クレアに寝顔を見られてしまいました
「ふふふ……よく寝て……」
「ワフ……」
「んにゃ……」
何やら、近くで話し声が聞こえる。
えーっと……?
そうだ、確か昨日はクレアに告白して……それから、使用人さん達が集まる騒ぎがあって……。
落ち着いてから、さすがに夜も深い時間過ぎたので、すぐに就寝したはずだ。
緊張から……というよりも、走った事の疲れもあってかベッドに横になった瞬間、糸が切れたように意識が沈んでいったような気がする。
それはともかく、今聞こえている話し声は一体……?
聞き覚えがあるような気がする……どころか間違いなく聞き覚えがあるはずだけど。
「んー……?」
「あら、起こしてしまいましたか……もう少し見たかったのですけれど、残念です」
「ワフ、ワフワフ」
「んにゃ……おふぁよう……?」
浮上した意識をはっきりとさせ、聞こえてくる声を確かめるようにゆっくり目を開ける俺の耳に、残念そうな声と楽しそうな鳴き声、まだ寝ぼけているような女の子の声が聞こえた。
鳴き声はレオで、寝ぼけている声はリーザだな。
でも、もう一人の聞き覚えのある声……これはクレアか。
……って、ん!? クレア!?
「っ!?」
「きゃ……! お、おはようございます、タクミさん?」
「ワフー」
「にゃー? パパ、おあよー」
クレアがいる事に気付き、ガバっと体を起こす。
そんな俺の反応に驚いたのか、クレアが短い悲鳴を上げつつ、こちらを窺うように朝の挨拶。
クレアの横からベッドを覗き込むようにしていたレオからも、挨拶をするような鳴き声と、体を起こした俺の横からはリーザがまだ眠そうな声で舌ったらずな挨拶をされた。
えっと、えーっと……? クレアがここにいるという事は、朝で……今おはようって言っていたから、それは間違いない。
けどどうしてクレアがこんな朝から俺の部屋に?
前にもこんな事があったような……あれは、ギフトの過剰使用で倒れた俺が目を覚ました時で……いや、あの時は心配してくれていたからであって、ちょっと違うかも。
この屋敷に来て、ティルラちゃんがレオに会いにコッソリ来ていた時、探していたクレアが来ていたあの時とかか……。
って、今は以前の事を思い出している場合じゃなかった。
「お、おはようございます……? クレア」
「は、はい! おはようございます、タクミさん!」
首を傾げつつ、とりあえず朝の挨拶を返すと途端に表情を明るくさせたクレアが、もう一度おはようを返してくれる。
レオやリーザにも起きた直後の挨拶をして、寝ぼけたリーザを抱えてベッドから降りた。
「ほらリーザ、ちゃんと自分で立てるか?」
「んに……うん、らいじょぶー」
「そ、それでクレア。どうしてこの部屋に? えっと……今日は特に、何かやらないといけない事があったわけじゃないと思うけど……」
リーザがしっかり立つのを確認しつつ、クレアに聞いてみる。
今日もランジ村に行くための準備をする以外、特別な用は……ないはずだな、うん。
記憶を探ってみるが、クレアが朝から部屋を訪ねてくるような用事はない。
急な何かがあれば別だけど……。
「いえ、その……」
「リーザ様、お顔を洗ってきましょう。レオ様も一緒に」
「ワフ」
「あーい……」
俺の質問に視線を外し、言いよどむクレア。
同じく部屋にいたライラさんが、まだ寝ぼけ気味のリーザとレオを連れて朝の支度に出て行く……って、ライラさんもいたのか。
まぁ、いつも朝はリーザのためにゲルダさんと一緒に、起きるまで部屋の外で待機してくれているんだけど。
多分、クレアと一緒に入って来たのだと思われる。
「ライラに気を遣われました……」
「そうなんですか?」
ライラさん達が出て行った扉を見て、呟くクレア。
リーザと一緒にというのは、毎朝の事なので普段と変わりはないと思うんだけど。
「レオ様も一緒にでしたから。……レオ様にも同様に気を遣われたのかもしれません」
「レオが気遣いというのは……ないとは言い切れないか」
どう気を使ったのか、寝起きの回らない頭の俺にはよくわからないけど、ライラさんは当然ながらレオも時折気を遣う事が何度もあったか、否定はできない。
子供の時は、欲求に忠実だったんだけどなぁ……特に食欲。
これはまぁ、俺が拾った時の事に関係しているとは思うけど。
「それでえーっと……クレアはどうして、朝から? 俺の寝顔を見るため……とか?」
若干の恥ずかしさを覚えながら、冗談交じりに聞いてみる。
俺の寝顔なんて見ても、何もいい事はないと思うけど……。
「それも少し……あります。タクミさんの寝顔、無邪気な感じで可愛くて。ずっと見ていたい気もしました」
「え、ほんとに!?」
クレアから言われて、再び驚く俺。
いや、男の寝顔なんて……それも、子供じゃなく成人男性の寝顔なんて見ても何も楽しくないだろうに……。
しかも無邪気なんて言われたら、気恥ずかしさが沸き上がってしまう。
寝ている時は誰だって無防備なのは当然だし、寝顔は自分で同行できる事じゃないからなぁ……。
「あと、昨日の事で……」
「き、昨日の?」
驚いている俺に、頬をほんのり赤らめたクレアが少し視線をずらしながら言う。
昨日の事……と言って思い出されるのは当然、夜に告白した時の事。
まだ完全に頭がはっきりしたわけじゃないけど、思い出して鼓動が跳ねる。
「昨日はタクミさんの言葉を反芻しながら、床に就いたのですが……」
「それはそれで、恥ずかしいけど……」
昨日、俺が何を言ったのかは覚えている。
けど緊張もあって、全ての言葉をはっきり覚えているわけじゃない。
それを反芻しながらと言われて、さらに恥ずかしさが沸き上がる……顔が熱い。
「すみません……今朝起きた時、あれは本当の事だったのかと。私が見た夢の出来事だったのではないかと、思ってしまったんです。それで……プレゼントされた物を見て、『あぁ、夢じゃなかったんだ』と……」
「は、はぁ……」
クレアは恥ずかしがる俺に一度謝った後、今朝起きた時の事を話す。
俺がプレゼントしたネックレスは、今クレアの胸元で窓から差し込む朝陽を反射して輝いている……クレアの金髪も同様で、こちらも宝石のようだな……。
あと、寝起きのクレアさん……と、脳内で俺が初めてランジ村に行く前の、部屋でのお泊り会の翌朝を思い出したが、すぐに打ち消した。
今は邪な事を考えている時じゃないし、クレアに失礼だな――。
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