フェンリル達も付いて来たいようでした
「……ふわぁ、目が回るのよう」
「ワフ、ワフワウ!」
「わ、わかったわよう。おとなしくしているわよう」
「結局、そこで落ち着くのか。まぁいいけど」
何度か跳ねてようやく落ち着いた後、ふよふよと定まらない動きで浮かぶフェヤリネッテ。
上下に体を跳ねさせられたせいで、目が回っているらしい。
そんなフェヤリネッテを叱るように鳴くレオは、もう少しおとなしくと言っているようだ。
仕方なさそうに口を尖らせながら、フェヤリネッテは再びレオの毛の中に入り込んだ……いるとわかっているのに、レオの毛と同化してほとんど見えないな、姿を消しているわけでもないのに。
ちなみに、見えなくなる能力に関しては、フェヤリネッテ自身からも他の事がぼんやりとしか見えなくなる、という副作用のような影響もあって基本的には使わない事になっている。
「ちょっと予定とは違ったけど……んっ、よし! それじゃラクトスに向かって出発だ!」
「ワフー!」
「はーい!」
セバスチャンさんに続いて、フェヤリネッテに威勢を削がれてしまう形にはなったけど、気を取り直して……改めて準備運動代わりに軽くストレッチをして、ラクトスに出発するためレオ達に声を掛ける。
威勢の返事と、ライラさんの頷きと共に、ラクトスへ向かって走り出した。
「あ、レオ。さすがに速過ぎて付いていけないなんて事になるといけないから、速度は程々にな? ちょっと早めに歩くくらいがちょうどいいかも」
「ワフゥ……」
走り出しながらそんなお願いをレオにして、溜め息を吐かれてしまった。
いや、全速力なら馬程じゃなくても、それなりに速く走れるけど……ずっと全速力を維持なんてできないし、レオがちょっと速めに走れば俺なんてあっという間に置いて行かれるからな。
これからするのは短距離走じゃなくて長距離走、マラソンなんだから最初から飛ばし過ぎてもいけないんだから――。
――レオに溜め息を吐かれながらも意気込んで、いざラクトスへ……と思ったんだけど、その足は屋敷の門を出たところで止まった。
何故かというと……。
「……なんでフェンリル達が、綺麗に整列しているんだ?」
門の外では、敷地外に滞在する事になっているフェンリル達が、横四体の五列……計二十体が、訓練された兵士さんのように乱れず整列していた。
まぁ、直立不動とかではなくお座りしているんだけど。
「ワフ?」
「どうしたのでしょうか?」
「皆楽しそうだよ?」
レオが首を傾げ、乗っているライラさんやリーザも不思議そうにその光景を眺めている。
って事は、レオが何かやらせたわけではないんだな……そんな暇はなかったのはわかっているけど。
「ハッハッハッハ……ガウゥ?」
全てのフェンリルがお座りした状態ながら、尻尾をブンブンと振って先程リーザが言ったように、嬉しそうにしている様子。
先頭列の四体は特に、舌を出して短い呼吸を繰り返しているし……これはレオもよくやるけど、興奮していたり嬉しい事や期待している時の仕草だな、暑くて舌で汗をかくためって場合もあるけど。
フェンリル達の表情からは、暑いとかではなく何かを期待しているようにも見える。
「皆尻尾を振っているし……えっと? リーザ、すまないけど」
「うん、わかったー。えっとね……」
リーザに頼んでフェンリル達の通訳をしてもらうと、なんでも屋敷に来た時フェンやリルルから、ここではお散歩という行事があると聞いたらしい。
誰か人を乗せたり、屋敷に近付きそうな魔物を発見して倒したり、走り回ったり……と。
走り回る事以外は、通常のお散歩とはかけ離れている気がするけど、慣れてもらうために人を乗せるとかは俺がやり始めた事だからな。
ともかく、それが楽しそうでしかも俺がレオを連れて出てきた事から、もしかしたら一緒に連れて行ってくれるかもと思い、並んだのだそうだ。
門を見張っている護衛さんに聞いてみると、ほんの少し前に凄い勢いで並び始めたんだとか。
少し前って事は、俺が屋敷から出てきたくらいか……多分、匂いや音、レオの気配なんかを察知したんだろう。
護衛さんは、何が起こるのかよくわからず戸惑っていたらしいけど、俺とレオが来たのを見て納得したらしい。
……それですぐ納得って、変な理解のされ方をしているような?
「んー、どうするか……散歩ってわけじゃなかったんだけど……」
「グル……? キューン……」
「あ、いや、えっと……」
「皆さん、期待していたようですね」
「残念そうにしてるー。かわいそうかも」
「ワフゥ」
俺が悩んで散歩じゃないと口にすると、それを聞いたフェンリル達が一斉に尻尾を垂れさせ、鼻先を地面に向けてしょんぼりした。
勝手に期待されていたようではあるけど、こんな様子を見せられると弱いな……。
「わかった。言っておくけど、人を乗せたり思いっ切り走ったりはできないからな? それでもいいなら、ついて来ていいぞ」
「グルゥ~」
「タクミ様、凄いですね……フェンリル達がタクミ様の言葉で、一喜一憂しています」
渋々ながら連れて行く事を決めると、一斉に沸き立つフェンリル達。
尻尾も、さっきまでよりさらに激しく振られていた。
その様子を見ていたライラさんには、変な感心をされてしまっているけど……そんなに凄いと言えるのか微妙なところだ。
これじゃ、気高く強い魔物であるはずのフェンリルというより、完全に飼い犬と変わらない気がする……本当に、野生ってなんなんだろう?
「いやぁ、なんというかこれで褒められてもと思うんですけどね……。――レオ、ちょっと護衛さんと話すから、レオからも一応注意するように言っておいてくれ。あくまで、今回は散歩とかではなくて俺が走るのが一番の目的だから」
「ワフ!」
「私も手伝うよ、ママ!」
レオにそう言って、俺は護衛さん達の方へ。
今回の目的は俺が疲れ切るくらい走る事にあるから、フェンリル達が満足するような、運動と言える程の速度は出さない、というか出せない。
それに関する注意をしてもらって、それでもついて来るフェンリルだけを連れて行く事にした。
拒否するフェンリルは、いなさそうだけど――。
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