妖精と話しをしました
「妖精が人の子供に興味をそそられるからだって、考えているわよう? 詳しくは、私が生まれる前からの事だし、よくわからないのよう。子供の気持ちが純粋だから、という説も妖精の間ではあるけど……定かじゃないわね」
加護契約が子供としかできない理由を聞いたら、あまり頼りにならない答えが返ってきた。
まぁ、昔の事過ぎてどうしてその加護契約の条件ができたのかとか、誰かの意思が介在しているかはわからないのも仕方ないか。
従魔契約も、似たようなものだし。
ちなみに、契約とは関係ないけど体がモコモコした被毛に包まれている理由も聞いてみたが、妖精自身もそういうものだからとしか答えられなかった。
まぁ、どうしてそんな体なんだ? と言われても、わかるわけないか。
ただ結構な衝撃吸収ができるようで、コッカーのついばみも特に痛くはなかったんだとか。
あとクレアが被毛の内側を覗こうとしたら、「エッチ!」と顔を赤らめて俺の背中に隠れたので、人間で言う服に近い役割もあるんだろう。
申し訳なさそうに謝るクレアと、プンスカしている妖精がちょっと面白かった。
「そういえば、契約した事をゲルダさんは忘れていたようだけど?」
「そういう内容になっているのよう。妖精の長老が言うには、その瞬間の記憶や契約に至る経緯を、私達妖精がもらっているだろうって事みたいなのよう」
「記憶や経緯をエネルギーにしている、と考えていいのかな?」
「エネルギー? えっと、活動力や妖精の力になるって、長老は言っていたわよう?」
「ふむ、つまりゲルダさんと契約する時、その記憶や経緯を受け取る事で成立させた、という事ですか……」
どういう仕組みかはわからないけど、とりあえず妖精と契約するとその瞬間の記憶や経緯を忘れてしまうって事らしい。
記憶に関しては、契約する時や妖精を見た事に関してっぽいな……経緯とかは、妖精が契約しようとか接触しようと思うに至った、子供の感情とかかもしれない。
ゲルダさんの場合は、料理を突き返された事への悲しみ、とかかな。
そちらは完全に忘れるわけじゃないから、少し思い出そうとするだけでゲルダさん自身も突き返された時の事を思い出したみたいだけど……悲しかった事とか、薄れさせてくれていたのかも。
だから、執事さんとの話もすんなり終わったとか……考え過ぎか。
かなり前の事だから、単純にゲルダさんが気にしなくなったってだけかもしれないし。
「姿を消す事ができる能力に関してですが」
「あれねー。人から見えないようにするわけだけど、便利なようで不便なのよう」
「ほぉ、それはどういった……?」
完全に見えなかった妖精の姿。
それは妖精特有の能力みたいだけど、その使い勝手はあまり良くないらしい。
ずっと姿を消していても、魔力やギフトみたいに力を消費して疲れたりする事はないらしい……こう聞くと便利なだけの能力に聞こえる。
けど実際、姿を消している時は妖精自身からも周辺の様子が把握しにくくなっているとか。
どう把握しにくいのかは、妖精の言葉からはあまりよくわからなかったけど……ぼんやり見えるような見えないような? とか言っていたくらいかな、わかるのは。
極度の近眼になると、俺は納得する事にした。
そのせいで、ゲルダさんを怪我させないように注意を払う事はできても、その行動が本当に助けになるのかどうかまではわからなかったんだそうだ。
だからとりあえず、なんとなく男が近いと思ったらゲルダさんにちょっかいを出そうと決めていたんだとか。
「どうして、それでゲルダに失敗させるのに繋がるかわからないわね……」
「だって、失敗すれば男はゲルダに近付きたくならないでしょう? 男が近付かなければ、前みたいにゲルダが悲しむ事にはならないのよう」
「……それで、別の意味でゲルダさんを悲しませていたわけだけど」
「うっ! そ、それは……価値観の相違?」
頭を押さえながら呟くクレアに、妖精が独自の理論を展開。
ある意味確かに価値観が違うからかもしれないが……ともかく、ゲルダさんとはよく話し合ってもらう必要があると思う。
そうして、妖精と話をしながらしばらく過ごした後、フェンリル達の寝床などの準備が終わり、レオとフェリーが誘導して案内した。
何故か、レオの背中に俺とリーザ、その後ろにフェリーが付き従うような形の案内だったけど……。
ちなみに、フェンリル達の寝床は厩のように屋根がある所は別として、裏庭はフェリー達が使っている雨除けの布が張られた場所をさらに拡張させた寝床だ。
屋敷の外では布を継ぎ接ぎした、かなり大きな物をタープのようにして雨除けを作っている。
さすがに外で暮らしていたフェンリルだからって、雨ざらしにしていいわけじゃないからな。
俺やリーザ、レオは先頭にいたからわからなかったけど、大量のフェンリルを引き連れる姿は後々に語り継がれるだろう伝説になる。
なんて、ヴォルターさんが言っていたとかいなかったとか……。
翌日、フェンリル達が問題なく過ごしている事を確認したり、ランジ村への準備を進めたりした後の昼過ぎ。
アルフレットさんから、暇をしている使用人さんを客間に集めたと報告があったので、そちらに。
暇をしているというか、予定が空いている使用人さんだろうけど。
「……えっと、ちょっと多くないですか?」
客間に入って、集まっている人達を見てアルフレットさんへの第一声。
パッと見ただけでも、三十人くらいはいるんだけど……フィリップさんやヨハンナさんを始めとした護衛兵さんや、ヘレーナさんを含めた料理人さん達も何人かいるし。
十人でも多いくらいで、俺やアルフレットさん以外に五、六人くらいでの相談を……と想像していたのになぁ。
ちなみに、客間の端の方ではレオとリーザがいたりもする。
「皆様、タクミ様の用件に興味がある……いえ、タクミ様とクレアお嬢様に興味があるようでして。声を掛けたらすぐに集まってしまいました。私としましても、タクミ様に言われておりましたので、全力で集めたつもりはないのですが……それだけ、暇な者が多いのでしょう」
俺の言葉に、溜め息を交えながら答えるアルフレットさん。
昨日、お願いする時は意気込んでいたけど、ちゃんと加減はしてくれていたみたいだ。
それでも、予想以上に集まってしまったみたいだけど。
もし全力で集めたら、屋敷の使用人さん達全員が集まる気がしてしまうのは、考え過ぎか――。
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