まずはちょっとした話から始めました
「私とですか?」
「うん、まぁ……」
首を傾げるクレアに、何を言うべきか頭をフル回転させて考える。
いきなりというのはどうかと思うし、ちょっとだけ世間話をしてからの方がいいかな?
決して、怖じ気づいたわけではない……そう、場を温めるためだな、うん。
「最近、あんまりゆっくり話をする時間がなかったような気がしてね」
「んー、そういえばそうですね。こうして二人で話すのは、久しぶりな気がします」
前回二人でゆっくり話したのはいつだろうか?
確か、ブレイユ村でレオやフェンリル達に料理を届けるためだったような気がする。
「最近はいろんな事があって、忙しかったからね……」
「フェンリル達の事や、ティルラの事もありました。こうして考えると、ずっと長くタクミさんと一緒にいる気がしますね?」
「確かに……」
よく考えたら、まだ俺はこの世界に来て数カ月程度しか経っていない。
けど、色々な事があったから、随分と長く過ごしている気すらする。
密度が濃かったって事なのかもしれない……のんびり暮らす、という目標とは別だけど。
でもそれでも、日本にいた時よりは体力的にも精神的にも確実に楽なのは、レオだけでなくクレア達がいてくれたおかげだ。
「ふふ、綺麗ですね」
「うん、そうだね」
クレアが庭園を見渡して呟く。
薄い明りの中、綺麗な花を咲かせている『雑草栽培』で作った花。
使用人さん達の手によって、整備された庭園周辺。
さらに雲一つなく吸い込まれそうな気すらする満点の星空……そして何より、それらを見て微笑んでいるクレア。
儚さすら感じるそれらは全てが綺麗で、今までの俺だったら絶対に気付かなかった物だ。
「あ、そうでした。ティルラの事、ありがとうございます」
ふと思い出した様子のクレアが、俺に向かって礼をする。
相変わらず、綺麗な礼だな……。
「……えっと、ティルラちゃんのって?」
「以前、ティルラがラクトスのスラムに向かった時、レオ様やフェンリル達と一緒にすぐに向かってくれました」
「そういえば、そんな事もあったね」
ラーレに乗って、突撃して行った時の事だな。
まさかティルラちゃんがあんな事をするとは思っていなかったけど、今考えるとエッケンハルトさんやクレアにも似た所があって、凄く血筋を感じたのを覚えている。
「タクミさんが迅速に対応してくれなければ、もしかしたらラーレが何かしていたかもしれませんし……」
「まぁ、ラーレもティルラちゃんに何かしようとする人がいなければ、大丈夫だろうけど。早く駆け付けられて良かったよ」
ラーレが暴れる事はないと思うけど、何かがあれば従魔にしているティルラちゃんの立場が悪くなっていた可能性はある。
街の人を襲う魔物を従えているとか、ティルラちゃんが襲わせたとか……人の噂は無責任だからな。
「それと、ギフトに関しても。タクミさんがいなければそもそも、ティルラが倒れた原因がギフトだってわからなかったと思います」
「そうかな? セバスチャンさんあたりが、すぐに見当を付けそうだけど……」
「でも、皆で原因を考えている時にもしかしたら? と疑ったのもタクミさんの事があったからです」
俺が倒れた時の状況と似ていたから、ギフトが原因では? という考えに至った。
予想ではあったけど結果的に正しかったわけで……俺が倒れてしまった事も、無駄じゃなかったのかもしれない。
まぁそもそも、俺やレオがいなかったらフェリー達も屋敷にいなかった可能性が高いわけで、ティルラちゃんのギフトが発現するのはもっと遅かったり、状況が変わっただろうけど、たらればだな。
「タクミさんがいて下さったから、ティルラがギフトを使えるようになっても、過剰使用しないよう注意してもらえましたからね」
「それはまぁ、ギフトを持つ者同士としてってのもあるかな」
「ティルラも、タクミさんを兄のように慕っていますし」
「ははは、それはティルラちゃんからも言われたよ。兄さまみたいだって」
「ティルラは私以外にも、兄弟が欲しかったようですから。遊ぶためでしょうけど、ふふ」
「はははは」
やっぱり姉妹だからなのか、ティルラちゃんの事をよくわかっているクレア。
兄弟が欲しい理由が遊びたいってのは、まさにティルラちゃん本人が言っていた事でもある。
でもほんと、楽しそうに笑うクレアは魅力的だ。
とりあえず俺にしては、かなりいい雰囲気にできているんじゃないかな? ほとんどクレアから話してくれているけど。
「それに……」
「ん?」
何やら俯き、言いにくそうにするクレア。
つい最近、というかさっき、似たような仕草を見た覚えがあるような……?
あぁ、リーザだな……リーザがもじもじしていたのと似ているんだ。
「もし私と……だったら、本当にティルラはタクミさんの妹に……」
「そうだね、ティルラちゃんは俺もそうだけどレオにも懐いているし、妹みたいで……んん!?」
「……」
モゴモゴと話すクレアの言葉に頷き、ティルラちゃんが妹というのを考えている途中で、内容に気付く。
何かを期待しているような、月明かりでもはっきりとわかるくらい、頬を赤らめたクレアが俺を潤んだ目で見あげている。
「えっと……」
これは、期待してもいいのか……? いやいや待て待て。
クレアが俺の事をどう考えているのか、直接聞いたわけじゃないけどなんとなくは察している。
俺の勝手な勘違いだったら、ただの痛い男だけど……セバスチャンさんを始めとした、使用人さんやエッケンハルトさんとの話でも、間違いないと思う。
でも、だからこそ、これまで待たせていたのもあって、ここはクレアに任せるのはいけないと思う。
男がはっきりしないと、というのは関係なく俺がそうしたい。
出会ってすぐの頃の、俺自身の鈍さも含めてこのままだと自分が情けなさ過ぎるからな。
リーザにもらったネックレスの飾りを握り、心を決める……パパ頑張るからな!
「タクミさん、その……本当は、ランジ村での事が落ち着いてからと考えていたんですけど……」
「……ちょ、ちょっと待ってクレア!」
「え……?」
思いが溢れて、という様子がよくわかるクレアがつっかえながらも俺に伝えようとする言葉。
それを手を差し出し、遮る。
止められた事に、一瞬にして絶望的な表情になるクレア。
大丈夫、そんな表情になる必要はないから……だから安心して欲しい――。
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