クレアと想いを通じさせる事ができました
「タクミさん? 私の言葉への返事は、ないんですか?」
少し拗ねたような、クレアの口調と視線。
これはつまり、そういう事で……はっ!
「えーと、えーっと……あ、ありがとう? 俺も、クレアの事が好き、だよ……」
「そこは、私をしっかり見て言って欲しかったです……」
「うっ……ごめん」
視線を逸らしながら、赤くなる顔を自覚しながらもなんとか言葉を紡ぎ出す。
真っ直ぐ見つめ返さなかった事を、クレアに咎められた……俺、情けないな。
「でも、タクミさんらしいかもしれませんね。だからこそ、さっきは後ろからだったんでしょうし」
全部、クレアにバレている気がする。
正面から言えないから、ネックレスを付けるのを口実に後ろを向いてもらったんだし。
まぁ、衝動にかられてあんな事をしてしまったけど。
「うぅ……情けなくてごめん。でもクレアは凄いね。こんな風にしっかり俺を見ながら言えるなんて」
「むぅ……」
「え?」
もう一度謝りつつ、俺にできなかった事ができるクレアを褒めたつもりなんだけど……なぜか頬を膨らませてしまった。
「……んっ、私だって……恥ずかしいんですよ? でも、タクミさんが先に言って下さったから。だからこうして言えたんです」
「そう、なんだ……」
膨らませた頬のまま、少し体をずらして俺の胸あたりに顔を埋めたクレア。
そうしながら言われた言葉で、クレアの頑張りを理解した。
少し前と同じように首元まで真っ赤になって、俺に抱き着いている体は少し震えているようだ。
……そうだよな、誰だって自分の気持ちを真っ直ぐ相手に告げるのは、勇気がいる事だ。
「そ、それで……先程のは私からタクミさんへの返事だったのですけど、タクミさんからはなにかないんですか?」
顔を俺の胸に埋めながら、精いっぱいの勇気を振り絞っているクレア。
その様子を見て、自分がやるべき事と言うべき事を理解する。
「ごめん……じゃないね。ありがとう、クレア。俺も、クレアの事が好きだよ」
「っ! タクミさん!」
謝るのは違うと思い、訂正して感謝をしながら優しくクレアの背中に手を回し、俺からも抱き締めながら囁くようにもう一度気持ちを伝えた。
その瞬間、さらに俺に抱き着く力を強めたクレア。
あれ? 今のこの状況って……? なんて唐突に色々な事に気付く。
気持ちをちゃんと言葉にして言えた事で、少し安心したのもあるかもしれない。
正面からクレアが抱き着いているわけで、そんなクレアのあれやこれやは俺の体に密着していると。
しかも、俺の方からも手を回して抱き締めているわけでもあって……。
さっきクレアは俺の体が少し硬いと言っていたけど、クレアの方は色々と柔らかくてなんというか、大変な事が起こっていると言うべきか。
「ふふ……先程もでしたけど、タクミさんがドキドキしています。タクミさんには申し訳ありませんが、この鼓動を感じると不思議と落ち着いて幸せな気分になれますね」
「……先程?」
「背中越しに、凄く激しい鼓動が伝わってきましたよ?」
なんだって!?
衝動任せにクレアを抱き締めた時、俺の心臓の鼓動が、ドキドキが伝わっていたのか!?
強く抱きしめていたのは俺だし、あれだけ激しい鼓動が背中越しに伝わっていたのは、よく考えると何も不思議はないんだけど……!
恥ずかし過ぎる!
「いつかは……できれば、近いうちに。今度はタクミさんが、真っ直ぐ私を見て言ってくれるのを、待っていますね」
「あぁ、うん。頑張るよ……」
自分の心臓の鼓動が伝わっていた恥ずかしさに、頭の中で悶えている俺に、もう一度抱き着く力を込めながら言うクレア。
俺の恥ずかしさとか、伝わってしまっていた事とか諸々全てが吹っ飛んだ。
今度は必ず、真っ直ぐクレアの目を見て正面から気持ちを伝えるよ……。
決心と共に痛がらないように気を付けながら、俺からもクレアを抱き締める力を強めた――。
「ワ…」
「キャ……」
「レ……様……! シェ……!」
「ん?」
「何か聞こえるような……?」
月明かりの下、二人で抱き合っている俺とクレアの耳に、何やら声と共にガサガサと言う音が聞こえてきた。
顔を巡らせてみると、茂み……というか、俺が作った庭園の花の向こう側が、かすかに揺れているような……?
「ワフー!」
「キャゥー!」
「「っ!」」
何かがいるのか……? と思った瞬間、草花の向こう側から声と共に飛び出す巨大な影。
急な事に、俺とクレアは身を寄せ合ったまま体を震わせる。
……って、この声!?
「レオ!?」
「シェリー!?」
「ワフ、ワフ!」
「キャゥキャウー!」
月明かりを反射する銀色の毛並み、聞き覚えのある鳴き声と共に飛び出して来たのはレオだった。
それと、小さい影が俺とクレアの足下に飛び込んできて、周囲を駆け回っている……シェリーのようだ。
「一体どうして……って、見てたのか!?」
「ワフワフー! ワフ、ワフゥ?」
「え……?」
「キャウー!」
「あっちに皆いるの、シェリー?」
俺達がいるテーブルや椅子のあるパビリオンの周辺を、グルグルと尻尾を振りながら回るレオ。
嬉しそうな鳴き声と共に止まり、首を傾げて出てきた場所の方を見る……シェリーの方も、クレアの足下で止まって、同じ方を見ている。
レオとシェリー共に、見ている方に皆がいると言っているようだけど……。
「……レオ様は止められませんでしたな」
「仕方ありません。私達の力で、レオ様を制止はできませんから。……タクミ様、クレアお嬢様、おめでとうございます」
「スゥ、スピー。むにむに……」
「セバスチャン!?」
「ライラさんも!? って、リーザもいるのか……寝ているけど」
レオ達の見ている方を窺っていると、そこから姿を見せたのは、セバスチャンさんとライラさん。
それと、ライラさんに抱かれて気持ち良さそうな寝息を立てているリーザだった。
苦笑しているセバスチャンさんの横で、寝ているリーザを抱いたまま祝福するように礼をするライラさん。
レオやリーザは、ライラさんにお願いして部屋にいるはずだったのに……。
リーザは夜だから、眠気に勝てなかったんだろう。
それはともかく、なんで二人はこんな所に……レオとシェリーもそうだけど。
って、考えるまでもなく、俺とクレアの様子を窺うためなんだろな――。
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