妖精は落ち込んでいました
その他、別の群れもそれくらいの規模である事が多いとフェリーから聞く……人間からすると、異次元の戦いをするフェンリルが百体単位で群れを形成とか、セバスチャンさんが驚くのも無理はない。
大抵、人間に近付かないように森の奥で暮らしていて、森に入った命知らずと遭遇するのは群れから離れたりはぐれたりしたフェンリル、またはフェン達のように何かしらの考えで別行動しているフェンリルだとか。
単独でも、人間が数人程度で遭遇したら命の危機だ。
まぁ、フェンリルからは俺やレオからとして、人間を襲わないようにお願いしているから、遭遇しただけでは危険がないけど……あくまで森の東側、屋敷に近い部分を縄張りとしているフェリーの群れはだが。
ただ、レオが何度か森に入りシルバーフェンリルの気配をまき散らしていたので、他の群れがこちら側に近付く事もないだろう、とフェリー。
フェリー達の群れもレオが俺達と森に入った時には、さらに奥まで逃げていたらしいからな。
森全体ではともかく、少なくとも公爵領ではフェンリルによる事件の可能性は低いのだそうだ。
一応、フェルのように一匹狼よろしく、群れに入っていない個体もいるらしいから、絶対にあり得ないとまでは言い切れないけど。
「本来、強大な力をもつ種族は小規模ならともかく、大規模な集団を持たないものなのですが……これは良い話を聞きました」
など、フェンリルの群れの話は、セバスチャンさんの知識欲をいい感じに刺激したみたいだ。
そうした知識的な話とは別に、これだけの数のフェンリルがいるなら、駅馬の話をもっと早く進めても良さそうだとも言っていた。
試験的にラクトス周辺でやるから、駅の数自体は多くないし……全てにフェンリルが常駐している状況を作り出せるだろうとも。
そんな話をしつつ、別れたフェンリル達を待つフェリーとセバスチャンさん、その他数人の使用人さん……今も側近フェンリルを撫でているチタさんやシャロルさんを置いて、俺はクレアと共に料理をしている簡易竈の方へ移動。
「そういえば、ゲルダはどうでしょうか? あの子のドジは、微笑ましい事が多いのですけれど……どうにか治せないかと、セバスチャンと頭を悩ませてもいました」
「あぁ……えっと、解決とまでは言えないけど、原因が判明したんだった」
リーザとティルラちゃんを乗せたレオ、フェンリル達と一旦距離を置いて安心しているアルフレットさんと一緒に移動しながら、ふと思い出したようなクレアに聞かれて思い出した。
そういえば、フェンリル達は一部の怯えてしまった人達の事を除けば問題はなかったけど、妖精という大きな問題を抱えているんだ。
「ワフ、ワフワフゥ……」
俺の言葉に、レオはやっぱりと言うように鳴いて、溜め息を吐く。
レオは知っていたんだもんな、妖精の事を考えると溜め息を吐くのも無理はないのかも。
それにしても、ゲルダさんのドジはセバスチャンさんやクレアさんの頭をも悩ませていたのか。
まぁ、公の場で大きな失敗はしないけど、その代わり何もないはずの所で失敗をしてしまうからなぁ……何もないのに、廊下で転んだりとか。
「原因、ですか。ゲルダに何かそういった、原因のようなものが?」
「ゲルダさん自身に原因があった、というわけじゃないんだけどね。まぁ、見てもらえばわかる……いや、むしろ戸惑うかもしれないけど。とにかく、ゲルダさんの一部の失敗には外的な要因があったみたいなんだ」
「そ、そうなのですか……タクミさんがそこまで言うのでしたら、覚悟して見に行きましょう」
むん! と胸の前で両手の拳を作って気合を入れるクレア……ちょっと可愛い。
でも、あの妖精に関しては、気合を入れていても戸惑ったり驚いたりすると思う……見てもらう方が早いし、説明している間にもゲルダさん達がいる場所に到着するから、省いたけど。
「……」
「それでえっと……これは一体?」
「あ、タクミ様、クレアお嬢様も……」
ゲルダさんやライラさん達が集まっている場所に戻ると、調理台に手を突いて項垂れている妖精がいた。
ゲルダさんは苦笑しながら、俺とクレアに軽く一礼。
俺が離れる前までは、結構得意気にゲルダさんの事を話していたのに、いない間に一体何があったのか。
隣では、クレアが「あれが妖精……モコモコしていますね」と呟いている……俺が見た時と同じ感想だな。
「ゲルダのこれまでの失敗と、妖精の所業を照らし合わせていたら、こうなりました」
「う、うぅ……ゲルダちゃんの邪魔をしたいわけじゃなかったのよう……」
ライラさんから理由を教えられたけど、照らし合わせたって事は、これまでの失敗のどれが妖精が影響していたのかって話だと思う。
項垂れてまさに全身で落ち込んでいるという恰好の妖精は、何やらブツブツと言っている。
聞けば、妖精としては今一番ゲルダさんに近い男……つまり俺が近付いた時などに、ちょっかいを出していたらしい。
そうして、ゲルダさんのドジが色々生まれたとか。
早い話が、以前のように男と近付いたゲルダさんが、傷付く事がないようにしていたつもりだったと。
ゲルダさんの邪魔をするつもりはなく、むしろゲルダさんを応援する気持ちだったみたいだけど、まぁ、俺達人間側からしたら本人も含めて邪魔でしかなかったように思う。
ちなみに俺だけでなく他の男も対象で、そのうえ妖精と出会う要因となった料理に関しては、誰かと関わらなくても、失敗するようにしていたとか。
ゲルダさんが料理を完成させる事は、つまり以前のような傷付く何かが起こるかもしれない、と考えて警戒していたためだ。
「け、怪我をしないようには、ちゃんとしていたのよう?」
「……そういえば、ゲルダさんが転んだりしても怪我をする事はなかったけど」
ドジっ子特有の、変な方向への幸運だと思っていた。
一応妖精はゲルダさんが怪我をしないよう、ちゃんとフォローはしていたらしい。
「それでも、転んで鼻を打って痛かった事もあったんですけどね……」
「そ、それは……転んでどこも打たないなんて、不自然でしょう? だからなのよう」
苦笑するゲルダさんに、さらに落ち込む妖精。
俺が見た場面だけでも、結構勢いよく転んでいる事もあったから、確かにどこも打たないなんて不自然過ぎるんだが……。
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