手の平の上で転がされていたようでした
「ほっほっほ、良い言葉を聞きました。今のタクミ様の言葉は、一言一句全て旦那様に報告させていただきますよ」
「うぅ……恥ずかしいですけど、わかりました」
笑うセバスチャンさんに、恥ずかしさがにわかに湧き出て身を縮こませながら、しぶしぶ了承する。
エッケンハルトさんはクレアの父親だし、公爵家の当主という権力者。
貴族なのもあって、娘に関する事だから報告されるのは仕方ないだろう……内緒で付き合って、みたいな事は考えていないし後ろめたい事をするつもりもない。
でも……皆の前で宣言したからか、頬が熱い……クレアも赤いから同じように思っているのだろうか。
「タクミさんと姉様、凄く顔が赤くなっています。セバスチャン、これで良かったですか?」
「えぇ、ティルラお嬢様」
「……もしかして、セバスチャンさんが仕組みましたか?」
ここまでの流れ……ティルラちゃんが周囲の人達の雰囲気や、クレアの様子に疑問を持つまではともかくとしてだ。
いきなり義兄様と呼んだのは、セバスチャンさんから説明されてだ。
何を言われたのか、俺には聞こえないようにしていたからわからないが……つまりその時、セバスチャンさんから仕組んで流れを作る事だってできる気がする。
「ほっほっほ、私もただ言われたようにしただけなのですよ」
「セバスチャンさんが? いやでも、さっきからの様子を見ていると、セバスチャンさんしか……まさか!?」
俺に宣言させるような流れを仕組んだのでは、と訝し気にセバスチャンさんを見るが、当の本人は笑って自分も言われた事をやっただけとの事。
さすがにそれは嘘だろうと思ったけど、しかし、ふとセバスチャンさん以外にそれができる人物に思い当たった。
昨夜の事を知らないティルラちゃん以外に、セバスチャンさんに対してそういう事をさせられる人物……。
「ク、クレア……?」
「……も、申し訳ありません、タクミさん」
おずおずと、真っ赤な顔を上げて謝るクレア。
そう、セバスチャンさんに命令という程じゃなくても、仕掛けさせる事ができるのは現在の屋敷において、クレアかティルラちゃんの二人だけ。
セバスチャンさんは執事長で、しかも屋敷内で最年長……まぁ他の人でもお願いするくらいは聞いてくれるだろうけど、ここまでの事はしないような気がする、多分。
「実はその……」
クレアから話される今回の仕掛け。
朝起きてから、昨日の事が夢じゃないかと少し疑ってしまったクレア。
俺の部屋に来る前にセバスチャンさんと話していたらしい……かなり早起きしたみたいだ。
そこで、俺がプレゼントした宝石のネックレス、それらの意味を知らなかった話になったんだとか。
俺がネックレスの意味を知らない事自体は、クレアも察していたようだけど、そこからセバスチャンさんの提案で俺がどこまで考えているかを試してみようとなった……。
試すような事をしなくても、直接確かめてくれればとは思うが、これに関しては明言していないうえに正面から聞かれただけじゃ、ランジ村での事などを理由に俺自身はぐらかしそうだと思ったから、あまり強く責められない。
そして、俺からちゃんと考えている事の宣言を引き出す流れを作って……まんまと俺は言わされたわけだ。
ちなみにティルラちゃんには、朝食前にすでに話してあり、さっき小声で説明しているように見えたのは演技だったらしい。
……ティルラちゃん、中々の演技派なのかもしれない。
「って、結局セバスチャンさんの提案じゃないですか」
「おや、バレてしまいましたか」
ジト目をする俺に、どこ吹く風と言った様子のセバスチャンさん。
この人は本当に……。
まぁ、クレアと俺の関係に一番やきもきしていたのも、セバスチャンさんだろうし……こういった仕掛けをするのも仕方ない、と無理矢理諦めるしかないか。
本人は、やきもきというより楽しんでいたのかもしれないけど。
「本当に申し訳ありません、タクミさん。でも……先程の言葉、凄く嬉しかったです。もう、胸がいっぱいになって……はふ、良い言葉でした……」
「ほっほっほ、クレアお嬢様は満足されたようですな。さすがタクミ様です。私達の言葉よりも、クレアお嬢様はタクミ様の言葉が一番のようです」
「はぁ……クレアが満足なら、それでいい……のかな?」
目を細めて、陶酔しているように声を漏らすクレア。
それを見て微笑ましそうに笑うセバスチャンさん……それでいいのかと思わなくもないけど、俺の考えや恥ずかしさよりも、クレアが嬉しそうなのが何よりだと思い直し、無理矢理自分を納得させた。
強引に言わされた感はあるけど、実際に考えていた事だし考えなきゃいけない事でもあるわけで。
いい機会だったと思う事にしよう……。
「タクミさんと姉様が、仲良しになったって事ですよね? んー……これまでもずっと仲良しだったから、あまり変わらないですかね?」
「いえ、ティルラお嬢様。もっと仲良しになった、という事です」
「成る程、そうなんですね! タクミさんと姉様、もっと仲良しです!」
セバスチャンさんの手のひらで転がされた感があるのを、頭の片隅に追いやるのに必死な俺を余所に、キョトンとしていたティルラちゃん。
そっとライラさんに言われて、納得というか喜んでいた。
その後、朝食の間中また笑い声を漏らしているクレアを、少しだけ変な目で見るティルラちゃん……ポツリと「タクミさん、いつか義兄様って呼べたらいいなぁ」なんて言っているのが聞こえる。
うむむ……ティルラちゃんが義妹というのは嫌じゃないし、既に妹のように見ているからいいんだけど……嬉しさと恥ずかしさ、その他色んな感情が襲い掛かって来て、なんとなく答えに窮したままになった。
朝食後、非番なのかラフな格好をしたフィリップさんに絡まれ、「タクミは真面目過ぎる」などブレイユ村に行った時の友人モードで言われた。
さらに「どうしたら女性の心を掴めるのか、教えて欲しい」とも言われたけど。
確かに俺自身も、自分が真面目過ぎるというかそういう部分があるって自覚はしているけど、ほとんどがクレアに対して誠実に向き合おうとしているから……だと思う。
あとフィリップさんは、真面目じゃないわけでもないし遊び人というわけじゃないんだから、もう少し誠実に女性と向き合えばいいんじゃないかな? と伝えておいた。
俺の言葉に対しては「あれでも誠実に女性を口説いているつもりなんだが……」と苦笑していたけど、誰彼構わず女性と見たらとりあえず口説く事は、誠実とは繋がらない気がするってのは、黙っておこう。
言っても、伝わらない気がしたからな――。
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