ハインさんに勘違いされました
「んー、そうなんだ。残念」
「リーザが欲しいなら、買おうか?」
「ううん、クレアお姉ちゃんにって言っていたから、なんとなくこれかなぁって思ったんだ。リーザは、落としそうだから……」
リーザも欲しいのかな? と思ったら、俺がクレアへプレゼントするためだってわかっていて選んでいたらしい、賢い。
ただ本人も言っている通り、陶器やガラス製の物を身近に置くと、割ってしまう恐れがあるのは確かだ。
何度か、大きな尻尾を当ててしまって、コップやお茶のカップをテーブルから落とした事があったりもしたからなぁ。
自分でそれがわかっていて、反省しているようだからやっぱり賢い。
いずれリーザが、もう少し二本の尻尾の扱いに慣れて物に当たらないようにしたら、プレゼントするのもいいかもしれないな。
「ははは、まぁ落としたら壊れちゃうからな。そうか、リーザはこれがいいって思ったのか……」
リーザの意見だし、尊重してやりたいけど……どうするか。
考えていたプレゼントとは違ってしまうけど、リーザから見るとクレアに合っているようだし、俺よりはそういったセンスがありそうだしなぁ……。
ん? どうしたんだろう、ハインさんが何故か口を開けてワナワナと震えているけど……トイレとかじゃ、ないよなさすがに。
「タ、タクミ様。クレア様にとリーザ様が仰られていたように聞こえましたが……?」
「え? あぁ、はい。クレアにプレゼントするための物を、こうして選んで買おうとしているんですけど……言っていませんでしたっけ?」
「聞いていません! 室内で花を観賞するため、花瓶が必要だとしか……」
震えるハインさんに頷き、花瓶を選んでいる理由を話してから首を傾げると、ブンブンと首を振られた。
そういえば、ハインさんには何故花瓶が必要かって説明していなかったか。
まぁ、あくまで雑貨店の店主と買い物客だから、わざわざ用途も話さないといけないわけじゃなし、買いたい物を言うだけで済ませてたんだな。
「クレア様への贈り物……タクミ様が……。ついに、ですな。これはめでたい!」
「え、は?」
「領内あげての慶事になりましょう! 私ハイン、しがない雑貨店を営む物ではありますが、是非とも相応しい物を選ばせて頂きますぞ!?」
少し俯いて、何やら呟いた思った瞬間、ガバッと顔を上げたハインさんは満面の笑み。
急にめでたいと言われても、なんの事かよくわからない。
よくわからず声を漏らしている間にも、何やら興奮したハインさんはウッキウキという言葉が、そのまま当てはまりそうな雰囲気で花瓶が並んでいる棚を凝視し始めた。
体も弾んでお腹も弾んでる……。
「えっと……どういう事でしょうか?」
ハインさんは花瓶を見るのに夢中で話を聞いてくれそうになかったので、近くに控えていた店員さんに質問してみる。
すると、俺がクレアに結婚を申し込むための品選びでしょう、と言われた。
……え? はぁ!?
いやいや待って待って、確かにクレアへの贈り物だし、気持ちを伝えるつもりだけど、さすがに一足飛びに結婚を申し込もうなんて考えていないから!
そんな、突拍子もないアンネリーゼさんみたいな事、俺は言わないから!
それにそもそも、俺がクレアに贈る物なのにハインさんが選んでどうするのか。
俺がそう想うだけだけど、こういうのは自分で考えて選んでこそだ……リーザの見つけた花瓶にしようか迷ったりもしたけど、それはともかくとして。
ある程度の商品をお勧めして、その中から選ぶのならともかくハインさんが選ぶのは何か違う。
「ハ、ハインさん! チョ、ちょっと待って下さい! 勘違い、勘違いですから!」
いっその事、店にある花瓶全てを贈り物に……なんて、既に選ぶ事すら放棄しかけているハインさんを慌てて止め、事情を説明した。
ハインさんと近くの店員さんは、とても残念そうだった。
俺とクレアがいずれ……といった噂話は、ハインさんだけでなくラクトスの関わりがある商人さん達の間では有名な話なんだと、その時に聞いた。
クレアだけでなく、俺も傍から見たら態度でわかりやすかったとか……誤解を解いた後、顔が真っ赤になってしまう災難に見舞われたよ、まったく。
……隠すつもりはなかったけど、そんなにわかりやすいのか俺。
「……ん? これは……」
ハインさん発端の混乱が収まった後、改めて落ち付いて花瓶選びをしていると、一つの物に目が留まった。
「これ、いいかもしれない……ハインさん、これ手に取って見てみてもいいですか?」
「もちろんです。どうぞご覧下さい」
ハインさんに許可をもらい、商品の花瓶を手に取って見てみる。
陶器でできた真っ白な花瓶は、リーザが見つけた物と同様に細長いが、それなりに大きさがあった。
口は大体、二十センチくらいか……筒型だけど、胴の部分が波打つような模様になっていて、これが目を引いたんだとわかる。
「シンプルだけど、むしろ花を目立たせるにはちょうどいいかもしれないな」
柄もなくシンプルな花瓶は、模様こそあれどただただ花を目立たせるためだけにあるようにすら思えて来る。
真っ白なのも、綺麗でいいな。
挿す花にもよるけど、花瓶が主張し過ぎない分ほとんどの花に合いそうだ。
「リーザ、これなんかどうだ?」
「んー? わぁ……」
ちょっと意見を聞いてみようと、棚を食い入るように見ていたリーザに花瓶を見せてみる。
すると、目を大きく開いて輝かせ、感嘆の声を漏らした。
うん、リーザも気に入ったようだし、良さそうと感じていた俺の感覚に間違いはないみたいだ。
自分のセンスにはあまり自信を持てないため、確認のためにリーザを使ったのは少し申し訳ない。
「……よし、これにします。ハインさん」
「畏まりました。ありがとうございます。では、すぐにお包み致しますので……」
陶器だから剥き出しのままだと危ないし、そのまま持って帰るわけにはいかないからな。
「はい、よろしくお願いします」
「クレア様が喜ばれるよう、派手に行きましょう!」
「そういうのはいりませんって! それに、その花瓶をそのまま渡すわけじゃありませんから!」
ハインさんに花瓶を渡し、包んでもらうのと一緒にお会計……と思ったら、プレゼント用に派手な包みにしようと言い出された。
再び慌てて止める……花瓶を使って花を挿して、それをプレゼントするんだから花瓶その物を派手に飾っても仕方ないからな。
あ、でも……胴の部分にリボンを結ぶのはいいかもしれない、かな?
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