フェンリル達が集まっていました
――朝食時の混乱というか、一方的な宣言をさせられてからしばらく。
俺自身の引っ越し準備が終わっているため、気持ち以外はこれまでと変わらない薬草作りなどをしていたら、リーザと遊んでいたレオから屋敷の門の前に連れて行かれた。
リーザを背中に乗せたレオに押されてたんだけど。
ミリナちゃんも俺になにかあるようで、ちょっと緊張している様子で俺やレオの後を付いて来ていた……チラッと聞いたけど、レオとは別件のようだ。
レオの用が終わった後で、何か報告したい事があるんだとか。
薬草に関する事だろうか?
「……クレア? どうしてここに?」
レオに鼻先で背中を押されたり、服の裾を咥えられたりして連れて来られた屋敷の玄関。
その外に出た辺りでクレアがいるのを発見。
まだ引っ越しの準備のあれこれがあるはずなのに……。
「タクミさん。私はシェリーに言われて……タクミさんは、レオ様にですか」
クレアは、朝食時の事があったからか、それとも部屋での事などがあったからか……全部か。
とにかく、俺の声に振り向いてこちらを見た途端、少し頬を赤らめながら教えてくれる。
クレアの方はクレアの方で、シェリーに連れて来られたようだ。
レオとシェリーが俺やクレアを連れて、何か考えているのかな?
「ワフ」
「え? ここで少し待ってろって?」
「キャウ」
「シェリーもなの? わかったわ……けど、一体?」
レオとシェリーがそれぞれ、俺とクレアの前に出てここで待つように言い残して門を出て行く。
リーザも、レオに乗ったまま連れて行ってしまった……門番をしている護衛さんは、緊張しているようだけど外を向いているから何も教えてくれそうにない。
クレアと顔を見合わせ、何があるのかと首を傾げる。
本当に、何があるんだろうか……? レオとシェリーだから、悪い事じゃないのは間違いないと思うけど……。
「ワフ! ウォフ!」
「レオが呼んでいるみたいだ。何か準備でもしていたのかな?」
「かもしれません。シェリーも一緒って一体何をするつもりなんでしょう?」
「リーザも一緒だからね。まぁ、変な事じゃないと思うけど……」
言われた通り、疑問に思いながらも待っていると、門の外からレオの声が俺達を呼ぶ。
お互い首を傾げながら、よくわからないまま一緒に門の外へ向かった。
「パパ、ようこそ!」
「ワフワフ~!」
門を出てすぐ、こちらに体を向けて立っているレオと、その背中に乗ったリーザの楽しそうな声に迎えられる。
ただ、そのレオの後ろを見てクレアと足を止め、驚いた。
「え……?」
「フェンリル達……?」
「グルルゥ!」
「ガウ!」
「ガウゥ!」
「キャゥ~?」
レオを先頭に、フェリーとフェンとリルルが並び、フェンの背中にシェリーが乗っている。
さらにその後ろには、フェリーが連れてきたフェンリル達がずらりと整列していた。
「これは一体?」
並んでこちらを見ているフェンリル達……それを見てよくわからず呟く。
レオやフェリー達の後ろに並んだフェンリルは、おそらく序列なんだろう。
裏庭で寝泊まりするフェンリル、厩にいるフェンリル、さらに敷地の外にいるフェンリル達の順で並んでいた。
多分、以前聞いた序列順に並んでいて、フェンとリルルとシェリーは前から一緒にいたからフェリーと一緒の列なんだろう。
まぁ、慣れ親しんでいるフェリー達はともかく、一気に数が増えたので新しく来たフェンリル達はまだ細かく見分ける事はできないんだけど。
でもなんとなくではあるけど、大まかに区別する事はできていた。
少しだけ、迫力というかそういうものがフェリーに近い程強い気がするくらいだけども。
「ママ達が、パパとクレアお姉ちゃんをお祝いしたいって! 何をお祝いするのか、リーザはよくわからなかったんだけど……」
「ワフ、ワフワフー!」
「レオ様やフェンリル達から……?」
俺の呟きにリーザが答えて、レオも頷いて肯定するように鳴き、何故皆が整列しているのかを教えてくれた。
「ワフ」
「パパ、クレアお姉ちゃん」
「ん? どうしたんだ、レオ、リーザ?」
スッと、一歩だけ前に出たレオと、その背中に乗るリーザに呼ばれる。
何かが始まる気配を感じて、首を傾げた。
「キャゥ」
「シェリー?」
シェリーもフェンの背中からクレアに呼びかけている。
「ワフワフ」
「うん、わかったママ。すぅ……パパ、クレアお姉ちゃん!」
「お、おう!?」
「は、はい!?」
レオがリーザを促すように鳴き、頷いたリーザが思いっ切り息を吸い込んで大きな声で、俺とクレアを呼ぶ。
リーザから叫ぶように呼ばれたのは初めてだから、クレアと一緒に驚いてしまった。
「番、おめでとう!!」
「ワオォォォォォォォン!!」
「つ、つが!?」
「番、ですか……?」
空に向かって叫ぶリーザ。
それに続いて、レオも空に顔を向けて遠吠え。
というか、番って……クレアは、意味がよくわかっていないらしくて、キョトンとしている。
そして……。
アオォォォォォォォン――
ガオォォォォォォォン――
「おぉ……大合唱だ」
レオの後ろに控えていたフェリーを始め、全てのフェンリルが空に向かって大きく遠吠えをした。
屋敷の使用人さんが送迎の時に声を揃えているのに似ている。
けど、数もそうだけど迫力はこちらの方が断然上だ……まぁ、体にビリビリと圧力のようなものを感じるからかもしれないけど。
空を向いているのは、俺達を遠吠えで威圧してしまわないような配慮なんだろう。
以前、レオの遠吠えの直撃を受けたラーレが、空から落ちかけていたくらいだし。
正面から向けられると危険かもしれないから。
それに……。
「タクミさん、なんだか胸が熱いといいますか……温かい気持ちが……」
「クレアも? 実は俺も。ただの遠吠えじゃないのかもしれないね」
クレアも同じくらしい、体の内側から沸き上がる不思議な感覚。
熱いと言うのか、温かいと言うのか……慣れない感覚なので正確には言い表せないけど、悪い感覚では一切ない。
嬉しいとか楽しいとか、喜びのような感情や温かさだ。
ワオォォォォォォォン――
アオォォォォォォォン――
ガオォォォォォォォン――
キャォォォォォォォン――
レオ、フェン、リルル、フェリー、シェリー、そしてフェンリル達の遠吠え。
空に向けられているそれを聞き続け、沸き上がる気持ちに身を任せていると……。
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