体力回復薬は慣れ親しんだ味に似ていました
「うん、まぁ……効果自体は薬草程じゃないから、それくらいなのかもな。でも本当に美味しいのか?」
レオに飲ませた薬の入っていた小瓶、まだ持っていたそれの口を顔に近付けて匂いを嗅いでみる。
特段、美味しそうな匂いはしないし、それどころかほとんど匂いを嗅ぐ事ができない……。
微かに、本当に微かに青臭いような薬草を使っているんだな、という感じの香り? がするくらいだ。
「味は……あまり進んで飲みたいとは、私は思いませんでした」
「私もです。避けたいほどではないんですけど……」
ライラさんとミリナちゃんは、あまり美味しいと感じなかったようだ。
絶対に飲みたくない! という程不味いわけではないんだろうけど……。
「うーん……ん。成る程、これは確かに」
小瓶の口に指先を付けて、味見するために舐めてみる。
舌で感じた味や匂いから、なんとなくライラさん達の言っている意味がわかった。
「ワフ?」
「ね、美味しいでしょ?」
味見をした俺に、レオもリーザも同意を求めるように視線と言葉を向ける。
いやまぁ、好みの味はそれぞれだし美味しいと思うかは人によって違うと思うけど……。
「なんというか、よく知っている味に近いから……俺も美味しいとは感じるね」
「パパと一緒ー!」
「ワフワフ」
「そうなんですか!?」
「使用人の中でも、一部は美味しいと感じている人はいたようですので、タクミ様がそう感じられる事もあるのでしょうね」
俺の返答に、リーザとレオが喜び、ミリナちゃんは驚き、ライラさんは微妙な納得をしている。
使用人さんの中にも美味しく感じる人がいたのか……少し、休んだ方がいいかもしれない、という感想が浮かぶのは慣れ親しんだ味なのが原因か。
体力回復薬の味は、日本でよくお世話になった栄養ドリンクの味そっくりだったから。
まぁドリンクも物によってえぐみのある味の物があったり、飲みやすい物があったりでそれぞれだけど……俺がよく買って飲んでいたパインっぽい味のするのと似ていた。
ファイトでイッパツな、日本でも特に有名なドリンクだな。
飲みやすい方の物で、美味しいとまでは言わなくとも味が原因で絶対飲みたくない、という人はほとんどいないんじゃないかな?
どう考えても、俺の作った薬草三種の味を混ぜてもそうならないだろうに……不思議だ。
これも、薬効が混ぜ合わさった結果と言えるのだろうか?
「ある意味、俺らしい味かもしれないなぁ……作ったのはミリナちゃんだけど」
「師匠らしいですか?」
「以前……そうだね、今よりもずっと忙しかった時に、散々お世話になった物の味だからね。もうお世話にならないと思っていたけど、この味で思い出したよ」
一日一本という注意書きがあるにも関わらず、二本も三本も飲んでいた日もあるくらいだ……薬ではないけど、用法容量はちゃんと守ろう。
ちなみに、飲んだ後は確かに元気になる気はしていた。
栄養補給される以外にも、プラセボ効果やカフェインの影響なんだろうけど。
ともあれ、俺も最初はあまり美味しく感じなかったんだけど……飲み慣れたりいつも飲んでいると、美味しいと感じる事が多くなった。
人によるのかもしれないけど、もしかしたら疲れている程栄養ドリンクが美味しくなるのかな? と思ったりもして……。
だから、少しだけ美味しいと感じたらしい使用人さんは心配だけど……まぁ、屋敷の人達は無理な働かせ方はしなさそうだから、多分大丈夫か。
ライラさん達、俺の使用人になってくれる人には、俺が注意して無理しないように見ておこう。
「なんにせよ、受け入れられないって程の味じゃないから、大丈夫そうだね」
「そうですね。師匠やレオ様、リーザ様のように美味しいと感じる方もいれば、それも売りになりそうです」
味で忌避する人がいないなら、体力回復薬は問題なく販売できるだろう。
……良薬口に苦しなのか、ものすごく酷い味の薬とかもあるらしいし……あまり心配はしていなかったけども。
「レオ、リーザもだけど、何かおかしい効果が出たりはしていないか?」
「ワフ、ワフワフ」
「うん、全然。元気になる? っていうのはよくわからないけど、美味しかったくらいかなぁ」
「そうか。なら人間以外が飲んでも大丈夫そうだ」
副作用的な効果はレオ達に出ていないようなので、体力回復の効果はともかくとして、問題は特になさそうだ。
心配した種族によって出る効果の違い、というのもないみたいだから。
これからも、レオが匂いなどで大丈夫と判断した物は、信用しても良さそうだな。
「ワウワフ! ワウ?」
「え? いやさすがにそれは……これは薬で、必要な人が飲むための物だからな」
「ワフゥ……」
「むー……」
レオから食事時に用意してもらっている牛乳や、ブドウジュースの代わりにと聞かれる。
さすがに用途が薬なので、それはできないだろうと首を振ると、レオもリーザも残念そうにしていた。
ブドウジュースはそろそろ買い取ったワインが少なくなってきているので、最近は牛乳メインだけど……体力回復薬の方が体にいい、かどうかはともかくとして、さすがに薬を毎回の食卓に出す事はできない。
調合するための薬草が足りなくなりそうだし、レオとリーザで全部飲んでしまいそうだからな。
「まぁ、飲み物はまた別にな」
「ワウ」
「うん」
果実を絞ったジュースとかなら、レオもリーザも気に入ってくれるだろうか?
ブドウジュースが気に入ったんだから、大丈夫だと思うけど。
まぁ、それらを用意したりそのための相談をしたりするのは、ランジ村に行ってからとして……。
「何はともあれお疲れ様、ミリナちゃん」
「いえ、もっと他の効果の出る薬や、調合方法の改良も考えて、頑張ります!」
「うん、お願いするよ」
とりあえず、試薬は成功という事でミリナちゃんを労う。
まだまだ満足していない……というよりは、薬の調合の楽しさに目覚めたのか、拳を握って意気込むミリナちゃん。
頼もしい限りだ。
そうして、ミリナちゃんの用事であるところの試薬に関しての話は終わり、俺はリーザをレオの背中に乗せて部屋へと戻った。
リーザがちょっとだけ眠そうにしていたからなんだけど、体力回復薬の眠くなる効果だろうな――。
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