういった話は噂としてよく聞きますな。あくまで、クレアお嬢様に懸想をしている男性が、といったくらいですが」
つまり、地位関係なくもしかしたら自分にもワンチャン? とか考えているのもいるだろうって事か。
セバスチャンさんが話しているって事は、噂であってもそれなりに数が多くて本当にそういう人がいる話なんだろう。
あと、邪な考えで行くとクレアの事だけでなく、公爵家への婿入りで逆玉の輿……なんて考えている不届きなのもいそうだ――。
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