昨夜の事を謝られました
「失礼いたします、タクミ様。おや、お休み中でしたかな?」
「いえ、大丈夫です。リーザはちょっと……ミリナちゃんの薬の効果で、眠くなったからですけど」
部屋に戻り、ベッドで健やかに眠るリーザをレオと一緒に眺めて、ひと時の安らぎを感じていると、訪ねて来るセバスチャンさん。
ちなみに、ライラさんも傍らでリーザを眺めていたりする……時折尻尾を撫でているから、ライラさん的にも癒し効果があるのだろう。
「ふむ、体力回復薬でしたか。あれは私も試しましたが、確かに眠くなるのが難点でしたな」
試した使用人さんの中には、セバスチャンさんもいたのか。
興味を持ちそうな物でもあるから、自分から進んで飲んだっぽいな。
「そうですね。まぁ、詳しくはミリナちゃんが後で報告すると思います。眠気に関しては、悪い効果ではない捉え方もできるという話をしていますけど……」
詳しくはミリナちゃんからと前置きをしつつも、簡単に薬に関しての話をセバスチャンさんにする。
レオもリーザも、眠気はそれなりに感じていたようだ。。
ただ両方とも、ライラさんやミリナちゃんの報告通り、抗いがたいという程ではないらしい……ちょうど昼寝するには良さそうな時間だったから、リーザを寝させたけど。
寝る子は育つ……起きてやらないといけない事があるわけでもないからな。
ちなみに、セバスチャンさんも俺と同じく体力回復薬を美味しいと感じた人の一人らしい、疲れているのだろうか?
「セバスチャンさん、いつもより顔色が良くないような……? 疲れが出ているんじゃないですか?」
いつもニコニコしていて、ラーレに乗った時以外はほとんど疲れた様子を見せないセバスチャンさん。
美味しいと感じた……と聞いてふと見てみると、いつもより笑顔が抑え気味な気がした。
「ご慧眼です。まぁ、これは疲れとかではなく……おっと、その事で謝罪に参りました」
「謝罪ですか?」
セバスチャンさんに謝られる事なんてあったっけ?
少しだけ元気がない様子と繋がりがあるみたいだけど……。
不思議そうに首を傾げる俺に、セバスチャンさんが深々と頭を下げた。
「昨夜、クレアお嬢様とタクミ様の秘め事を覗き見ていた事です。申し訳ありません。命じられていた事でもあるのですが……いえ、これは言い訳になりますな」
「えっと……あ、あの時の……」
セバスチャンさんの謝罪は、昨日俺がクレアに告白していたのを見ていた事らしい。
「あ……私も……」
「ライラさんもですか。うーん……気にしていないというわけではないですし、あの時は驚いて恥ずかしかったのは確かですけど、そんな、謝る程じゃ……」
「いいえ、クレアお嬢様に先程まで、強く言われてしまいまして」
「あぁ、クレアに……」
頭を下げるセバスチャンさんを見て、ライラさんも俺に向かって頭を下げる。
クレアと抱き合っている場面での登場、しかもほとんど全て覗き見していたので、恥ずかしかったし……全く気にしていないわけではない。
けど、頭を下げて謝れられる程とは思っていなかったから、少し驚いている。
セバスチャンさんによると、俺達がミリナちゃんの薬を見ていた時、クレアから強く叱られていたらしい……だから、疲れているようにも見えたのか。
「申し訳ありません、タクミ様。屋敷の者達全員の関心事ではありましたが、あのような行動はするべきではありませんでした……」
謝罪するセバスチャンさん。
雑貨屋で買い物をする時、ハインさんの反応から多くの人の関心事になっているのはわかっていた。
屋敷にいる人なら尚更、俺とクレアが……というのは気になって仕方なかったんだろう。
でも確かに、それを覗き見するのはちょっとはしたないというか、どうかなと思う部分は俺にもある。
クレアが怒るのも無理はないな……以前、エッケンハルトさんが覗いていた時も、かなり怒っていたし。
ともあれ、謝罪を受け取った後セバスチャンさんとじっくり話したところによると、覗き見は皆の本意ではなかったとの事だ。
理由を尋ねると、エッケンハルトさんから俺とクレアがどうなるかを、しっかり見ておくようにと言いつけられていたと……要は、監視というのは大袈裟だけど、自分がいない間の事を報せろという事だったらしい。
しかもそれが、公爵家の当主としてとか父親だからとかではなく、ただの興味本位で。
エッケンハルトさんのミスやらで、それがクレアに知られたのがさっきの事で、直接命じられていたセバスチャンさんが呼ばれて今まで、という事だとか。
まぁ、エッケンハルトさんは次にクレアと再会した時に、色々と厳しい追及を受けるのはさもあらん。
あの人の事は置いておいて……ライラさん達に関しては、それらの事を知らず俺がどうしているのか気になったリーザにせがまれて、との事だったらしい。
リーザが行くとなれば、事情を察しているレオも一緒。
部屋の外に行けばレオが目立つわけで、そこから俺が使用人さんと相談して、近いうちにとソワソワしていた人達が集まって……。
結局、セバスチャンさんと合流して皆で一緒に見守る会ができたとか。
リーザが言い出した事だから、俺がどうこう言う気は一切なくなったけど……夜遅くだったために、見守る途中でライラさんに抱かれて熟睡したというのは微笑ましい。
いやいや、リーザの事で和んでいる場合じゃないな。
かと言って、クレアにも散々言われたっぽいセバスチャンさんを、責める気にはなれない。
元凶はエッケンハルトさんみたいだし。
ライラさん達、他の使用人さんや護衛さん達に関しては……今更だな。
皆、クレアに気持ちを伝える方法などの相談に乗ってくれたし、俺から期待感を煽ったような部分もあるから。
「まぁ、色々と恥ずかしい場面を見られたので、気にしないで下さい……とは言えませんけど、謝罪は確かに。ライラさん達の方はエッケンハルトさんとは無関係ですし、リーザが発端ですから」
「ありがとうございます」
「申し訳ありません」
一応謝罪は受け取っておくとして……どうしようかな。
さすがに、俺から何も言わないというのも少し違う気がしている。
ライラさんはともかくとして、エッケンハルトさんに直接言えばいいかな? いや、あっちはクレアが言ってくれるだろうけど。
でも、セバスチャンさん達が気にするのもわかる気がするからなぁ……特に一部の使用人さん以外、屋敷に留まって離れる事になるわけだし。
となると……。
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