大きな失敗の原因が判明しました
「俺がゲルダさんの近くにいる時、妙に失敗が多かったのってもしかして?」
「私、頑張ったのよう!」
「えぇ!?」
「もしかしなくても、今までゲルダさんがよくドジを頻発させていたのって……」
「全部……? いえ、全部じゃないわね。でも、私が頑張った成果ね!」
自信満々に上体を逸らす妖精さん。
ただ、手足と顔以外はモコモコに包まれているため、ただ上を見ただけにしか見えない……手もモコモコに当てているけど、もしかすると腰に手を当てている状態なのかもしれないな。
……どこが腰なのか、全然わからないけど。
「えっと……それじゃもしかして、これまで私が気を付けても失敗していたのって……?」
「ふふん、感謝するのよう。私のおかげで、これまでゲルダちゃんに近付く男は少なかったのよう! さすがに、シルバーフェンリルの手前、そこの男……タクミだったかしら? そっちには、やり過ぎないようにする必要があったのよう」
「ゲルダさんのドジは、この妖精が原因だったのか……」
何かしら原因があるかも? と考えなくはなかったけど、本当に外的な要因があったとは……。
妖精って、イタズラをするイメージがあるけど、目の前にいる妖精もその類なのか。
いや、妖精自身はイタズラじゃなくて、自分が活躍したと言いたげだから違うのかもしれないが。
「えっと、そもそもにどうしてゲルダさんに男を近付けないように?」
「だってゲルダちゃんは……」
どうしてそうしたのか、妖精がゲルダさんを守るようにしていたのは何故なのか……実際には、守ると言うより邪魔をしていただけにしか見えないが、それはこちら側の視点。
妖精からすると、守っているつもりだったんだろう。
話を聞くと……以前ゲルダさんは、孤児院にいた頃気になる男の子がいたらしい。
その男の子に自慢の料理を食べさせようとして、指に切り傷を作りながらも頑張って美味しい物を作ったんだとか……多少のドジは、妖精が原因ではなく元来のものらしい。
だけどその料理を渡した男の子は、それを一切手を付けずゲルダさんに突き返したのだとか。
……思春期の子供にありがちな、からかわれて素直な態度を取れなかったってところだな。
ゲルダさんはその時の事を妖精に言われて思い出したらしく、男の子が周囲にからかわれて照れて恥ずかしかったからだろうとか、自分が他の子達がいる前で渡したのが悪いとか、そもそもに私なんかが料理を作ったところで……みたいな事を言っていた。
十代も後半に差し掛かると、恥ずかしいよりもむしろモテる喜びが勝る事が多いが……十歳前後で、特に男の子にはよくある事と言えるのかもしれない。
俺も多少覚えがある……いや、さすがに手料理を突き返すような事はしていないし、そもそも手料理を振る舞ってくれる程モテた事もないが。
おっと、俺の話は今どうでもいいな。
「それで?」
「その時にねぇ、不憫にも皆の前で転んだのよ、ゲルダちゃんは」
ゲルダさんの事をちゃん付けで呼ぶモコモコした妖精……口ぶりから、ゲルダさんを妹分のように感じているのかもしれない。
その妖精によると、ドジをしてしまうのは生まれた時からの性質らしいけど、不運にも男の子に料理を突き返された時に発動。
そして、せっかく心を込めて作った料理を全て床にぶちまけた挙句、ゲルダさん自身も怪我をしてしまったらしい。
「そういえば、以前そのような事があったのを記憶しています。私が、手当てをした事も」
「はい……その傷は、今も残っていますから……よく覚えています」
ライラさんがゲルダさんに手当てをしたようで、間違いない出来事だと保証してくれた。
残っているというその傷は、料理を乗せた陶器のお皿が割れ、その一部が腕に刺さったのだけど……それが結構深くまで刺さったため、跡が残ってしまったんだとか。
服の袖を捲って見せてくれたけど、肘の少し上あたりに一センチにも満たない傷跡が確かにあった。
そうして、怪我や台無しになった料理、さらに男の子に突き返された心の傷などなどが相俟って、大泣きしていたゲルダさん。
一連の流れを、偶然孤児院の近くに来て見ていた妖精が、興味を持ってゲルダさんに近付いた、というのが最初の出会いだとか。
「どうして、孤児院の近くに?」
「私達妖精族は、子供が大好きなのよう。だから、基本的には平和な場所の子供達の所に、よく様子を見に行っているの。ほとんど、見るだけで終わるんだけどね」
「でも、ゲルダさんの時はそうじゃなかったと……」
妖精は子供を……まぁ、俺の知っている妖精感からすると、ない話じゃないか……地球での考えだけど。
平和な場所って事は、スラムのように治安の悪い場所には近づかないって事の意味でもあるだろう。
あと、孤児院が健全に運営されていたからってのもあるか、子供同士の喧嘩とかはあるだろうけど。
ともかく、妖精は泣き続けていたゲルダさんを不憫に思って、契約をしたらしい。
曰く、男を近付けずゲルダさんを傷つけないように守ると……契約と聞いた時は、従魔契約かと思ったけどそれとはまた違ったものらしい。
妖精族が子供とやる特殊な契約で、強制力とかどちらかがどちらかに従うなどの制約はなく、口約束に近いものなんだとか。
「でも、私はそんな契約をした覚えは……その時の気持ちとか泣いていたのは覚えていますけど……」
「妖精の事は、あまり人間に知られないようにって決まり……掟? があるのよう。だから、契約する時に私が姿を消す事で、ゲルダちゃんは忘れるようになっているのよう。でも、今私が現れたから、少しずつ思い出して来ているはずよう?」
「……言われてみれば、おぼろげながら? いえでも、妖精と会った記憶はまだ……」
「そこはまぁ、しばらくすれば思い出せるわよう?」
口約束とはいっても、そこは契約……何かしらの効果がゲルダさんに現れているらしく、妖精が姿を見えなくする事で出会った記憶を失うトリガーみたいなものが、仕込まれていたって事みたいだ。
そうして、姿を見せない事でゲルダさんを守る……つまり、陰から補助して助けるように動いていたってわけか。
その補助が、ゲルダさんのさらなるドジに繋がっていたってわけだな――。
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