森へ遊びに行くよう促しました
「魔物は……いますよね?」
「もちろんです。まぁ、最近はレオ様がよく来られる影響なのか、滅多に魔物が街に近寄る事はなくなりましたが。そういった他者の気配に疎いオークなどが、時折出て来るくらいですね。その際には、我々ですぐに対処しています」
当然ながら、魔物がいる森だ。
レオの気配を感じてか、魔物が街に近寄らなくなっているというのは初耳だったが……オークは来るのか。
まぁ、フェンリルの森の方へ行った時も、オークはレオやフェン達がいてもお構いなしだったからな。
衛兵さん達が対処した後は、おそらく街の食糧にでもなるんだろうけど……。
「オークって、もし狩ったら引き取ってもらえますか?」
「もちろんですよ。オークは食料になりますし、そうでない魔物でも近場で狩った魔物は、我々が引き取って適切に処理させてもらっております。オークであれば、買い取りもしますよ」
「買い取り……売る事は考えていませんでした」
そうか、食料として考えればオーク自体が取引されてもおかしくないのか。
街中には精肉店的な商店もあったし、食べられるのなら流通させるのもありか。
「なら、しばらくの間フェンリル達がオークとかを狩っても?」
「問題ありません。それどころか歓迎しますよ」
真面目な表情で頷く衛兵さんからは、本当に魔物を狩って来てもらえると助かる、という雰囲気が感じられる。
それなら、ちょっとやってみるのもいいかな。
「えーと……こっちのフェンリルは、伝令役として街に残って馬と一緒に。心配ないと思うけど、馬や人間を襲ったりしちゃだめだぞ?」
「ガウ!」
「他のフェンリルは、森に行って適当に遊んで来て欲しい。途中で魔物を発見したら、狩るのもよしだ」
「ガウゥ!」
二十体のフェンリルを五体と十五体に別け、少ない方を街で待機、多い方を森に放ってみる事にした。
ブレイユ村のフェルの事があるから、そこまで多くなくても森の魔物は簡単に狩れるだろうけど、街の許容量の問題だな。
待機する側も、森に行く側も特に不満はなさそうで吠えながら頷いてくれた。
「ただし、魔物を狩った場合は必ず持ち帰る事。持ち帰れないくらい多くの魔物がいたら……どうしましょう?」
「その場合は、衛兵に伝えて回収してもらいましょう。あまり多過ぎると、困るかもしれませんが……」
森に行くフェンリルに注意を伝えながら、途中で不安になったので隣にいるライラさんに聞いてみる。
すぐに解決策を答えてくれた……頼りになる。
「基本的には、持ち帰れない程狩らない事。あくまで、こちらから探すのではなく遭遇したら程度でいいから。もし、街の近くで危険だと判断した場合にしよう。あと、あまり森の奥に行かないように。俺達が街を出て戻る場合は、待機しているこっちのフェンリル達から、呼びに行かせる。いいかな?」
「ガウゥ!」
とりあえずやり過ぎないように注意しつつ、一応のルールを話して窺うと、フェンリル達は頷いてくれた。
むしろ俺からあれこれ言われるのが嬉しいのか、尻尾を振って表情も明るい。
その後、森に行っても散らばらないようにとか、伝令役のフェンリルが行ったらすぐに森から出るように……などなどを伝える。
レオの方は、街で待機する方のフェンリル達に注意というか、馬と仲良く……みたいなアドバイスをしていた。
「おぉ、速い。見慣れてきているけど、さすがだ。あと、やっぱり元気が有り余っていたんだろうなぁ」
「ワフワフ」
森へと隊列を組むようにしながら駆けて行く、十五体のフェンリル達を見送る。
フェリーが競争する時のような全力疾走ではないけど、どのフェンリルも遅れる事なくかなりの速さで森へと駆けて行くのはさすがとしか言いようがない。
まぁ、レオはまだまだと言うように鳴いていたけど。
シルバーフェンリルとフェンリルは、そもそも種族が違うんだからな?
「タクミ様、お待たせしました」
「パパ、皆おとなしくしてたよー」
フェンリル達を見送る俺達のもとに、厩で待機するフェンリルを案内してくれていた、ライラさんとリーザが手を繋いで戻ってくる。
やっぱり、リーザは一番ライラさんに懐いている気がする……俺やレオと離れるのに、ライラさんとなら気にしていない様子だったし。
「それじゃ、行きましょうか」
「はい」
「はーい」
「ワフ」
合流してラクトスに入り、目的の場所へと向かう。
一番の目的は走って体を疲れさせる事だけど、ちゃんとラクトスの中にも目的がある。
まずは、目当ての物があるか探すため、ハインさんの雑貨屋だな――。
「そういえばライラさん、屋敷からラクトスまでどれくらいかかっていましたか?」
街に入り雑貨屋を目指して歩きながら、ふとライラさんに聞いてみる。
昼過ぎに出発したけど、到着した今も日はそれなりに高いままで、暮れる様子はない……多分おやつの時間を少し過ぎたくらいだと思う。
「一時間と半分くらいでしょうか」
「……思っていたよりも、速く走っていたんですね」
かなり速いペースを維持していた自信はあるけど、そんなに早く到着したのか。
「はい。走り始めた頃は、平常時に走らせる馬と変わらないくらいに見えました」
「そうですかぁ……」
屋敷とラクトスの距離が、推定で十五キロだとしたら平均で大体時速十キロ以上といったところか。
マラソン選手に近いくらいの速度で走れていたようだ……もう同じ事はやりたくないけど。
短距離の全速力ならもちろんもっと速く走れるけど、考えていたよりも速く長く走れたのはいい事だ。
この世界に来た頃の俺なら、運動不足だったから途中でぶっ倒れていただろう。
まぁ、馬はやろうと思えばもっと速く走れるんだけど……確か人を乗せての最高速が、七十キロとかだったっけ。
ただその場合は数分間しか走れないし、サラブレッドだからこちらの馬と同じように考えちゃいけないだろうけど。
長距離移動を目的としている、こちらの馬の方が最高速はまだしも持久力って意味では上かもしれないし。
速度も持久力も馬より優れているレオやフェンリル達は、もはや反則と言っていいと思うんだ――。
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